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新型戦車

「整備中隊の連中、早く来ませんかね。」

戦車の中で僕は最近ちょくちょく吸うようになった煙草の煙を輪の形にして口から吐き出しながら言った。

「待機命令が出てからもう三時間経ってますよ。」

ハンスが大きな欠伸をしながら時計を見て言った。

「もうそろそろ来るだろう。取り敢えず今は休憩してていいぞ。お前達二人も休んでおけよ。」

バウアー大尉はそう言いながらも双眼鏡を片手に周囲の警戒を片時も怠っていなかった。僕とハンスは上官である大尉が起きているのに部下の僕達が先に寝るのは悪いと思って起きていたのだがピエールとリールは二人ともいびきをかいて寝ていた。

何故これほど僕らがのんびりしているかというと先の戦闘で僕らの乗る一号車は被弾して動けなくなってしまい第七装甲師団本隊とは合流出来ず置いてきぼりにされていたからなのだ。司令部に敵の潜む村を制圧したことと破損して動けなくなった戦車があることを報告すると「可動可能な戦車は即第七装甲師団本隊に合流せよ、また修理可能な戦車は可能な限り回収するので動けない一号車と五号車、それに破壊された六号車の搭乗員はそこで待て」という命令が下ったのである。道路の地雷の撤去と周辺の索敵をして敵がいないことが分かると可動可能な戦車は第七装甲師団本隊を追いかけて移動して行った。僕は彼らの後ろ姿を見送っていたがいつの間にか見えなくなりその後やることもないので周辺の寂しく延々と続く雪原と山の風景をぼんやりと眺めて煙草を吹かしていたのである。その時だった。

「やっと来やがった。お〜い!こっちだ!」

大尉が戦車のハッチを開けて大声で叫んだ。どうやらようやく整備中隊が到着したらしい。僕らはピエールとリールを起こして戦車の外に出た。すると整備中隊の指揮官がバウアー大尉に話しかけてきた。

「バウアー大尉ですね。シラー少将からの伝言で大尉以下この場にいる中隊の皆さんはあのトラックに乗ってイカサの町に行って下さい。そこで新たな戦車の補充があるそうです。皆さんはそこで補充された戦車に乗りそのまま第七装甲師団本隊を追いかけて合流して下さい。」

「戦車の補充だって!?」

バウアー大尉だけでなくそこに居た中隊のメンバー全員が驚いた。補充は無いと聞いていたからだ。整備中隊の指揮官にいろいろ聞いてみるとシラー少将が本国の総司令部に少しでもいいから戦車をまわせとしつこく頼み込んでくれたらしい。それを聞いてバウアー大尉はニヤリとして言った。

「少将もなかなか粋な計らいをしてくれるな。よしお前ら!トラックに乗れ!イカサの町へ戻るぞ!」

僕らは慌ててトラックに乗り込みイカサの町まで約二時間ほど揺られ続けた。


イカサの町に着くと待っていたのは三型戦車のG型だった。バウアー大尉と僕は以前に少し乗ったことがあるタイプだ。第七装甲師団で使っていたF型の37mm戦車砲よりも強力な50mm戦車砲を搭載している。しかもそのG型が三台補充されるのだ。その場にいた中隊のメンバー全員がその長砲身の三型戦車G型を頼もしそうに見つめていた。バウアー大尉は皆の前に立って話を始めた。

「たった三台だが我々には貴重な戦力だ。大事に扱えよ。それからこの戦車の能力を最大限引き出す為に今から一時間だけ皆に時間を与える。取扱説明書があるからそれを見ながらこの戦車の扱い方をすぐに習得してくれ。フランツ!お前はこの戦車のことはよく知っているよな?皆に教えてやってくれ。」

バウアー大尉のその一声で即席の講習会が始まった。僕はG型の操作方法は全て一通り知っていたので皆が僕の周りに群がって説明を聞くという形になった。ハンスがそんな僕をからかって「フランツ先生、御指導宜しくお願い致します。」と言うと皆大笑いしていた。僕も苦笑いしながら皆には知っていることを全て教えた。

