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死守

「よぉ〜! バウアー! 大活躍だな、元気そうで何よりだ! 」

バウアー大尉率いる我々先遣隊がヤシアリバーの浅瀬を発見して渡河してから三時間程経った頃だろうか、第七装甲師団の本隊が続々とその地点に到着しだした。その到着した本隊で戦車隊の指揮官であるドーレ大尉が渡河地点で他の指揮官と打ち合わせ中のバウアー大尉に声を掛けてきたのである。

「ドーレか。貴様、まだ死んでいなかったのか? 悪運だけは強い奴だな! 」

二人はそう言うと微笑みながら握手をした。同じ階級で歳も近いらしく二人は仲が良いようだった。指揮権はドーレ大尉が持っているがドーレ大尉もバウアー大尉の能力の高さを認めていて二人は互いに尊重しあっているようだった。

「おっ! 射撃の天才も御一緒か、フランツ、貴様も元気そうだな! 」

「ありがとうございます。ドーレ大尉。」

大尉はその場にいた僕にも握手を求めてきた。ドーレ大尉もバウアー大尉と同じで豪快で力強く気持ちの良い男だった。

「で、戦況はどうだ? 」

真顔になってドーレ大尉は僕らに聞いた。バウアー大尉は歩兵隊や砲兵隊の指揮官を集めて戦況と橋頭堡の戦力の布陣についてちょうど話し合いをしていたところだったのだ。バウアー大尉も真顔になって言った。

「ドーレ大尉、空軍の偵察機からの報告によると敵の大部隊がこちらに向かってきている。おそらく明朝にはこの付近へ到着する筈だ。敵も我々がヤシアリバーを渡河したことに対してかなり危機感を持っているらしい。我々はこの橋頭堡を敵に渡さない為にも今夜のうちに防御陣地を出来るだけ構築する。本隊が来てくれたことでそれなりに戦力は揃ってきたが敵のI-34が大量に来られると相当苦労するだろうな。」

「こちらの戦力はどれぐらい集まった? 」

ドーレ大尉の問いにバウアー大尉が地図を見ながら言葉を続けた。

「第七装甲師団の他に第二十四戦車連隊と第八砲兵隊が合流してくれたからな。戦車は約六十台あってそのうちの十台が四型戦車だ。それに加えて75mm対戦車砲が八門に野砲が二十門程だ。寄せ集まった部隊だがそこそこ数は揃っただろ? これで何とか敵を撃退する。」

バウアー大尉はそう力強く言い切った。

「分かった。対戦車用の陣地構築を急ごう。時間が無い。」

ドーレ大尉はそう言うと自らスコップを持ち塹壕を掘り出した。彼の直属の部下が慌ててそれに続く。結局その日は夜中まで作業が続いた。


「フランツ、起きろ! 本番だぞ! 前方に敵戦車多数だ、凄い数だぞ。」

次の日の朝戦車の中で待機をしていた僕は眠気に負けてすこしウトウトしていた。そこへバウアー大尉が先の言葉を掛けてきたのである。僕は戦車砲の照準器から外の様子を窺うと眠気が吹っ飛んだ。

「本当に凄い数ですね……。これはちょっと数え切れない。」

ヤシアリバーの東川沿いに構築された我々の橋頭堡からさらに東には大きな平野が広がっている。早朝でわずかに顔を出した太陽から放たれた光が平野を照らすとそこにはもうもうと土煙を立てて近づいてくる敵の戦車の大軍があった。さらにその後方には歩兵も続いているようだった。

「全軍に告ぐ。野砲、75mm対戦車砲、四型戦車は敵軍との距離が千二百になったらI-34を徹底的に砲撃しろ。他の部隊は随伴する歩兵を狙え! この橋頭堡は絶対に敵に渡すことは出来ん! 何が何でもここは守り抜くぞ! 」

バウアー大尉が全兵士に檄を飛ばした。ナウマンが徹甲弾を装填する。僕もいつでも撃てるように近づいてくる敵戦車の一台に狙いを付けた。敵の戦車は大半がI-34だ。旧型のベッティーは少ししかいない。こちらの主力の50mm砲搭載の三型戦車ではI-34とでは火力、装甲ともに違い過ぎる。我々四型戦車と75mm対戦車砲と野砲がどれだけ多くのI-34を遠距離のうちに破壊出来るかが勝負の分かれ道だった。

