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マイハ攻略戦

「おい、ハンス、そろそろ起きろよ。補給部隊が到着したぜ。」

戦車の操縦席で眠りこけているハンスに僕は後ろから声をかけた。ハンスは眠たそうな目を擦りながら振り返り片目だけをわずかに開けて僕の顔を見た。

「今…何時ですか?」

「朝の五時だ。三時間ぐらいは眠れただろ?さぁ今から俺たちの愛馬に飯を腹一杯食わせないとな。」

「はい…。」

昨夜の戦闘が終わった後僕らはその場で待機するように命令を受け交替で仮眠を取りながら周囲を警戒して敵襲に備えていたのだった。ただ残弾は僅かで燃料もかなり消費していた。そこへようやく補給部隊と整備中隊が到着し疲弊していた第七装甲師団も少し活力を取り戻したように見えた。

「よし、ピエールと俺は50mm砲弾の積み込みだ。ハンスとリールは燃料を頼む。」

僕は皆に役割分担の指示を出し補給作業を開始した。だが作業を開始してから十分も経たないうちにバウアー大尉がやって来て僕に言った。

「フランツ、ちょっと来てくれ。皆は作業を継続しろ。」

何事かと思い僕はバウアー大尉について行ったがそれは僕らの次の任務となるマイハの街の攻略作戦の打ち合わせだった。戦車隊からは通常戦車小隊長以上の指揮権を持った人間だけが集まるのだが大尉は僕に目をかけてくれていてこの時を機会にこういった打ち合わせには必ず僕を同席させてくれるようになった。シラー少将の乗る装甲車の脇に簡易の折り畳みテーブルを起き地図を広げてその周囲を人間が取り囲むような形で打ち合わせが始まった。


「現在我々はマイハの街から西方15kmの地点にいます。まっすぐ西に向かえばマイハの街はもうすぐです。」

「しかしマイハの街の西側は平野になっていてそこから侵攻するとなると遠距離からの撃ち合いになる。昨夜の新型が出てきたら我々はかなり不利だぞ。」

打ち合わせが始まりシラー少将の副官の発言の後戦車隊の指揮官であるドーレ大尉が地図を見ながらそう言った。形の上ではドーレ大尉とバウアー大尉は階級は同じだけれども指揮権はドーレ大尉が持っているということになっている。だが実際は戦車隊をドーレ中隊、バウアー中隊という様に二分してそれぞれが指揮を取っているという形が多かった。ドーレ大尉はバウアー大尉の実力を認めており中隊単位で二人が柔軟に戦闘に対応した方が上手くいくだろうということでそういう指揮系統を取っていたのだ。勿論戦車部隊全体の動きの最終的な決断はドーレ大尉がすることになっていた。

「昨夜破壊した敵の新型戦車にいろいろ試してみました。まず37mm砲を試してみましたが前面装甲は全く貫通出来ません。頼みの50mm砲ですら確実にあの戦車を破壊するには距離400mから500mまで接近する必要があります。それに対して敵の主砲は76.2mmの口径であり昨夜の戦闘では距離700mから射撃され我が軍の三型戦車は簡単に撃破されているとの報告が入っております。ですのでもっと遠距離からの攻撃でも三型戦車は撃破される可能性が高いです。」

バウアー大尉がそう言うと皆黙ってしまった。

「…だが本国の総司令部からは攻略作戦をすぐにでも開始せよとの催促がきておる。何か意見は無いか?」

シラー少将がそう言うとバウアー大尉が挙手をして口を開いた。

「マイハの街の南には湖がありますが更にその南側には森林地帯が広がっております。先ほど偵察隊を向かわせたところその森林地帯には戦車がどうにか通れるくらいの道がありその道がマイハの東側に通じているとのこと。その道を使って敵の背後に回り込み奇襲をかけてはどうでしょうか?」

バウアー大尉は地図を指差しながら続けた。

「副官、空軍と野砲の援護は受けれるのだな?」

「も、勿論です。」

副官はすこしおどおどして答えた。

「では戦車隊をドーレ大尉の部隊と私の部隊とにいつも通り二分しましょう。西の平野部から空軍の爆撃と野砲の砲撃で対戦車砲を潰した後にドーレ大尉が西側から進撃します。もし敵の新型が出てきたら後退しておびき出し野砲で直接射撃をして敵の新型を破壊します。その戦闘の最中に私の隊が後方からマイハの街に殴り込みをかけて市街戦に持ち込む、というのはどうでしょうか?市街戦であれば敵の新型戦車と遭遇しても遠距離の撃ち合いにはならず逆に非常に近接した状態での戦闘になります。であれば我々の50mm砲でも何とか互角に持っていけるでしょう。戦車搭乗員の技量は今までの戦闘経験から考えてもこちらに分があると思いますし。」

