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渡河ポイント

「この辺りが橋からちょうど四km南下したポイントなんだが……分からんな。」

我々は進路を南に取り約一時間、ヤシアリバー沿いの曲がりくねった道を進んだところで停車していた。道が進むにつれて川からだいぶ離れてしまい目的とする川の浅瀬を我々は発見出来ずにいたのだ。バウアー大尉が上部ハッチを開けて上半身を出し双眼鏡で周囲を見渡していたが緑の葉を纏いだした木々にその視界を阻まれ結局我々は何処へ進むのが最善なのか分からず立往生していた。天気は良く気温も暑いくらいになってきていて季節はもう春であった。

「左手に進めば川に突き当たる筈なんですけど……道がありませんね。」

大まか過ぎて当てにならない地図を見ながら僕は言った。僕らの進んできた道の左右は両側とも見渡す限りびっしりと地面から大小多数の木が生えていて自然の壁を作っておりとても車輌が通れるようなスペースは無かった。左右に曲がれないのであれば前進か後進しかない。大尉は前進を選択した。

「もう少し進んでみよう。何か手掛かりが見つかるかもしれん。ハンス、ゆっくり行ってくれ。」

「了解です、バウアー大尉。」

ハンスはそう返事をしてギアを入れた。我々はまた前進を開始した。


更に五分程進むと周囲には灌木が多くなってきた。周囲の木の高さが今までより低くなってきたので辺りの状況はすこし遠くまで見通せるようになったがそれでも川に通じる道はまだ発見出来なかった。大尉は戦車を止めさせてまた双眼鏡で前後左右をくまなく見渡したが見えるものはやはり灌木だけだった。

「浅瀬なんて本当にあるんですかね? 」

オッペルが大欠伸をしながらぼやいた。

「今はその情報を信じるしかないだろ! お前だけ何もせずにぼんやりしやがって。 」

ナウマンやハンス、そして僕は戦車から降りて周囲の灌木の間を覗いたりしながら何処かに川の浅瀬に通じる道がないかと探していた。そこへ戦車から降りもせずやる気の無い口調のオッペルをナウマンが思わず窘めた。オッペルはブツブツ言いながらも戦車から降りてきて僕らと同じように道を探し始めた。そうして僕らが戦車の周囲をウロウロしている時だった。大尉のヘッドフォンから僕らに聞こえるぐらい大きな声でヘルツォーク中尉の声が響いた。

「大尉! 前方にI-34だ! 木と木の間から姿が見えた! 我々の前方を右から左に横切ろうとして側面を向けているぞ! まだこちらには気が付いていないようだ! 」

「なにっ! 了解だ! 全員戦闘配置! ナウマンは徹甲弾装填、フランツは何時でも撃てるようにしておけよ! 」

大尉のその掛け声で僕らは皆慌てて乗車し席に着いた。大尉は上部ハッチから頭を出したまま双眼鏡を覗いてI-34を確認しようとしている。

「確かに一台近づいてくるな。だが今の状態では木が邪魔で攻撃出来ん。このまま敵が前進して我々の正面の道路上に飛び出てくる瞬間を狙おう。真っ正面に出てきた瞬間に吹き飛ばす。頼んだぞ、フランツ。」

大尉はそう言うと戦車を二十mほど後進させて完全に敵の死角に入った。我々の進んでいる道路は一本道だがこの先で十字路になっているらしくその十字路にI-34が出てきた瞬間に砲撃して撃破しようというのだ。あとは正面に出てきた敵を捉えるだけだが外せば当然反撃を喰らう。僕は砲手というのはなんてプレッシャーのかかる仕事なのだろうとつくづく思った。

「そろそろ来るぞ。距離は約三百mだ。」

大尉が僕に呟く。僕は汗ばんだ手で主砲の引金を握りながら今か今かとその時を待っていた。

「来たぞ! 撃てっ! 」

大尉の声に僕は一瞬ビクッとした。そして次の瞬間照準器のど真ん中にI-34がその姿を曝け出す。僕は夢中で引金を引いた。I-34は左側面の装甲を徹甲弾に貫かれて爆発を起こした。

