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パンツァーファウスト

「ナウマン、オッペル、そこら中に散乱しているル・カメリカ兵の死体から武器と弾薬を回収しろ。それと警戒を怠るなよ。」

「分かりました。」

二人はそう言うと地雷が炸裂してまだ火薬の匂いがプンプンする草むらの中を歩いていきマシンガンやライフルを一丁ずつ敵兵の死体から奪い取っていった。生き残ったコノハ族の男二人もナウマン達の作業を手伝い始めた。僕はその様子を見ながらまだ地面に伏せたまま泣いているナタリーに声を掛けた。

「ナタリーさん、さぁ立ちましょう。あなたは村に戻って休んで下さい。もう敵は来ないでしょう。暫くすればマイルヤーナ軍の増援が来てくれます。そうなればこんな怖い目に会うこともなくなりますよ。」

ナタリーはようやく立ち上がった。彼女は涙をハンカチで拭うと僕の顔を見て言った。

「少尉さん、ごめんなさい。私本当に怖かったの。でももう大丈夫。私達の為に戦ってくれてありがとう。」

彼女はそれだけ言葉を絞り出すと村に向かってゆっくり歩き出した。そして僕はナウマン達の作業を手伝おうとした。だがその時僕は静寂が戻った筈の草むらに微かに鉄の軋む音を聞いた。最初は気の所為かと思ったがナウマンもそれに気が付いたらしく青い顔をして僕に叫んできた。

「少尉! 」

「静かにしろ! 」

僕はナウマンを制して耳を澄ました。その音はすこしずつ大きくなっている。この音は戦車の履帯の音だ。おそらく敵の戦車がこちらに向かって来ているのだ!

「ナウマン! オッペル! 戻れ! 戦車だ! 」

僕はそう叫ぶと慌ててナタリーの手を引いて自分達の背後にある村に向かって駆け出した。対戦車兵器はパンツァーファウストしかない。だがこの細い一本道を戦車が来るとは思わず僕はパンツァーファウストを村に置いてきてしまったのだ。マシンガンやライフルだけではとても戦える相手ではない。敵戦車より早く村へ辿り着いてパンツァーファウストを手にする必要があるのだ。数百m走ると僕は一旦走るのをやめて後ろを振り返った。するとナウマンとオッペルに生き残ったコノハ族の男二人が僕らに追いついてきた。僕はハァハァと肩で息をしながら暫く後ろを見ていると敵の戦車が目に入ってきた。数は二台でI-34を先頭にしてその後ろを軽戦車が続いて走っている。四型戦車さえあればすぐに吹き飛ばしてやるのに、と僕は思った。だが今は戦車はない。接近戦に持ち込んで破壊するしかなかった。救いは接近戦に邪魔となる歩兵が随伴していないようであることだった。

「少尉、急いで戻りましょう。パンツァーファウストさえあれば何とかなりますよ。」

ナウマンも僕と同じことを考えているようでそう言った。僕らは走ることを再開し1.5km離れた村まで汗だくになって走った。


「少尉、ありましたよ! 我々の切り札が! 」

村に着いてとある民家に入るとオッペルが僕にそう言った。パンツァーファウストは壁に立てかけられた状態で二本ともその民家に置いてあった。僕は二本あるうちの一本をオッペルに渡し一本は自分で持った。

「どうします? 」

ナウマンが僕に作戦を聞いてきた。僕は民家を出て先ほど走ってきた一本道を指差して言った。

「村から一本道への入り口辺りでまず先頭のI-34を破壊する。敵は二台前後に並んであの細い道を走ってきている。先頭のI-34を破壊すれば後ろの軽戦車は一本道だからそれ以上前進出来なくなる筈だ。あわよくばその時後方の軽戦車も破壊する! 」

皆の顔を見ながら僕は続けた。

「少なくとも先頭のI-34だけは何としても破壊して敵戦車の村への侵入を阻止せねばならない。俺とオッペルは一本道の入り口付近で草むらに隠れて待ち伏せする。ナウマンは周囲を見渡せるこの民家から敵の様子を俺達に教えてくれ。もう敵戦車は迫ってきている筈だ。では行くぞ! 」

僕がそう言って走りだそうとした時だった。ナタリーが急に僕の手を掴んだ。僕は驚いてナタリーの顔を見た。

「私達の為にすみません。死なないで……下さい。」

彼女はまた始まる戦いを僕ら三人に任せっきりにしてしまい何も手伝えない自分に負い目を感じているようだった。そして戦いが再開されることに対して恐怖もあったであろう。また彼女の目には涙が溢れんばかりになっていた。僕は優しく言った。

「ナタリーさんは隠れていて下さい。万が一敵の戦車が村に侵入すようなことがあればすぐに逃げて下さい。分かりましたね? 」

ナタリーが微かに頷いたのを見ると僕は彼女の肩をポンと叩いてオッペルと一緒に一本道の入り口に向かって走り出した。オッペルが僕らの後姿を心配そうに見守っているナタリーの姿をチラッと振り返って見ながら僕に言った。