そうして一時間が過ぎようとした時に第七装甲師団から連絡が来た。敵の戦車部隊が近づいており戦闘が始まるのも時間の問題だという。バウアー大尉以下三台の戦車は至急イカサの町を離れて第七装甲師団に合流せよ、とのことだった。

「全員乗車!急ぐぞ!シラー少将は俺がいないと不安で仕方がないらしい。」

バウアー大尉が冗談混じりの号令を掛けるとそれを合図に皆戦車に飛び乗った。第七装甲師団のいる場所までは約三時間程の距離だ。三台の戦車が到着する頃には戦闘は終了していると誰しもが思っていたが取り敢えず我々はイカサの町を出発した。


「敵の戦車の装甲は脆いですね。我々の37mm砲を車体に命中させればほぼ一発で破壊出来ます。我々の三型戦車の方が優れているように思うのですが大尉はどう思われますか?」

道中を揺れる戦車の中でハンスがバウアー大尉に聞いた。

「いや、一概にそういう訳ではない。我々が主に相手をしている敵の戦車はベッティー型戦車という名前で主砲は45mm砲を搭載している。実は我々よりも強力なのだ。装甲も三型戦車と比較して大差はない。俺が思うに我々の快進撃は戦車搭乗員の技量の高さで成し遂げられていると思うぞ。なぁ、フランツ。」

バウアー大尉がちょっとからかうように僕に言った。するとハンスが続く。

「確かにフランツ少尉の射撃技術は神業ですものね!」

バウアー大尉とハンスがニヤニヤして僕の方を見ているので僕はぶっきらぼうに答えた。

「はいはい。誉めてくれてありがとうございます。後で二人には何か奢りますよ。」

僕ら三人は笑った。だがその時かすかに遠くで爆発音が聞こえた。僕らの笑いは一瞬で止んだ。

周囲はもう真っ暗になっていて時計を見ると夜の十一時だった。前方に爆発のものと思われる閃光がチカチカと目に入りそれに続いて爆発音が頻繁に響くようになっていた。

「戦闘がまだ続いているな。リール、無線で呼びかけてみろ。」

バウアー大尉に言われてリールが無線機を操作しながら叫ぶ。

「こちらバウアー中隊第一小隊。第七装甲師団司令部、応答どうぞ!」

暫くして返答があった。

「バウアーか?こちらシラーだ。敵の第一波は撃退したのだが現在敵戦車隊の第二波と交戦中。初めて見る敵新型戦車の為被害甚大だ。急いでくれ!」

「新型ですって!?ベッティーではないのですか?その新型は何台ぐらいいますか?」

「数は少ない。五〜六台といったところなのだが我々の戦車砲を全く受けつけない。我々の37mm砲では履帯を破壊して動けなくするぐらいしか出来ないのだ。敵は我々の陣地であるポイントV7の南から攻撃してきている。その後方から奇襲をかけてくれ!」

「了解!ハンス!全速力でポイントV7の南側へ回り込め!窮地の第七装甲師団を救うぞ!」

「了解です!」

ハンスがアクセルを踏み込み僕らの三型戦車のエンジンは唸りを上げ雪道を突っ走った。


無線で指示を受けてから三十分、我々はようやくポイントV7の南側へ到達した。周囲は真っ暗な上に霧も立ち込め出している。視界が極端に悪い。我々は所々に燃え盛っている敵のベッティー型戦車の残骸の明かりを頼りにしてゆっくりと前進していた。いつ敵と鉢合わせするか分からない。しかも敵は37mm砲を全く寄せつけない新型戦車なのだ。我々の50mm砲でも通用するのか?そんな心配が頭をよぎる。ただ敵と出会ったらすぐに砲弾を叩き込めるように僕は汗ばんだ手で引金を握りしめていた。

