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作戦会議

「なに〜! 貴様勝手に現地住民と手を組むなどと約束したのか!? 師団長の許可もなくそんなことをするとはどういうことだ!? 」

ゲッハ中尉が顔を真っ赤にして唾を飛ばしながら僕に怒鳴っている。僕はナタリー達が提供してくれたコノハ族の村のとある民家の一室でシラー少将とバウアー大尉、それにゲッハ中尉といった第七装甲師団の上層部の人間達と一緒にいた。僕はコノハ族が反ル・カメリカの民族でありマイルヤーナへ協力する姿勢を見せていること、また彼らがこの周辺の地理に詳しく今後協力体制を取った方がマイルヤーナ軍にとって有益だということを彼らに説明していたのである。僕の説明を聞いた後ゲッハ中尉が先ほどの発言を僕に浴びせかけてきたのだった。

「バウアー大尉、君の意見は? 」

それまで黙って僕の説明を聞いていたシラー少将がバウアー大尉に意見を聞いた。

「私はフランツの意見に賛成です。地の利を得ることが出来るのと出来ないのとでは今後の作戦展開が全く変わってきます。強力なル・カメリカに対抗する為には何でも有効に利用せねばなりません。」

バウアー大尉がそう言うとゲッハ中尉がまた真っ赤な顔をして反論した。

「しかし大尉殿、相手はル・カメリカから見下されている下等民族ですぞ! そのような種族と我々誇り高き優秀なマイルヤーナ人が手を組むのはどうかと思いますぞ! 」

「中尉、彼らが下等とか優秀とかは関係ないだろう。ようは我々が有利に戦争を進めるのに彼らが役に立つかどうかだ。」

バウアー大尉にそう言われるとゲッハ中尉は黙ってしまった。すると二人のやりとりを聞いていたシラー少将が口を開いた。

「よし、これより師団内及び師団周辺の友軍部隊へ通達を出す。コノハ族の村人に危害を加えてはならぬとな。我々第七装甲師団はこれよりコノハ族と協力体制を取る。バウアー大尉、この周辺の地理と敵の基地の情報を彼らから聞き出せ。」

「ハッ! 」

シラー少将のその言葉を聞いてバウアー大尉は敬礼をしてそれに応えた。

「先ほどの戦闘で負傷したコノハ族の村人の看護も手厚くしてやれよ。信頼関係を作るにはギブアンドテイクが手っ取り早いだろうからな。それとフランツ・マイヤー少尉! 」

バウアー大尉に指示を付け加えた後シラー少将が急に僕の名を呼んだ。僕は緊張して少将の方へ向き直って返事をした。

「はい! 何でありましょうか? 」

強張った僕の顔をじっと見ていた少将だったが急に笑顔になると僕にこう言った。

「良い判断だったぞ。バウアー大尉の言う通り、我々は利用出来るものは全て利用するべきなのだ。御苦労だったな。」

少将の判断で師団の方針が決まった。ゲッハ中尉だけが不満そうな表情だったが一度命令が下ればもうそれには逆らえない。ゲッハ中尉は僕を一瞬睨みつけたがその後は俯いて黙りこくってしまった。

「ではフランツ、お前が話していた通訳の女性とこの村の長らしき人物は何処にいるのだ? 話がしたいのだが。」

「分かりました。ここに呼んできます。ちょっと待っていて下さい。」

バウアー大尉に言われて僕はナタリー達を探そうと民家を出た。するとこの村に初めて連れて来られた時に出会った背の低い腰の曲がった年老いた男と背の高いがっしりした男、それにナタリーの三人はまるで僕を待っていたかのように民家の外で並んで立っていた。

「やあナタリー、ちょうど君を探そうと思ってたんだ。僕の上官であるシラー少将とバウアー大尉がこの村の長と話をしたいと言ってるんだけど、そちらの方がそうなのかな? 」

僕はそう言って背の低い男の方を見た。

「はい、そうです。こちらが村長でその隣がその息子です。私達はあなた方に何度も助けられました。あなたの上司の方にも御礼を申し上げねばなりませんね。この家の中にいらっしゃるんですか? 」

「はい、御案内しますよ。」

僕はそう言ってドアを開けて三人を家の中に入れてシラー少将やバウアー大尉達と引き合わせた。この会談で第七装甲師団とコノハ族はお互いに共通のル・カメリカという敵を持つということから協力体制に関する話し合いはとんとん拍子に進んだ。我が軍は彼らの保護と医薬品等の提供を行い彼らコノハ族は我が軍のこの村への駐留を認めル・カメリカに関する情報提供を行う、ということで大筋合意した。その後早速バウアー大尉と僕が村の周辺地理と敵の情報を村長とその息子から詳しく聞き出した。そしてその日の夜にその情報をもとに今後の第七装甲師団の作戦展開について我々は会議をすることになった。


「例の一本道を東へ十km程進むと敵の基地があるらしいですがここ数日間で戦車や車、そして兵士の数は激減しているとのことです。敵もおそらくここ数日間の激戦で戦力が低下しているのでしょう。」

バウアー大尉のその言葉で会議が始まった。地図を机上に置きその周囲をシラー少将やバウアー大尉、そして他の歩兵隊や砲兵隊の指揮官達が集まっていた。本来は僕はその会議に出なくてよいのだがバウアー大尉からの「出席しろ! 」という鶴の一声で僕は机を取り巻く指揮官達の間に紛れていた。バウアー大尉の発言を聞きながら僕は地図を見ていたが暫くするとシラー少将が大尉に質問をした。

