表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/104

共同戦線

「では第七装甲師団本部に行ってすぐに応援を引き連れてきます。」

ハンスがキューベルワルゲンの運転席でエンジンをかけながら僕にそう言った。

「急いでくれ。敵はいつ来るか分からん。俺達三人だけでは何も出来ないからな。」

僕がそう返事をするとハンスは僕に手を振ってそのまま車を走らせて僕の前から去って行った。コノハ族の村には僕とオッペルとナウマンが残った。僕らの持つ小型の無線機では第七装甲師団本部まで電波が届かない為ハンスに直接第七装甲師団本部に行って応援を要請させることにしたのだ。この周辺の地理に精通し反ル・カメリカ感情の強いコノハ族の協力は必ず我々マイルヤーナ軍にプラスとなることをハンスからシラー少将やバウアー大尉に伝えさせて早急にこの村に応援部隊を進めさせることが僕の狙いだった。遠のいていくキューベルワルゲンの後ろ姿を見ながらオッペルが不安そうに僕に聞いてきた。

「友軍はすぐ来てくれますかね? 」

「ああ、心配するなよ。大丈夫さ。」

僕はそう言ってオッペルの肩を軽く叩いた。友軍の陣地まではキューベルワルゲンであればおそらく一時間ちょっとで到着出来る筈だ。その後友軍がすぐにこの村に出発してくれれば準備の時間を考えても四〜五時間あれば応援は到着すると僕は思っていた。敵が不審に思ってまたすぐに兵を送り込んでくる可能性は高い。敵の到着が先か味方の到着が先か、それが僕らとコノハ族の生死を分ける大きな運命の岐路になるだろうと僕は思っていた。敵の到着が先であれば我々は三人だけでコノハ族の村を守る為に敵と戦うか、彼らを見捨てて逃げ出すか、いずれかしかなかった。だが僕自身の考えとしてはコノハ族との信頼関係を作り上げる為にも逃げ出すことはなるべくしたくないと考えていた。その信頼関係の為に僕らはわざわざ三人だけこの村に残ったのだ。僕はオッペルに続けてこう言った。

「ナタリーの話だと敵の基地までは十kmぐらい離れているようだ。そして敵の基地からこの村までは細い一本の道しかないらしい。そこに罠をしかければ万が一敵が先に来ても時間を稼ぐことは出来るだろう。手持ちの武器をありったけ有効に使おう。」

僕がそう言うとそれを聞いていたナウマンが両手一杯に銃や弾薬を運んできて地面の上に並べた。

「敵から奪ったマシンガンが四丁あります。手榴弾も七~八個持ってましたね。キューベルワルゲンには地雷を積んでました。爆薬も少々あります。あ、それとこれも二本ありましたよ。」

ナウマンはそう言ってパンツァーファウストと呼ばれる対戦車用の携帯式擲弾発射器を僕に見せた。直径五cm、長さ一mの鉄パイプの先に弾頭を装着しただけの使い捨て兵器で命中率は悪く射程も短いが威力は高いものだった。

「これを使うような事態にならないことを祈ろう。では罠を仕掛けようか。」

僕はそう言うとオッペルとナウマンを連れて地雷と爆薬を持ち村を出て敵が通ると思われる細い一本道に歩いて行こうとした。するとナタリーが僕のところへ駆け寄ってきた。

「少尉さん、何か私達にお手伝い出来ることってありますか? 」

彼女はさっきまで泣いていたのに今はもう笑顔を見せている。強い人だな、と僕は思った。

「ではナタリーさん、これからル・カメリカ兵との戦いに備えて村にあるライフルとそれを扱える男手を集めて下さい。ル・カメリカ兵から奪ったマシンガンも二丁余ってますからそれもあなた方で使って下さい。」