「ナイスだ! フランツ・マイヤー少尉! 上手いぞ! 」

ヘルツォーク中尉が嬉しそうに無線で叫んだ。我々はそのI-34の撃破を確認する為に前へ三百m進んだ。

「少尉、いつもながら見事な射撃ですよ。」

オッペルがそう言った。近づいてみると敵戦車は側面にポッカリと徹甲弾に貫かれた丸い穴を開けて火を履いていた。

「こいつは一台だけで行動していたんですね。何をしていたんですかね? 」

ハンスが燃えるI-34を見ながらそう言った。オッペルが答える。

「おそらく……ボリーチョから逃げてきたんでしょ。」

オッペルがそう言い終わるか終わらないかのうちにまたヘルツォーク中尉から大声で無線が入った。

「大尉! またI-34が一台近づいてくるぞ! さっきの奴と同じ方向から同じ道をこちらに向かってやって来る! 」

僕らが敵戦車の近づいてくる右方向を見ると灌木の上から砲塔だけが見えるI-34が近づいてくるのが見えた。僕らの四型戦車のいる十字路の周辺はさっきまでいた場所とは違って木が少なく我々は敵から丸見えなのだ。まずいと僕が思った次の瞬間敵は我々の四型戦車に砲撃してきた。だが幸いにも敵の砲弾は外れ周囲の灌木を何本か粉々にしただけだった。僕は戦車砲を右に回し呼吸を整えながらそのI-34を狙った。距離は約六百m。敵の砲塔しか見えていないのでターゲットがやたらと小さく感じられる。

「フランツ、撃てっ! 」

大尉の号令と共に発射された砲弾は砲塔を直撃しI-34はその衝撃で進路を曲げ進行してきた道の左に生えていた灌木に突っ込んでようやくその動きを止めた。そして暫くすると弾薬に引火したらしく爆発を起こした。

「凄いぞ! フランツ・マイヤー! 百発百中だな! 」

またヘルツォーク中尉が無線で僕を誉めた。四型戦車の車内にもホッとした空気が流れる。だがその空気にどっぷりと包まれる間も無くハンスがバウアー大尉に言った。

「今のI-34も一台でしたね。敵は敗走中とはいえこうも単独で動き回るものでしょうか? 」

「うぅむ……」

大尉と僕にナウマンまでもがもそれを聞いて腕を組み目を閉じて考え込んでしまった。確かにそう言われると何か引っ掛かる。するとオッペルが冗談ぽくこう言った。

「ひょっとしてこの先に敵の秘密基地とかがあったりして。」

それを聞いて車内は一瞬静まりかえった。暫くすると大尉は閉じていた目を見開いてオッペルの方を睨みつけた。

「あっ! すみません! こんな時につまらないことを言っちゃって! 」

オッペルは悪いタイミングで冗談を言ったことを怒られると思ったらしく必死で大尉に謝った。だが大尉は急に笑い出しオッペルの背中に戦車長席から軽く蹴りを入れてこう言った。

「そうだ! お前の言う通りだ。オッペル。敵は浅瀬を知っていて渡河し対岸にある敵基地に退却する為にこの道を走っていたのだ。おそらくこの道を進めば浅瀬に出るに違いない。それであれば敗走して散り散りになった敵戦車が各々の判断で退却する為にこの道を急いでいたということで敵の単独の行動も説明がつく! でかしたぞ! オッペル! 」

「はぁ……」

オッペルは大尉の言っていることにピンと来ていないようだったがあとの四人は全員そのことを理解していた。我々は次に敵の車輌が通りかかったら隠れてやり過ごしその後を敵にばれない様につけてみることにした。我々は大急ぎで戦車や装甲車を敵の目のつかないところに隠し新たな敵の到来を待った。そして待つこと一時間、ようやく敵車輌が現れた。

「来ましたよ! 今度はI-34とトラックの計二台です! 」

ハンスがそう言って暫く経つと隠れている我々の前を敵は何も気が付かず横切って行った。

「よし、エンジンスタートだ。尾行を開始する。」

我々は前方を進む敵車輌に見つからないように距離を置いて道を進んだ。幸いにも道を進むにつれて周囲の木々は高いものが増え我々の姿を隠すのに一役買ってくれている。そして敵の履帯の痕を頼りに曲がりくねった道を進むこと十分、すこし道が開けてきたところまで進むと大尉は戦車を止めて歩兵に徒歩でその先の様子を見に行かせた。暫くすると歩兵が帰ってきてこう言った。

「バウアー大尉殿! この先で敵戦車と敵トラックが川の浅瀬を渡っていました。水の深さは五十cm程度で徒歩でも渡河可能の様です。ついに見つけましたね! 」

大尉はそれを聞くとニヤッと笑ってこう言った。

「よし、オッペル、司令部に暗号文を打電しろ。渡河可能ポイントを発見したとな。ヘルツォーク中尉の情報のお蔭だ。これで今後の作戦の足場が出来たぞ!」

一度失敗した橋頭堡確保の命令をまた違う形で成し遂げたのだ。僕の心の中を晴々とした達成感が満たした。

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