「距離千四百! 」

バウアー大尉が距離を告げる。敵はあっという間に接近してきていた。我々は地面に掘った穴に戦車の車体部分を隠し砲塔部分だけを出すようにして敵を待っている。こうすれば敵に晒す面積が少なくて済み敵弾の当たる確率がぐっと減るのだ。我々は地形も最大限有効に活用して数に勝る敵に打ち勝たねばならないのだ。

「距離千三百! 」

僕の全身はいつも通り汗びっしょりになり呼吸は荒く肩で息をしていた。何度実戦を経験してもこの緊張感が和らぐことは無い。僕は心の中で「バウアー大尉やみんなが一緒にいる、怖くない。大丈夫、僕らは生き残れる! 」と呪文のように何度も繰り返した。

「距離千二百! 射撃開始せよ! 」

バウアー大尉の号令直後に75mm砲と野砲が一斉に火を吹いた。敵戦車の周辺に次々と爆煙が立ち上がる。僕が放った砲弾も狙った敵戦車の近くに煙を巻き上げた。外したのだ。すると敵も反撃してきた。そして今日の敵の射撃は正確だった。いきなり命中弾を喰らって破損した友軍の戦車からの被害報告を行う無線が飛び交う。その無線を聞きながらナウマンが次の徹甲弾を装填した。

「フランツ、お前なら大丈夫だ。やれる。」

バウアー大尉が優しくそう言った。バウアー大尉はたまにこういう言い方をして僕を煽てる。だがそれで僕も少し心が落ち着いてしまうから不思議だった。僕が次に放った砲弾は敵戦車の砲塔を直撃しそのI-34は爆発を起こして動きを止めた。

「よし! 次はその右隣の奴を狙え。 」

大尉の指示に従い僕はその右隣のI-34を狙ってまた引金を引いた。だが次の一発は外れて敵戦車の遥か後方に着弾した。その間に敵の反撃は激しくなりまた一台友軍の戦車が被弾し戦闘から脱落するという無線が聞こえてきた。友軍の被害報告を聞いて焦る僕にバウアー大尉は優しくこう言った。

「落ち着け、フランツ。敵戦車が射撃の為に停車した瞬間を狙ってみろ。お前なら出来るよ。」

バウアー大尉がそう言った次の瞬間だった。僕が狙っていた敵戦車が動きを止めてこちらに主砲を向けようとしている。僕はすぐにそのI-34に照準を定めた。

「今だ! 撃てっ! 」

バウアー大尉の掛け声に間髪を容れず放たれた砲弾は敵戦車の前面装甲を貫きそのI-34は大爆発を起こした。僕は思わず「やった! 」と叫んでいた。

「いいぞ! よし、フランツ、次の獲物も狩るぞ! 」

今までは動いている敵戦車にも簡単に砲弾を命中させていたのに今日はあまりそれが上手くいかなかった。自分の調子がどこか悪いのもあったのだろうが今日の敵戦車隊の動きが今までとは違うのだ。彼らは今までによく見られたようにただ一直線に突っ込んでくるだけで闇雲に主砲を撃つという素人の様な動きをするだけでは無かった。前進しながらもキッチリと正確な射撃で撃ち返してきておりル・カメリカの戦車兵の技術がここ数ヶ月の戦闘でだいぶ上がっていることを感じさせた。それが今日は数の多さと相俟ってプレッシャーになっているのだ。今までは技術の低いル・カメリカの戦車兵を僕は無意識のうちに見下していた。そこに75mm砲の能力の高さも手伝っていつの間にか僕の心の中に距離が遠かろうが敵が動いていようが何時でもI-34を撃破出来るという思い上がりが心に芽生えていたのだろう。僕はその慢心を反省して次のターゲットに狙いを絞って引金を引いた。

「よしっ! 大破したぞ! 一台ずつ確実に葬っていこう、フランツ! 」

命中弾を喰らって爆発炎上する敵戦車を見ながらバウアー大尉が言った。僕は落ち着きを取り戻しそこからはまた以前の様な射撃をすることが出来た。僕は立て続けに二台のI-34を燃え盛るスクラップに変えた。

「こちらドーレだ。相変わらず上手い射撃だな、さすが名手フランツだ。」

ドーレ大尉から無線が入る。切羽詰まっている筈なのによくそんな無線をする余裕があるものだと僕は感心した。すかさずバウアー大尉が返事をした。

「人のことを見てないで目の前の敵に集中しろよ、ドーレ大尉。」

だがドーレ大尉の無線でさらに僕はリラックスして射撃に集中出来るような気がした。そこへバウアー大尉の叫び声が響く。

「左十時の方向にI-34が二台いるぞ。距離八百、フランツ、吹き飛ばせ。」

「了解! 」

そう言って僕が放った徹甲弾は敵戦車の前面装甲を捉える。その戦車は爆発を起こしさらにもう一台にも僕は命中弾を与えて大破させた。だがその時無線が鳴る。その内容は僕の上がってきた調子の良さとは相反する我が軍の劣勢を伝えるものだった。