誰も何も言わなかった。シラー少将は目を瞑ってバウアー大尉の話を聞いていた。

「では私の隊に随伴する歩兵には爆薬を多く持たして下さい。市街戦であればあの新型を狩るのに歩兵の出番が必ず増えますから。」

結局その打ち合わせでは他の案も出ず反対する意見も無かった為バウアー大尉の案が採用された。その後細部の詰めの話合いが続いて昼前には打ち合わせは終了した。そこからバウアー中隊は大急ぎで出撃の準備をして昼の二時頃にはマイハの街の東方を目指して出発した。


「どうです?敵の新型の姿は見えますか?」

僕の問いかけにバウアー大尉は双眼鏡を覗き込みながら言った。

「いや、今のところは見えないな。それに街に増援が来たような様子もなさそうだ。」

翌日バウアー中隊は歩兵隊を率いて森林地帯を駆け抜け打ち合わせ通りマイハの街の東方に到着していた。そして戦車を森林に隠し僕とバウアー大尉との二人でマイハの街が見渡せる小高い丘に双眼鏡を片手に敵状を偵察にやって来たのであった。

「そろそろ時間だな、空爆が始まるぞ。」

大尉は時計を見ながら言った。時計は朝の六時五十五分を指していた。空爆開始は七時の予定なので後五分だ。すると飛行機の飛んでくる音が聞こえてきた。西の空を見ると爆撃機の大編隊がこちらに迫ってくる。

「予定通りだ。」

大尉がそう呟くと同時にその爆撃機は編隊を崩してマイハの街に急降下で一機ずつ突っ込んでいった。空爆の始まりだ。街は瞬く間に煙に包まれていった。すると暫くして今度は野砲の砲撃が始まる。地面にズシンと響くような音をたてて砲弾がマイハの街に撃ち込まれていく。バウアー大尉と僕はその様子を観察していたが暫くすると戦車に戻った。野砲の砲撃が終わりドーレ中隊が進撃を開始した三十分後を目安にしてバウアー中隊は背後から敵に遅いかかる予定だった為だ。戦車に戻っても暫くは野砲の音が聞こえていた。

「この砲撃で敵が全滅でもしてくれてたらいいのに。」

リールがボソッと呟いた。

「全滅はさすがにしてないだろうけどここ数日間の戦闘で敵もかなり消耗してる筈さ。抵抗は少ないよ。」

僕はリールに気休めを言った。するとバウアー大尉が僕らの会話を遮るように命令を下した。

「バウアー中隊全車へ!これより前進を開始するぞ!」

いよいよ作戦が始まった。ハンスがギアを入れて僕らの乗る三型戦車がゆっくりと動き出す。

「森林を抜けたらすぐ目の前にマイハの街がある。先ほどの偵察の時には我々が侵攻する街の東側には対戦車砲や戦車などの姿は無かった。一気に街まで突っ込むぞ!」

バウアー大尉が無線機で叫ぶ。僕らは森林を抜けるとマイハの街の中心部の大通りまで繋がっている大きな道路に躍り出た。ハンスがギアを上げて速力を増し街に近づき全中隊車がそれに続いた。すると街の東の入り口にあっと言うに到着した。

「前方に敵兵だ!リール!なぎ倒せ!」

街の東から攻撃を受けるとは敵は予想もしていなかったようで兵士が何人か街の入り口に立って警戒しているだけだった。バウアー大尉の掛け声でリールが前部機銃から銃弾を放つとその兵士達はあっと言う間に逃げ出した。

「よし、このまま街に突入するぞ!」

バウアー大尉が叫ぶ。我々はマイハの街に入り大通りを真っ直ぐ西に直進した。50mも進まないうちに目の前は敵兵で一杯になっていた。空爆と砲撃で崩れた家から人を救出しようとしている兵士、対戦車砲を引っ張っている兵士、弾薬を運んでいる兵士。大勢の敵兵が視界に入ってきた。彼らが機関銃の射撃音と戦車のエンジン音に驚いて振り返り僕らの戦車を目にするとその表情には驚きと恐怖の表情が浮かんでいた。バウアー大尉は情け容赦なく命令を出した。

「全車撃ちまくれ!目の前の敵兵を一人残らず殺せ!でないと反撃を喰らって明日は自分が死ぬことになるぞ!」

リールが前部機銃を撃ちまくる。僕も榴弾を装填してそこら辺に止めてあるトラックや運搬途中の対戦車砲を片っ端から吹き飛ばしていった。敵兵は抵抗することも出来ずパニックに陥りバタバタと倒れていった。

