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巡回

「ナタリーさん! 敵はどれぐらいの規模です? 戦車はいますか? もう近いのですか? 何か戦える武器はありますか? 」

敵が近づいていると聞いて僕も冷静さを失いかけたがそれ以上にオッペルはあたふたしてナタリーに矢継ぎ早に質問した。

「オッペル、すこし落ち着け! 」

慌てているオッペルを見ていると僕は情けなくなって自分はしっかりせねばと思った。慌てる気持ちは分かるのだがそれをあからさまに態度に出してしまえば周囲も慌てて落ち着かない雰囲気になってしまう。僕は自分に言い聞かせるようにオッペルを窘めた後ナタリーに向き直って聞いた。

「ナタリーさん、今の状況を教えて下さい。」

ナタリーは僕らが質問してくることを既に予測して外から部屋の中に入ってきた若い男に迫ってくるル・カメリカ軍のことを色々と聞いていた。彼女は僕らより遥かに落ち着いているように見えた。

「ル・カメリカ軍は一台の乗用車ですぐ近くにまで来ているようです。彼らはたまにこの村を訪れて私達に不穏な動きがないか見回っているのでおそらく彼らの目的は今回も巡回でしょう。だとすれば人数はおそらく二人から多くても四人です。いつも通りの巡回であれば彼らはすぐ帰りますので取り敢えず今はあなた方は隠れていて下さいませんか? 」

「分かりました。だが万が一のこともあります。拳銃だけは返して下さい。 」

ナタリーは別の人間に指示を出して僕らが捕らえられた時に取り上げられた拳銃を持って来させた。そして彼女はその拳銃を僕らに渡しながら言った。

「この建物の中でじっとしていて下さい。あなた方を匿っていることが暴露たら私達もただでは済まないのです。報復されまた死者が大勢出ます。お願いしますね。」

彼女はそう言うと僕らのいる建物から出て行った。僕らはじっとしているように言われたが敵兵とナタリー達が気になって仕方がなかった。僕はナタリーの言ったことを守ることが出来ず建物の窓の近くに立ってカーテンをほんの少しだけ開けて外の様子を窺った。すると僕らのいる建物に向かって四人のル・カメリカ兵が歩いてくるではないか! 彼らの乗ってきた四人乗りの小型車は彼らの後方二十m程のところに停めてあるのが見えた。彼らは四人ともマシンガンで武装している。その武装した男達と僕らのいる建物との間に先ほど僕らに尋問していた背の低い年老いた男と背の高いがっしりした男にナタリーの三人が丸腰で彼らに対峙していた。他のコノハ族の人々は家の中に隠れたようでその三人以外は誰も屋外にはいなかった。僕はひっそりと息を殺して彼らのやりとりを見守っていた。そして僕はオッペルを窓際の近くに呼んで彼らの会話を聞き取らせようとした。

「どうだ? 奴らは何を言っている? 」

ル・カメリカ兵四人のうちの一人がナタリー達に話し掛け始めたので僕はオッペルにそう小声で聞いた。オッペルは暫く彼らの会話を聞いてから答えた。

「『マイルヤーナ軍の兵を見かけたら連絡しろ』とか『ル・カメリカを裏切る行為をすれば処刑する』とか言ってますね。コノハ族に対してプレッシャーをかけているようです。」

ナタリー達に話をしている男は背が低く太った中年男で声がやたらに大きく威圧的だった。あとの三人のうち一人は眼鏡をかけた猿のような顔をした醜男でもう一人はガリガリに痩せた若い男、そしてあともう一人は背丈が二m近くある大男だった。彼らは四人とも薄ら笑いを浮かべている。ナタリー達をすこし馬鹿にしているような態度だった。

「見ててムカつく奴らですね。」

オッペルがル・カメリカ兵を見て憎々しげにそう言った。彼らは「少数民族であるコノハ族は一般のル・カメリカ人より劣った種族である」とでも言いたげなナタリー達を見下した態度を取っている。確かにそれは見苦しい態度だが僕はふと思った。人間は誰しもが嫌悪感を抱く相手と向き合ってなおかつ自分の方が優位に立っている時にはああいう態度を取ってしまうものではないか? と。あのル・カメリカ兵達と僕らは大差ないのかもしれない、そんなことをふと思いつつ僕はオッペルに聞いた。