「左翼を敵戦車が三台突破した! 損害甚大! 応援頼む! 」

「こちらバウアーだ! 了解! すぐにそちらに向かう! ここは二号車と三号車に任すぞ! ハンス、戦車を壕から出せ! 」

敵戦車が左側面から我々の陣地を崩そうとしているのだ。我々は陣地の中央に位置していたが陣地の左手の方に移動を開始した。暫く進むとすぐに敵戦車の姿が見えた。目の前で応戦していた友軍の三型戦車が吹っ飛ばされるのが目に入る。さらに対戦車砲と野砲も何門か破壊されているようだった。バウアー大尉が逆上して叫ぶ。

「蹴散らせ! フランツ! 」

敵は三台だ。それに対してこちらは一台しかいない。だが落ち着いてやれば大丈夫だと僕は自分に言い聞かせながら主砲がこちらを向きかけているI-34に照準した。あとの二台はまだこちらに気が付いていない。我々の戦車はその全ての車輌が無線で連絡を互いに取れるのに対して敵の戦車は無線機すら搭載していないものが多い。僕の乗る戦車の存在に敵戦車の一台が気付いても他の戦車にそれを知らせることは出来ないのだ。一台ずつ確実に撃破すれば勝てる。僕はそう念じながら一台目の敵戦車に発砲した。

「命中! 大破だ! 次! 」

バウアー大尉が短く叫んだ。僕は葬った一台目の右横にいるもう一台のI-34に狙いを定める。その一台もようやくこちらに気が付いたところのようで主砲がこちらを向こうとしていた。

「遅い! 」

僕はそう叫んで引金を引いた。I-34は砲塔基部に砲弾が命中し弾薬に引火したようで大爆発を起こした。

「あと一台! 」

僕はまたそう叫んで最後の一台を狙おうとした。その一台はたった今撃破したI-34のさらに右側にいてこちらに気が付いている。だがその一台は戦車砲を旋回させている途中で急に爆発を起こした。よく見ると友軍の三型戦車がその敵戦車の後方至近距離から50mm砲を叩き込んでくれたらしい。その三型戦車はドーレ大尉が搭乗しているものだった。

「バウアー、危ないところだったな。一つ貸しだぞ、ハハッ。」

ドーレ大尉のその無線の直後だった。ドーレ大尉の乗る三型戦車が急に爆発を起こした。

「ドーレ! 」

バウアー大尉が思わず叫んだ。炎に包まれた三型戦車の上部ハッチが開き中から戦車兵が飛び出てきた。だがその戦車兵は衣服が所々燃えていて右腕が無くなっており表情も虚ろだった。そしてその戦車兵は地面に倒れた。ドーレ大尉だった。

「三型戦車の後方にI-34だ! ドーレを殺った野郎だ! 殺せ! フランツ! 」

「了解! 」

怒り狂ったバウアー大尉の声を聞きながら僕はそのI-34に照準して砲弾を放った。敵戦車は爆発しハッチが開いて中の乗員が逃げ出そうと飛び出してきた。

「逃がすな! オッペル! 」

バウアー大尉に怒鳴られてオッペルは一瞬ビクッとしながらも前部機銃をその戦車兵に浴びせた。その戦車兵はばったりと倒れて動かなくなった。

「ル・カメリカの豚め! 生きて帰すか! 」

そう言ったバウアー大尉の拳は震えていた。仲の良かったドーレ大尉の死に様を目の前で見てしまったのだ。バウアー大尉の心中は察するに余りあった。だが怒りと悲しみに襲われながらもバウアー大尉はすぐに冷静さを取り戻し敵の攻撃を退けていった。


結局その日の戦闘が終了したのは夕方だった。我々の陣地の周囲にはおびただしい数の敵戦車が燃えていた。我々は陣地を守りきったのだ。だがこちらの損害も甚大だった。動ける戦車は十台もなく対戦車砲や野砲もその大半が破壊されてしまった。また弾薬と燃料も不足している。次に同じように攻撃されてはどうしようもなかった。シラー少将は援軍と補給を大至急行うように司令部へ要請した。

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