「凄いぞ!このままいけば楽勝だ!」

リールが機銃を撃ちまくりながら叫んだ。彼の足元は彼の放った機銃の弾丸の薬莢だらけになっていた。

「フランツ!左十時の方向から敵戦車だ!徹甲弾装填しろ!早く!例の新型だ!」

バウアー大尉の不意の叫び声で車内のそれまでの雰囲気は一変し一気に緊張が高まった。僕は急いで主砲を旋回させる。

「敵戦車までの距離は約300mだ。この距離なら50mm砲でも十分敵の前面装甲を貫通出来る。深呼吸だぞ、フランツ。」

そのバウアー大尉の言葉を聞くと不思議に僕は落ち着いていた。照準を敵新型戦車の砲塔基部に合わせて引金を引く。

「よしっ!命中!上手いぞ!」

敵の新型戦車は砲塔が空高く吹っ飛んで大爆発を起こした。だがその爆発の後ろからもう一台別の敵新型戦車が現れた。友軍の戦車が37mm砲を撃つがそれは確かに全くダメージを与えていなかった。するとその敵新型戦車は停止しこちらに発砲してきた。

「六号車大破!」

友軍の戦車が一台撃破されたらしい。僕はその敵新型戦車の砲塔基部を先ほどと同じように狙って引金を引いた。

「やったぜ!くたばりやがれ!」

リールが叫ぶ。敵戦車は爆発して燃え盛っていた。

「フランツ!右二時の方向にも新手だ!新型だぞ!急げ!」

僕はまた大急ぎで主砲を旋回させる。距離は約400mだ。落ち着いてやれば問題ない。僕はそう自分に言い聞かせながら引金を引いた。

「ナイスですよ!フランツ少尉!今日の撃破三台目です!」

ハンスが嬉しそうに叫ぶ。敵の新型戦車が爆発炎上するのが見えた。だがその直後無線から大声で悲痛な叫びが響く。

「四号車被弾!戦闘不能!脱出します!うわぁ!」

「七号車被弾、右後方より敵戦車です!ベッティー型三台!」

バウアー大尉は味方の損害の連絡を聞いても冷静に指示を出していた。

「第三、第四小隊、右後方の敵戦車を片付けろ!フランツ!また正面から来るぞ!我々は正面の敵に集中だ!」

バウアー大尉の言葉が終わらないうちに僕は引金を引いていた。また一台敵の戦車が火だるまになった。だが敵の抵抗は目に見えて激しくなっていた。バウアー大尉は堪らず無線機に怒鳴った。

「こちらバウアーだ!敵市街地に突入して敵にダメージを与えるも敵の抵抗も激化!至急応援来られたし!」

バウアー大尉がそう叫んだ後車体が大きく揺れた。敵のベッティー型戦車が正面からこちらを狙っていたのだ。僕は大急ぎで主砲をそのベッティー型に向ける。

「フランツ!早く撃て!」

バウアー大尉がその叫び声を発するのとほぼ同じタイミングで僕は引金を引いていた。ベッティー型は大爆発を起こして吹っ飛んだ。

「今のは危なかったな。やれやれだ。」

バウアー大尉が汗を拭いながらそう言った。僕もその言葉を聞きながら冷汗まみれになっていた。今のは敵戦車がたまたま最初の一撃を外してくれたから助かったものの命中していたら僕らに命はなかったのだ。だがそんなことを考える暇もないぐらい敵の戦車は次から次へと押し寄せ友軍からの被害を知らせる無線は鳴り響いていた。

「二号車大破!」

「十二号車被弾!」

バウアー中隊の戦車は次々と戦闘から脱落していった。だが敵戦車隊も我々以上に消耗している筈だ。早く降伏しやがれ!僕はそう思いながら引金を引き続けた。

「三時の方向に敵戦車だ!フランツ!」

バウアー大尉にそう言われてその日何台目か分からない敵戦車をスクラップに変えた直後だった。バウアー大尉がいつにも増して大声を出した。

「まずい!十一時に敵戦車だ!こっちを狙ってるぞ!」

その声の調子から危機が迫っていることが分かる。僕は大慌てで主砲を動かすがそんなに急に三時の方向から十一時の方向に旋回は出来ない。僕の心臓の鼓動は急に大きくなり汗が額から流れ落ちた。

「やばいぞ!」

大尉のその声を聞いて僕は奥歯を噛み締めて思った。こんなところで死んでたまるか!と。僕は汗だくになり肩で呼吸をしながらも諦めずに主砲を旋回させ続けた。すると爆発音がして大尉が急に深く溜息をついた。

「ふぅー、誰かが撃破してくれた。助かった。」

大尉が汗を拭いながらそう言って笑った。危機は脱したのだ。ようやく主砲を十一時の方向に向けた時には敵の戦車は黒煙を吐いていた。すると無線が鳴った。

「バウアー大尉、危なかったな!こちらドーレだ。これより加勢する。」

「遅いぞ!だが助かった。ありがとう。」

ドーレ中隊が敵の前線を突破して街中まで我々を助けに来てくれたのだ。その後敵の抵抗は散発的なものに変わっていき敵の戦車も姿を現すことはなくなった。ようやく敵の主力部隊は駆逐されたのだ。


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