「ナタリー達は奴らの言うことに対して何て返答しているか分かるか? 」

僕がそう聞くとオッペルは頭を横に振った。

「はっきりとは分かりません。おそらく『言う通りにするから早く帰ってくれ』というようなことを言っているようですが……あっ! 」

オッペルが小さく驚きの声を上げたので僕はオッペルから窓の外に視線を移した。すると僕も思わず「あっ! 」と声を上げそうになった。背の低い年老いた男が太った中年のル・カメリカ兵に突き飛ばされたようで地面に倒れているのだ。そしてそれを止めようとした背の高い方のコノハ族の男が今度は二m近い大男のル・カメリカ兵に銃床で腹を殴られて倒れこんだ。そして次の瞬間ナタリーも眼鏡の醜男に平手で頬を叩かれたのだ。何か奴らの気に障ることをナタリー達が言ってしまったのかもしれない。だがル・カメリカ兵達の顔は笑っている。彼らは明らかに暴力を振るうことを楽しんでいた。おそらく言いがかりをつけてコノハ族の人間に暴行を加えるのが彼らのやり方なのであろう。それはまるで彼らのストレス発散の為に行われているようであった。そしてこの行為はコノハ族が報復を恐れて自分達には絶対逆らってこないことを知った上でのものなのだろう。

「少尉! このまま見過ごすのですか!? 」

オッペルが怒った顔で僕にそう迫ってきた。手には拳銃を握っている。ナタリー達を助けたいのだろう。だが僕は迷った。差別され反ル・カメリカ勢力に傾いているコノハ族ではあるが彼らはマイルヤーナの人間ではない。少数民族とはいえあくまでル・カメリカ国の住人なのだ。その彼らを助けるという判断を自分がしても良いものだろうか? 僕がそうしてグズグズしているとオッペルが言った。

「もう我慢出来ません! 」

オッペルは僕らが隠れている建物のドアを大胆にも開けた。するとナタリーに平手打ちをした眼鏡の醜男が初めてこちらに気が付いた。彼はそれまではニヤついていたが今は恐怖に顔を引きつらせている。まさかこんな近くにマイルヤーナ兵が潜んでいるとは思わなかったのだろう。

「死ね、クズめ。」

オッペルはそう言って拳銃の引金を引いた。パン! という音がして醜男は眼鏡を吹っ飛ばされそのまま倒れた。オッペルの放った弾丸が醜男の頭部に当たったのだ。醜男は倒れて頭から血を流し動かなくなった。それを見て僕は叫んだ。こうなってしまった以上は全員殺るしかない。

「ハンス! ナウマン! 撃て! 生かして帰すな! 」

僕のその声を聞き終わらないうちにハンスとナウマンは近くの窓を開けてル・カメリカ兵に発砲していた。倒れていたコノハ族の男達を面白がって蹴っていたガリガリの若いル・カメリカ兵が悲鳴を上げて倒れる。おそらく銃弾が命中したのだろう。だがあとの二人のル・カメリカ兵は慌てて建物の陰に隠れた。そしてマシンガンの銃弾を僕らのいる建物の窓付近に滅茶苦茶に撃ち込んできた。身を屈めながらハンスが叫ぶ。

「まずいです! このままだと逃げられてしまう! 」

敵兵はマシンガンを撃ちまくっている間に車に乗り込むつもりなのだろう。僕は周囲を見渡して自分達のいる建物の中の敵兵の死角となる場所にドアがあるのを見つけてオッペルに言った。

「あのドアから外へ出て敵兵の側面に回り込もう! オッペル、行くぞ! 」

僕ら二人は頭上をマシンガンの銃弾が飛ぶ部屋の中を這って移動し目的のドアに辿り着くとそのドアを開け一目散に外へ出て走り出した。そして建物に沿って回り込むと幸運にもマシンガンを撃ちまくっているル・カメリカ兵の背後に躍り出た。

「死ねっ! このデカブツ野郎! 」

その敵兵は二m近い大男だった。僕ら二人は一発ずつそいつの背中に銃弾を叩き込んだ。大男は無言で崩れさった。

「よし! あと一人です! 」

オッペルがそう叫んだ。だが最後に残ったル・カメリカ兵が二十m程離れた自分の車に向かって走っていくのが見えた。逃がしてはまずい!

