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補充兵

「俺はすぐに戻ってくる。それまでお前がしっかり戦車隊をまとめておけよ。俺がいない間はゲッハ中尉が戦車隊の指揮官ということになるが中尉は戦車のことを良く分かってない。皆が頼りにするのはお前だ。頼むぞ。フランツ。」

「分かりました。大尉の代役はなかなかこなせるとは思えません。ですが目一杯出来ることをやってみます。」

「うむ。頑張れよ。それと新たに補充兵も来る。そいつらにもいろいろ教えてやってくれ。じゃあな。」

先の戦闘で負傷したバウアー大尉は治療の為一旦後方のコノハ族の村へ運ばれることになった。担架の上に寝かされた大尉と僕は敬礼をして別れ大尉はそのままトラックに乗せられて移動していった。僕が大尉を乗せたトラックの後ろ姿を見送っているとそこへシラー少将が通りがかり僕に話しかけてきた。

「物凄い戦果だ。派手にやったな、マイヤー少尉。敵基地占領が出来たのもバウアー大尉や君のお蔭だ。よくやってくれた。ありがとう、少尉。」

シラー少将はそう言うと僕に握手を求めてきた。僕は少将にそんな風に話し掛けられるのは初めてだった。僕はすこし戸惑いながらも少将と握手をした。

「落ち着いたら今度は俺がバウアー大尉の代わりに美味いワインを飲ませてやる。それまで死ぬことは許さんからな。」

少将は笑顔で僕にそう冗談を言って立ち去った。その後僕は砲兵隊や歩兵隊の各指揮官と占領した敵基地の防御体制をどう構築するかということについての細かい打ち合わせが続いた。大尉が不在なので早速僕が代役を務めたのだがそのお蔭でその日はナウマンの死を悲しむ暇はなかった。打ち合わせが終わる頃にはもう夜になっていて僕はクタクタに疲れて眠ってしまった。


次の日は補給部隊のトラックが到着したこともあって早朝から戦車隊は補給作業を行っていた。僕は自分の四型戦車に砲弾を運んで積み込みハンスとオッペルは給油作業をしていた。重たい砲弾を運んでいるとつい力自慢のナウマンを思い出す。僕は誰にも気付かれないように涙ぐんだ目を拭いながら汗だくになって75mm砲弾を運んでいた。だがその時ふと僕がハンスとオッペルの方を見ると二人は泣きながら四型戦車にガソリンを給油している。二人は僕よりもはるかにナウマンとの付き合いが長いのだ。僕よりもっと深く悲しんで当然だろう。僕は泣いている二人には何も声を掛けなかった。

「あの〜、フランツ・マイヤー少尉はいらっしゃいますでしょうか? 」

突然僕は背後から声を掛けられた。振り返ると気が弱そうで痩せてひょろっとした若い兵士が立っていた。

「俺だが何か用事か? 」

「自分はイーヴォ・ブライテンバッハと申します。本日付けで第七装甲師団に配属となりました。宜しくお願いします。」

その若い兵士は黒い戦車兵用の軍服を着ておりそう言うと僕の前で敬礼した。だが緊張しているようで声も小さくどこかおどおどしている。僕はイーヴォに聞いた。

「君が補充兵か。話は聞いているぞ。担当は何だ? 」

「一通り出来ますが砲手希望であります。」

「実戦の経験は? 歳はいくつだ? 」

「ありません。十八歳であります。」

「戦車兵の訓練を受けてどれぐらいになる? 」

「半年間戦車学校で基礎を学びました。」

イーヴォはおどおどした態度を取っているが真面目で素直そうに見えた。僕も初めて戦車に乗った頃はこんな感じだったなと思うと僕は急に彼に親近感を抱いた。そして僕は彼をリラックスさせてやろうと思い笑顔で話しかけた。

「分かった、イーヴォ。だがこれからの実戦は厳しいぞ。辛いことも山ほどある。一緒に乗り越えていこうな。取り敢えずこのくそ重たい砲弾を一緒に運んでくれ。」

「はい! 」

イーヴォはそこで初めてすこし笑った。そしてイーヴォが僕と一緒に砲弾を運ぼうとしたその時だった。

「あ! 新兵をいきなり虐めてちゃ駄目っスよ! 」

また背後から声を掛けられた。でも今度の声とその独特の喋り方には聞き覚えがあった。僕は振り向くと大声を出していた。

「ペットゲン! 」

「へへ、少尉、久し振りっス。」

背後に立っていたのは僕が第七装甲師団に転属する前に一緒に戦車に乗っていたペットゲンだった。カーソン教にまつわる一連の出来事で僕は転属させられたが彼はそれまでずっと一緒にいた仲間だったのである。

「ハハッ、どうした? 前の部隊は追い出されたのか? 」

「こんな出来る男が追い出される訳ないっスよ! 真面目な話一月前に負傷して入院してたっス。怪我が治ったらいきなり転属だって言われてここに配属になったんスよ。」

彼もまだ十八歳だが以前より顔立ちが引き締まっているように見えた。おそらく厳しい実戦を何度もくぐり抜けたのだろう。そして僕は彼と一緒にチームを組んでいた他のメンバーのことを思い出した。

「バルクマンやヒューブナーはどうしてるんだ? 元気か? 」

「あの二人は死んでも死なないっスよ! 入院してからは分からないっスけど元気な筈っス。少尉も元気そうっスね。」

それを聞いて僕は安心した。同じ釜の飯を食ったあの二人の元気な姿を想像すると自分にも活力が湧いてくるような気がした。

「取り敢えず手伝うっス。俺も砲弾運ぶっスよ。」

ペットゲンとの再会は僕にとって予期せぬ嬉しい出来事だった。それはナウマンの死の悲しみをかなり和らげてくれるものだった。


ペットゲンは僕の四型戦車の補給と整備を手伝ってくれた。他の部隊も歩兵は塹壕を掘り、砲兵は野砲や重砲を設置し、整備兵は破損した戦車を修理し、と皆大忙しだった。だがそんなバタバタしている時に僕はシラー少将に呼ばれた。