「ん?前方に注意、何かいるぞ。」

敵が潜んでいるかもしれないというのに危険を顧みずハッチから頭を出して周囲を警戒していたバウアー大尉が何か気が付いたようだった。僕も照準器を通して前方に注視する。するとそこに霧の中から急に戦車が現れたのだ!僕は思わず息を呑んだ。それは見たこともない戦車だった。今までのベッティー型戦車よりも一回り大きく車体の装甲が垂直ではなく傾斜していてる。我々の三型戦車は車体の装甲が垂直な為ゴツゴツとした角ばったイメージがあるのだがその敵戦車は傾斜した装甲の為かやや丸みを帯びていてスマートな感じに見えた。第七装甲師団に配備されている戦車にはあんな形の戦車はない。間違いなく敵だ。距離は20m程しかない。だがよく見るとその戦車は我々に後ろ姿を曝している。チャンスだ。

「フランツ!一発叩き込め!」

バウアー大尉の掛け声とほぼ同時に僕は敵戦車の後部に徹甲弾を撃ち込んだ。大爆発が起こる。

「よし、やったぞ!」

思わず僕はそう言って拳を振り上げた。20mの距離から装甲の薄い後部エンジンに50mm砲弾を撃ち込んだのだ。さすがの敵戦車も炎上するしかなかった。だがその爆発の炎で周囲が明るく照らされて破壊した敵戦車の左右にも敵の新型戦車が一台ずついることが分かった。さらに敵の歩兵もそこら辺りにうじゃうじゃといる。バウアー大尉が叫んだ。

「フランツ!左の敵戦車をかたずけろ!二号車は右だ!三号車は榴弾を装填して歩兵を蹴散らせ!」

僕は主砲を回転させ敵戦車に狙いをつけた。位置としては我々の戦車は敵戦車の右後方にいる。距離は50mくらいであろうか。またしても敵戦車は我々に後部が丸見えの状態になっている。しかも敵戦車は我々がすぐ近くにいることも分かっていないようだ。僕は敵戦車の後部エンジン部分を狙って引金を引いた。またしても大爆発が起きる。

「ようし、いいぞ!リール!前方機銃を撃ちまくれ!こちらは随伴歩兵がいない。敵歩兵に囲まれると厄介だぞ!」

リールが機銃を撃ちまくる。すると三度目の爆発音が聞こえた。二号車が敵戦車を撃破したのだ。戦車三台が突然撃破された為であろう。敵の歩兵達はパニックを起こし我々の戦車の横を通り抜けて我先にと逃げ出し始めた。反撃してくる勇気ある敵兵はいなかったがバウアー大尉は念の為無線でシラー少将に問いかけた。

「こちらバウアー、ポイントV7南で敵戦車三台を撃破、周りは敵兵だらけだ。応援求む!」

「こちらシラーだ!敵は退却を始めたようだ。すぐに歩兵を回す。味方を撃つなよ。だが助かった、ありがとう!」

間もなく友軍の兵士が来てくれて敵の兵は完全に追い払われた。ようやく戦闘が終了したのだ。暫くするとシラー少将が我々の前に姿を表した。我々は戦車を降りて少将を敬礼で迎えた。

「ご苦労だったな、バウアー大尉。」

「いえ、しかしこの敵戦車はそれほど強力だったのですか?我々はたまたま絶好の位置で出くわしたので破壊することが出来ましたが…。」

大尉は燃え盛る敵戦車を見ながら言った。

「いやいや、大変だった。敵の攻撃の第一波はベッティー型戦車だけだったので簡単に退けたのだが第二波にこの新型が何台か混じっていたのだ。ベッティー型はすぐに撃破したがこいつらはどれだけ戦車砲を撃ち込んでも破壊出来なかった。結局最終的には履帯を狙って動けなくしてそこから歩兵が爆薬や地雷を使って撃破したのだ。戦闘が夜に起こってくれたことと霧が出て視界が悪くなってくれたことが幸いした。歩兵が敵戦車に近づくことが容易に出来たからな。」

少将のその言葉を聞きながら僕らは揃って燃える敵の新型戦車を見た。傾斜した装甲が特徴だがよく見ると主砲も今までの45mm砲ではなくもっと大きなものを積んでいる。履帯も幅広く力強そうだ。

「これからはこいつが強敵になるな。対策を練らねばならん。」

シラー少将がポツリと言った。その言葉を聞きながら僕ら五人は誰も何も言葉を発せずただ暗闇の中で炎を灯し続ける敵の新型戦車を茫然と眺めていた。

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