「撃て! オッペル! 」

僕ら二人は拳銃を撃ちまくったが当たらない。おまけに二人とも弾切れになってしまった。そしてその間にル・カメリカ兵は車に辿り着いてしまった。「もう駄目だ! 逃げられてしまう! 」と僕が観念しかけたその時だ。僕の背後で誰かが僕を呼んだ。僕が反射的に振り返ると例のパンをあげた男の子と女の子が二人でキューベルワルゲンに積んでいたマシンガンを持ってきてくれていた。この子達はこの子達なりに考えて僕らの役に立とうとしてくれたのだろう。その行為は実際大助かりだった。僕はマシンガンを受け取るとエンジンをかけて出発しようとする敵の車に銃弾を撃ち込んだ。ル・カメリカ兵の悲鳴が周囲に響き渡る。敵の車は動き出したものの進路を道路から外れてとある民家に突っ込んだ。

「終わった……」

ようやく敵兵を全て倒し周囲に静寂が戻ると僕は思わずそう呟いていた。だが次の瞬間だった。

「ぎゃあ〜! こいつまだ生きてるぅ! 」

急にオッペルが悲鳴を上げた。先ほど背中に銃弾を浴びせて僕らの足元に倒れて死んでいると思っていた巨漢のル・カメリカ兵が急にオッペルの左足を掴んだのだ。しかもそのル・カメリカ兵は口から血を吐きながらも笑っている。僕もオッペル同様に心底驚き恐怖に慄きながらもマシンガンの銃口をそのル・カメリカ兵に向けて引金を引いた。そこでようやくそのル・カメリカ兵は絶命しオッペルの左足は解放された。

「なんて馬鹿力だよ、まったく……」

オッペルはそう言いながら掴まれた左の足首辺りをブーツを脱いで摩っていた。オッペルが摩っている辺りは青く内出血している。よほどの怪力で掴まれたのだろう。そうしているとナタリーやマシンガンを運んできてくれた子供達が僕に駆け寄ってきた。

「助けてくれてありがとう。」

ナタリーは泣きながらそう言った。余程怖かったのだろう。僕は微笑みながら答えた。

「どういたしまして。僕の方こそこの子達に御礼を言わなくちゃ。」

僕はそう言いながら子供達の頭を撫でた。子供達は嬉しそうにしている。そこへハンスが声を掛けてきた。

「少尉、車に乗って逃げようとした敵兵だけはまだ生きてますね。肩に銃弾を受けてますがまだ息があります。どうします? 」

民家に突っ込んだ車の方を見るとその負傷したル・カメリカ兵の首根っこをナウマンが掴んでこちらに連れてくるところだった。先ほどまでナタリー達に傲慢な態度を取っていたそのル・カメリカ兵は目に涙を溜めてナウマンに引っ張られている。おそらくこれから殺されると思って恐怖を感じているのだろう。今まで家の中に隠れてことの推移を見守っていたコノハ族の人々も次々に姿を表してそのル・カメリカ兵に非難の視線を浴びせている。今まで散々好き勝手に暴力を振るい虐げてきたのだ。放っておいても彼はコノハ族に八つ裂きにされるだろう。だが僕は一瞬考えてから一言ハンスに言った。

「手当してやれ。」

「え? 」

殺すものだとばかり思って予備の銃弾を拳銃に装填していたオッペルが驚いて僕の方を向いた。僕は言葉を続けた。

「手当してやれと言っているんだ。彼は捕虜だ。虐待することはマイルヤーナ軍人のすることではない。」

「しかし……」

オッペルは不服そうだったが渋々拳銃をしまった。

「あの捕虜には敵の情報を吐いて貰わねばならんからな。」

僕がそう言うとハンスとナウマンが包帯を持ってきて止血の応急措置を始めた。これでいいのだ。ここで僕らがこの捕虜を撃ち殺してしまえば僕らはこの捕虜がコノハ族の人々に対して行った仕打ちと同じレベルのことをすることになる。僕らは誇り高きマイルヤーナ軍人の中でもエリートの戦車兵なのだ。僕はそんなことを考えながら拳銃をホルスターにしまった。

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