一本道に地雷や爆薬を仕掛けた後僕らのもとにコノハ族の男が十人ほど集まってきた。僕は彼らにマシンガンの扱い方の他に戦闘時における簡単な手によるマイルヤーナ式の合図を教えた。言葉が通じないので意思疎通はこの合図に頼らねばならない。それでも尚戦闘時に混乱する可能性はある為ナタリーが僕と行動を共にすることになった。そして僕らは罠を仕掛けた一本道の周囲に身を隠し敵の襲来を警戒した。その時僕とナタリーはたまたま二人きりになりナタリーが僕に話しかけてきた。

「やっと私達コノハ族がル・カメリカの支配から抜け出す時がきました。その為であれば死も怖くないと皆言っています。そして私達の村の行動が他の村に伝われば続いてくれる人ももっと大勢出てきてくれる筈です。全てはあなた方の御蔭です。ありがとう、少尉さん。」

ナタリーはそう感謝の念を口にした。彼女は僕らのことを救世主のように思っているようだった。だがもし第七装甲師団本部が到着してシラー少将やバウアー大尉がコノハ族との共闘に反対すればどうなるだろう? マイルヤーナ軍もル・カメリカ軍と同じように彼らを劣等種族のように見なして差別するのだろうか? そうなればナタリー達は失望し今度は憎悪の刃を我々マイルヤーナ軍にも向けてくるのだろうか? そう思うと僕は複雑な気持ちになってナタリーの感謝の言葉に何も言えずただ微笑んで頷くのみだった。そして気まずくなった僕はナタリーの顔から一本道の先へさりげなく視線を移した。すると僕の前方五mほどのところにいるナウマンが振り返って合図を送ってきた。それは敵の接近を意味するものだった。

「ル・カメリカ軍が来たようです。トラックが二台近づいているようですね。おそらく兵員を乗せているのでしょう。結局こちらの応援は間に合いませんでしたが何とか僕達だけで彼らを撃退せねばなりませんね。」

僕は淡々とナタリーにそう言いながらも内心はかなり動揺していた。僕ら三人とコノハ族の男十人ほどでル・カメリカ兵と戦わねばならないのだ。だが僕が動揺した素振りを見せれば周囲はもっと動揺してしまう。僕は皆に平然を装い「そのまま待機せよ」と合図を送った。

「ル・カメリカ兵の数は多いのでしょうか? 」

ナタリーが不安そうに聞いてきた。僕は一本道の先から視線を移すことなく彼女に返事をした。

「分かりません。ですがトラック二台でしたらそれなりの数の兵がいるでしょうね。出来る限りの努力をしてみます。」

僕はそう答えながらも一本道の先を注視し続けた。するとついに敵のトラックが姿を表した。ナウマンに先ほど合図で教えてもらった通り数は二台でゆっくりとこちらに向かってくる。そのトラックは二十mほどの間隔を保ち前後に二台続けて走行していた。荷台には幌を掛けている。僕はマシンガンの安全装置を外して何時でも射撃出来るようにした。そして敵のトラックがさらに近づき一台目が僕らの手前四十m程まで接近した時だった。急に大きな爆発が起こって敵のトラックが吹き飛び横転した。我々の仕掛けた地雷を踏んだのだ。敵はまったく無警戒で村から1.5kmほど離れたこの付近に罠が仕掛けられているなどとはすこしも予測していなかったようだった。僕とオッペルとナウマンは敵が罠にかかった時にどう対応するかということを事前にある程度想定して作戦を立てていたので僕はすぐに次の行動の指示を皆に出した。

「全員射撃開始! 荷台を撃て! ナウマン、手榴弾だ! 」

僕のその声を聞いてオッペルが一本道周辺の草むらからマシンガンを撃ちだした。それを合図に他のコノハ族の男達もトラックに向けて発砲を始める。トラックの荷台の幌の中には敵兵が多数乗っている筈だ。最初の一撃で敵の数を減らさなければこちらに勝ち目はない。オッペルが横転した一台目とその後方で停車した二台目のトラックの荷台付近にマシンガンを撃ちまくっている。そしてそこへナウマンが手榴弾を投げ込んだ。ナウマンは体格が良い為か彼の投げる手榴弾は遠くまでよく飛ぶ。敵のトラックの周辺で爆発が次々に起こりル・カメリカ兵の泣き叫ぶ悲鳴が飛び交った。