「お呼びでしょうか? 」

占領した敵基地内に設けられた仮設テントに呼び出されそこに入るとシラー少将が待っていた。少将は早速テーブルの上に広げられた地図を僕に見るように促してから話を始めた。

「コノハ族の村があっただろ? あの村の南側に湖があるのだ。」

少将は地図の湖を指差しながら言った。

「コノハ族の村長の話ではその湖の北側にル・カメリカの兵の隠れ家があるらしいのだ。彼らコノハ族に危害を加えていた常連の一味がそこにいるらしい。村長はそいつらをその場から追い出して欲しいと我々に懇願してきた。」

少将はそこまで言うと煙草を取り出して火を着けた。そして煙草の煙を深々と吸い込むと鼻からまたその煙を吐き出し話を続けた。

「我々はコノハ族とは友好関係にある。私はすぐに数十名の兵を差し向けたのだが敵の反撃にあって敵の隠れ家にすらまだ辿り着けていない。少尉、戦車で応援に行ってやってくれないか? 君が行ってくれれば一瞬で片が付くだろう。」

少将はニヤッと笑いながら言った。

「分かりました。敵兵の数はどれぐらいです? 」

「その隠れ家には十名程度しかいないらしい。だが奴らは様々な罠を張ってこちらの歩兵部隊を翻弄しているようだ。」

話を聞いている限りでは戦車で歩兵隊を支援すれば敵の掃討は簡単に出来そうな気がした。僕は少将に言った。

「了解しました。では早速敵兵を蹴散らしてきます。今日補充された兵を連れて行きますね。」

僕はそう言うと仮設テントを出てすぐに自分の四型戦車のところへ向かった。四型戦車は補給も整備も終わり何時でも出撃可能だったので僕はすぐに出発することにした。僕は普段バウアー大尉の座っている戦車長の席へ座った。僕が普段座っている砲手の席にイーヴォが座り装填手の位置にペットゲンがついた。そしてハンスとオッペルはいつも通りそれぞれ操縦手席と通信手席に座った。今日はバウアー大尉の代役とはいえ初めて戦車長席に座るのだ。死傷者を出すことなく任務をすみやかに成し遂げなければならない。僕は若干緊張しながらもハンスに言った。

「ハンス、前進だ。」

「了解です。少尉殿。」

我々は基地を後にした。


出発して一時間程経った頃であろうか、僕らの四型戦車は湖の北側に到着した。

「もうそろそろ目標とするポイントだ。全員周囲を警戒しろ。」

僕は皆にそう言った。だが辺りは静かだった。

「ひょっとしてもう敵の制圧は終わっちまってるんじゃないスか? 」

「そんなことはないだろう。オッペル、無線で呼び掛けてみてくれ。」

ペットゲンに言われて僕はオッペルに無線で連絡を取るように指示を出したが何も返答はなかった。周囲は人間の胸ぐらいまで高さのある草が生い茂っていて敵兵が隠れるには絶好の場所だ。下手に進んで待ち伏せ攻撃でも喰らったら危ない。僕はその場に停止して暫く様子を窺った。すると友軍の歩兵が草むらの中から現れた。僕は戦車砲塔の側面のハッチを開けてその歩兵に問いかけた。

「応援に来たぞ! 敵は何処にいる? 」

「狙撃兵がその辺のおそらく木の上にいるようです。我々歩兵だけでは上からすぐに狙い撃ちされてしまって動けません。」

「分かった。では我々が先導して敵に接近する。歩兵隊は後ろをついてきてくれ。」

僕がそう言った直後だった。カーンという乾いた音がして僕が開けている鉄のハッチが大きく震えた。敵の狙撃兵が僕を狙って撃ってきたのだ! 幸い弾丸は僕の身体ではなくハッチに当たって事なきを得たが僕は一瞬冷汗をかいた。敵は一瞬の隙を見つけては攻撃してくる。油断をしていた訳ではないが僕はもう一度気を引き締め直した。僕はハッチを閉めてハンスに言った。

「ハンス、微速前進。」

僕はキューポラから周囲を注意深く観察した。周囲は背の高い草が生い茂っているが前方二百m程のところにさらに背の高い木が数本立っている。僕がその木を見ていると一瞬キラッと何かが輝いた。僕は敵の狙撃兵のライフルのスコープではないか? と思いすぐにオッペルに機銃での射撃を命じた。

「オッペル! 前方に何本か生えている木の右から三本目辺りで何か光った。あの辺りに機銃を撃ち込め! 」

「了解! 」

オッペルが前部機銃の銃弾を木に叩き込んだ。すると悲鳴が聞こえて敵の兵が木から落ちるのが見えた。オッペルが喜んで叫ぶ。

「少尉! いましたよ! 敵の狙撃兵が! 」

「よし、木の上に他にも狙撃兵がいるかもしれん。もっと撃ちまくれ! 」

オッペルが適当に銃弾を木の上にばら撒くと次々に悲鳴が上がって敵の狙撃兵が木から落とされていった。敵はさすがに戦車には敵わないと思ったらしくその後あっさりと降伏した。草むらの中から両腕を上げた状態で敵兵が次々と姿を現した。

「呆気ないもんっスね。」

ペットゲンがそう言った。彼は自分の役割である75mm砲弾の装填を一度もすることなく戦闘が終わってしまったのだ。

「確かにな。」

僕はそれだけ言うとキューポラから投降してくる敵兵の怯えた表情をぼんやりと眺めていた。

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