「それはコノハ族の情報か? 」

バウアー大尉は答えた。

「はい、そうです。彼らは村で飼育している牛から取れた牛乳を売ったりする為に基地に頻繁に出入りしているので基地の様子は詳しく知っているようです。彼らの話では戦車は五〜六台しか見かけなかったとのことです。」

「敵も戦力不足で我々を攻撃出来る状態ではないということか? 」

「おそらくそうだと思います。ですがル・カメリカのことです。新たに時間をかけて戦力を集結させてくることが予測されます。戦力が整えばまた攻勢をかけてくるでしょうね。」

大尉のその言葉の後砲兵隊の指揮官がシラー少将に発言した。

「であれば我々も一本道周辺に対戦車砲を配備して防御体制を強化してはどうでしょうか? 今から敵の襲来に備えておけば問題ないでしょう。 」

それを聞いてシラー少将がバウアー大尉にまた質問をした。

「敵基地からこの村へのルートはその一本道以外ないのか? 」

「敵の基地は周囲を山に囲まれていて山を抜けなければ基地には辿り着けません。山の北部に一本ルートがあるのですが山を下ったところが湿地帯になっており車輌は通行出来ません。山を抜けて車輌通行可能な最短ルートはやはり例の一本道になります。」

「ルートが一つなら防御は簡単ですな。」

大尉の発言の後にゲッハ中尉が続いた。だが大尉はゲッハ中尉の言葉を無視しシラー少将を見ながらすこし声量をあげて喋り出した。

「ですが我々は貴重な情報を入手しました。コノハ族だけが知っている敵基地への別の迂回ルートがあるのです! 会議の始まる前にオートバイ隊を偵察に行かせましたが道幅は狭いものの車輌の通行はなんとか可能だとのことです。私はそのルートからの敵基地襲撃を提案します! 」

「現有戦力では無理だ! 」

ゲッハ中尉が真っ向から反対した。だがシラー少将はゲッハ中尉を制しながら言った。

「何か策があるのだな? 」

「はい。敵は基地周辺の山の至るところに対戦車砲を配置しており正面からの突破は確かに現有戦力では難しいと思われます。ですがその迂回ルートを通れば対戦車砲が配置されていない敵基地の後方に回り込めます。正面から陽動作戦を仕掛け敵の注意を引きつけている間に敵基地の後方から侵攻するのです。敵基地は山に囲まれている為常に周囲に霧が発生しており位置がはっきりせず航空機による空爆は効果が期待出来ません。後方に回り込んで敵基地の位置を特定すれば後は山越しに重砲を撃ち込めばよいのです。先日一個砲兵連隊が応援で我が師団に合流しました。重砲の数は揃っているのです。これを活かさない手はありません。重砲で敵にダメージを与えた後迂回ルートからの侵攻部隊で敵基地を制圧します。」

「その別ルートが敵に知られている可能性はないのでしょうか? もし知られていてI-34や対戦車砲が配備されていたら後方に回り込むどころではなくなりますぞ! 」

バウアー大尉にゲッハ中尉が噛みついてきた。中尉はバウアー大尉の意見にどうもしっくりこないらしい。

「この別ルートは幅が狭いところでは二.五m程しかないのです。敵のI-34は狭くて通れません。万が一敵がこのルートを知っていたとしても敵の主力戦車は通行出来ないのです。そんなルートから我々が攻めてくるとは敵も思わないでしょう。」

バウアー大尉がそう言うとゲッハ中尉はニヤッと笑ってまた口を開いた。どうやら何か大尉の作戦の矛盾を見つけたような表情だった。

「二.五m? では我が軍の三型戦車も四型戦車も通れないではないですか! 車幅はそれぞれI-34と同等ありますぞ! 」

勝ち誇った顔のゲッハ中尉にバウアー大尉は淡々と答えた。

「マーダーⅡを使います。それに一型自走重歩兵砲もです。」

「なにっ!? マーダー? 何だ? それは? 」

ゲッハ中尉はマーダーⅡという兵器を知らなかったようで明らかに狼狽していた。ハンカチを取り出して必死に額の汗を拭っていた。そこへバウアー大尉が追い打ちをかけるように冷たく言った。

「フランツ、マーダーⅡを説明してやれ。」

「はい。」

僕は返事をして立ち上がると中尉の方を向いて話を始めた。

「マーダーⅡというのは三型戦車が主力となる前の我が軍の主力戦車である二型戦車に75mm対戦車砲を搭載した自走砲です。二型戦車は主武装が20mm機関砲であり対戦車戦闘には使えない旧式の戦車でしたがそれに改造を加え75mm対戦車砲を搭載したことにより少なくとも攻撃力だけはI-34に対抗出来ます。一型自走重歩兵砲も同じく旧式の一型戦車に改造を施して15cm重歩兵砲を搭載した自走砲です。両車輌共に車幅が狭くこの別ルートの通行が可能です。」

ゲッハ中尉はまた顔を真っ赤にして僕を睨みつけていた。だがそんな中尉を無視してバウアー大尉が口を挟んだ。

「我が師団にマーダーⅡは七台、一型自走重歩兵砲は三台あります。それに歩兵を乗せた装甲車を何台か加えて部隊を構成し敵を殲滅します。」

「分かった。作戦の指揮は君に任せる。山に囲まれた敵の要衝を抑えることは今後我々に有利に働くことは間違いない。頼むぞ、バウアー大尉! 」

シラー少将のその言葉で作戦決行が決まった。我々は引き続き作戦の詳細を煮詰める為会議はその後三時間に及んだ。

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