「よし、上出来だ! 」

僕は思わずそう独り言を言った。そして僕もマシンガンを構え後方で停車しているトラックの荷台付近に銃弾を何発か撃ち込んだ。すると今度は誰かが放った銃弾がそのトラックのエンジンに命中したらしくトラックは爆発を起こして激しい炎を噴き出し始めた。

「ル・カメリカ兵め、ざまぁみやがれ! 」

オッペルが叫びながらマシンガンを撃ち続ける。だが敵もさすがにやられっ放しではなかった。我々の銃撃から逃れたル・カメリカ兵が徐々に反撃してきた。数は敵の方が多くこちらは十人余りしかいないのだ。コノハ族の男が何人か撃たれて倒れると形勢は逆転した。もうこのまま銃撃戦を続けるのは無理だと判断した僕は皆に合図しながら叫んだ。

「退却だ! 退却しろ! 」

僕はそう叫んだ後退却する皆の援護の為にマシンガンを撃ちながらじりじりと草むらの中をナタリーを連れて後退した。そうして先ほどまで居た場所の三十mほど後方のあらかじめ掘っておいた浅い塹壕に身を隠した。暫くするとオッペルとナウマン、そして二人のコノハ族の男が僕とナタリーのいるところまで必死になって走ってきた。皆命辛辛退却してきたのだ。

「負けてしまうのですか? 」

ナタリーがまた泣きそうな顔をしてそう僕に聞いてきた。僕は無理矢理笑顔を作って彼女に微笑み答えた。

「まだ奥の手があるんです。」

僕はそう言うとその塹壕に前もって隠しておいた起爆装置を手に取った。それを見てナタリーが僕に聞いてきた。

「それは? 」

「Sマイネという強力な対人地雷です。これを周辺にありったけ仕掛けておいたのです。敵を引きつけてから使用します。」

Sマイネは作動すると地中から空中へ飛び上がり1.2mの高さで爆発する空中炸裂型地雷だった。三百五十個の細かい鉄球を半径約十mの範囲に飛散させる威力絶大な地雷なのである。これが僕らの奥の手だった。僕は塹壕の中で敵が近づいてくるのを息を潜めて待った。

「来やがったな。」

ル・カメリカ兵が警戒しつつゆっくりとこちらに進んでくるのが見えると僕はそう心の中で呟いた。数は十人から十五人といったところか。僕らはもう六人しかいない。コノハ族の男達は大半が銃撃戦で命を落としてしまったのだろう。人数的に不利なこの状況を打開するには敵兵を目一杯引きつけてSマイネを爆発させるしかない。僕は起爆装置の安全ロックを解除した。そしてル・カメリカ兵が目前に迫った次の瞬間だった。

「皆伏せろ! 」

僕はそう叫んで起爆装置のスイッチを入れた。周囲に大音量の爆発と悲鳴が響き渡る。思っていたよりも遥かに強烈な爆風と土煙に襲われ僕は恐怖の為身体が震えていた。そして長い時間に思われたがおそらく一瞬だったであろう爆発が終わって暫くすると僕は恐る恐る頭を上げた。するとル・カメリカ兵がそこら中に死体となって転がっているのが目に入った。誰も動いていない。Sマイネは想像以上の威力を発揮し敵部隊は全滅したようだった。

「終わりましたよ、ナタリーさん。」

僕は伏せたままのナタリーにそう声を掛けてポンと肩を叩いた。彼女は恐怖の為かまた泣いてしまっているようで伏せたまま身体を震わせていた。でもそれも無理はないことだった。激しい戦闘だったのだから。

「少尉、何とか上手くいきましたね。」

オッペルとナウマンが土まみれの疲れ切った顔でそう話し掛けてきた。

「そうだな。」

生き残れて嬉しい筈なのにそういった感情は何故かまったく浮かんでこなかった。僕は一言そう返事をしただけで目の前に横たわるル・カメリカ兵の死体を茫然と見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