「あのナタリーって娘、少尉に惚れてますね。」

「はいはい。からかうのは敵戦車を破壊してからにしてくれよ。」

僕とオッペルは一本道の入り口に辿り着くとその左右に別れ草むらの中に隠れて敵戦車を待った。すると二分もかからないうちに敵戦車が近づいてきた。思っていたより来るのが早い。僕は草むらの中からチラッと敵戦車を見た。先程と同じようにI-34が先頭でその後ろを軽戦車が続いている。我々が一本道で破壊したトラックの残骸が障害物となって敵戦車は進んで来れないのでは? と淡い期待を寄せていたがあの程度の残骸はどうもI-34の進行を妨げるまでにはならなかったようだ。だがI-34を一本道で仕留めれば後方の軽戦車にはI-34を押しのけて進むだけの馬力はない。I-34がトラックを押しのけるのと軽戦車がI-34を押しのけるのでは話が違う。重量が全然違うのだ。僕はパンツァーファウストの安全装置を解除しいつでも発射出来る態勢を取った。

「やはり歩兵はいなさそうだ。俺が先にI-34を撃つ。オッペル、軽戦車の方は任せたぞ! 」

僕がオッペルにそう叫ぶとオッペルは頷いた。敵戦車はもう二十mほど手前まで来ている。戦車の騒音と振動が激しい。僕は一度深呼吸をした。すると次の瞬間敵戦車が一本道の入り口に姿を表した。僕が隠れている草むらの目の前だ。動いているI-34をこんな近くで見るのは僕は初めてだった。だが僕は咄嗟にパンツァーファウストを構えるとI-34の側面エンジン部分に向けて弾頭を撃ち込んだ。弾頭は山形に飛んでいきI-34に命中して爆発を起こした。

「やったぞ! えっ!? 」

確かに命中したのだがI-34はそのまま動き続けている。どうやらエンジン部分を外してしまったらしい。まずい!

「オッペル! 」

僕がそう叫んでオッペルの方を見るとオッペルはもう既にパンツァーファウストをI-34に向けて構えていて弾頭を発射したところだった。オッペルの放った弾頭は見事にI-34のエンジン部分を捉えI-34は大爆発を起こしその動きを止めた。

「ナイスだ! オッペル! 」

僕はそう叫んで喜んだのも束の間、致命的なミスを犯していることに気が付いた。攻撃のタイミングが遅れてしまい一本道を出たところでI-34を破壊してしまったのだ。その結果後続の軽戦車は一本道を抜け破壊されたI-34の横をすり抜けて村に侵入してしまった。僕は村に向かって大声で叫んだ。

「まずいぞ! 皆逃げろ! 」

敵の軽戦車は村の民家に向かって手当たり次第に榴弾を撃ち込み出した。コノハ族の人々は悲鳴をあげて村から逃げ出し始めた。しかし敵は逃げ惑う村人に対して女子供関係なく無差別に機銃掃射を始めたのだ。バタバタと人が倒れていく。その光景はまさに阿鼻叫喚の巷だった。

「この野郎! 」

僕は思わずそう叫んで手に持っていたマシンガンを軽戦車に向けて撃った。だがマシンガンの銃弾は装甲に虚しく弾かれるだけだった。すると敵の軽戦車が僕の方向へその砲塔を向けてきた。敵の砲身がまっすぐ僕に向けられている。このまま敵の戦車兵が引金を引いたら僕は吹っ飛ぶのだ。まずい! と思ったが恐怖の為であろうか、僕は蛇に睨まれた蛙のように動けなかった。その時だった。

「何やってるんですか! 伏せて! 」

オッペルが走ってきて横から僕を突き飛ばし僕とオッペルは一緒に地面に倒れこんだ。オッペルは立ち尽くしていた僕を助けようとしてくれたのだ。するとその直後爆発音がした。身体を爆風と振動が襲う。僕は敵の軽戦車が榴弾を発射したと思い反射的に目を瞑っていたが次の瞬間目を開けると敵の軽戦車が燃え盛っているのが見えた。

「え? 」

僕は状況が飲み込めず思わずオッペルと顔を合わせた。オッペルもきょとんとしている。すると敵の軽戦車が村に侵入した一本道の反対側から友軍の四型戦車が走って来るではないか! 四型戦車の周りには歩兵も沢山いた。僕とオッペルが立ち上がると四型戦車は僕らの目の前まで来て停まった。

「間一髪だったな、フランツ! 」

ハッチを開けてその台詞とともに姿を表したのはバウアー大尉だった。僕は思わず微笑んで敬礼をした。

「遅くなった。話はハンスから聞いている。後は俺達に任せてお前らは暫く休憩していろ。ご苦労だった。」

大尉に労いの言葉を掛けられると僕はホッとしてそのまま近くの民家の脇にオッペルと共に座り込んだ。僕らの目の前を友軍の戦車と装甲車が次々に走っていく。逃げようとしていたコノハ族の村人は皆歓喜の表情を浮かべていた。彼らはバウアー大尉達の到着がコノハ族をル・カメリカの圧政から解き放ってくれると確信しているようだった。僕とオッペルは喜ぶ村人達を眺めていたが暫くするとナタリーが僕らのところへやって来てこう言った。

「フランツ・マイヤー少尉、本当にありがとう。あなたは私のヒーローです。」

それを見ていたオッペルが僕らをからかった。

「少尉、モテモテですな! 」

僕はオッペルの言うことを無視していたがナタリーはそれを聞いて真っ赤な顔をして何処かへ走り去ってしまった。僕はオッペルに言った。

「まったくお前はデリカシーが無いな。……まぁ良かったよ。無事に敵を撃退出来てな。」

僕とオッペルのところへナウマンもやってきた。僕らは笑顔でお互いの無事を喜び合った。

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