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再会

リコ少尉は死んだ。やはり戦車の上部ハッチから上半身を出していた時に狙撃兵に撃たれたようだった。戦車からリコの遺体を降ろす時にそこに居合わせた軍医曰くは銃弾は心臓を貫通しており即死だったであろうとのことで苦しまずに死ねた筈だと僕らに言った。僕らはリコをイカサの町の片隅に埋葬した。

リコと僕はお互いを心良く思ってはいなかったがそれでも死んだとなると話は変わってくる。僕の心にもリコを哀れむ気持ちが浮かんでくるのだ。そして奴にも親兄弟がいて今日のことを聞いたら嘆き悲しむだろう。そのことを想像するとやはり辛く暗い気持ちになってくる。そしてリコに訪れた死がいつ自分にも訪れるのか?そのことを考えると恐怖にも襲われる。まだ死にたくない、生きたいと強く思った。

そうして僕らがリコの亡骸を埋葬し終わる頃、西の方角から友軍の主力部隊の一部がイカサの町へ到着した。主力部隊の兵士達の顔を見ていると皆意気揚々としており足取りは力強かった。だがそれもそのはずで彼らは多数の敵部隊を撃破して最前線を突破し国境から遥か奥に位置するこの町まで辿り着いているのだ。士気が高まるのも当然だった。こうして開戦から一週間、我々の侵攻作戦は順調に推移しているように見える。敵は至る所で叩き潰され我が軍に投降した捕虜もかなりの数になるという。そんな話を聞いていると元気も湧いてきそうなものだが123号車の乗員は皆暗かった。リコの死を目の当たりにしたショックは大きく全員に暗い影を落としていた。そんな時に戦車隊の指揮官であるドーレ大尉が僕らのところにやってきた。

「フランツ少尉は何処か?」

「ハッ!私がフランツであります。」

僕らは戦車内に付いたリコの血を掃除しているところだった。僕は名前を呼ばれて慌てて戦車から飛び出しドーレ大尉の前に立って敬礼した。

「貴公がフランツ少尉か。射撃の名手ということでこの一連の戦闘での活躍は部隊内でも有名だぞ。」

「ありがとうございます。」

僕はそう言って改めて大尉に向かって敬礼した。自分の働きを褒められたことは非常に嬉しいのだがやはり僕は何処か暗い表情をしていたらしい。大尉は言葉を続けた。

「リコ少尉のことは残念だった。だが過ぎたことはもう忘れろ。これからは多く見ることになるのかもしれんのだ。仲間の死というものをな。いちいち気にしていては体がもたんぞ。」

「了解であります。大尉殿。」

返事をしながらその通りだと僕は思った。僕自身精神的に強くならなければこの先生き残ることは出来ないだろう。

「ところでフランツ少尉、貴公に会いたいという人物がいるのだ。ちょっとついて来てくれ。」

「ハッ!」

僕はそう返事をして大尉について行きイカサの町のとある民家に設置してある第七装甲師団の司令部の扉の前まで来た。僕に会いたい人間?誰だろう?まさかエヴァがこの町まで来てくれる訳もないし。そう思いながら司令部に足を踏み入れると僕は思わずあっと驚きの声をあげてしまった。

「大活躍のようだな、フランツ。」

「バウアー大尉!」

僕の目の前に立っていたのはバウアー大尉だったのだ。僕は思わぬ人との再会に喜んだが同時に疑問も浮かんだ。何故バウアー大尉が此処に?するとバウアー大尉は僕の思いを察したのかチラッとドーレ大尉の方を見てから僕に向き直りこう言った。

「ちょっと二人で話をしようか。」

そう言うとバウアー大尉は司令部を出た。僕も後に続いた。そして僕らは司令部の外で寒空の下焚き火の近くで二人きりになった。そしてまず僕が口を開いた。

「大尉、お会い出来てとても嬉しいです。でも何故大尉がこのイカサの町に?」

「転属になったのだ。俺も今日から第七装甲師団の一員だ。」

「第七装甲師団に転属?いつ転属命令が出たのです?」

「命令が出たのは二日前だ。」

「二日前?第七装甲師団が作戦行動中ですよね?タイミングがおかしくありませんか?そんな時に転属命令など出るものなのですか?」

暫く大尉は黙って焚き火の炎を見ていた。だが大尉はふうと溜息をついた後僕の方に向き直り力強い口調で喋り出した。

「フランツ、お前には俺が思っていることを話そう。俺はお前が俺宛てに出した手紙を読んだのだ。そしてそれが事実であれば許されることではないと思った。」

大尉は僕の目を見ながら言葉を続けた。

「だが俺がヨーゼフの親父に直接問いただしたところで奴が素直に全てを話す訳はあるまい。適当な言い訳をして煙に巻くだけだろう。そう思った俺は憲兵隊にいる古い友人に相談して真実を探ろうとしたのだ。」

時折冷たい風が吹いたが僕はほとんど気にならなかった。それほど大尉の話に聞き入っていたのだ。

「そしてその友人がヨーゼフの身辺調査を始めた時に信頼出来る何人かの部下に事の経緯を話したのだ。するとその友人は突然前線へ転属になってしまった。」

話を聞いているうちに僕は怒りがこみ上げてきたがその怒りを抑えながら大尉に聞いた。

「ということは憲兵隊にもヨーゼフ中将からの圧力がかかっていたのですか?」

「おそらくそうだろう。その友人がヨーゼフの身辺調査を始めたこととその理由を部下の誰かがヨーゼフの息のかかった人間に密告したのだと思う。ヨーゼフは古株だから知り合いは至るところにいる。そして奴は保身の為に腹心の部下であったはずの俺すら最前線に放り出したのだ。」

僕はそこまで聞いて腸が煮えくり返っていた。奥歯を噛み締め拳を強く握りしめたまま大尉の話を聞いていた。大尉は続けた。

「勿論これは憶測だ。今となってはヨーゼフがカーソン教とどういう関係なのかは分からない。だがおそらく奴はカーソン教と関わりがあって反カーソン教の人間達と裏で派閥争いをしていたのだろう。俺はショックだったよ。国を守り抜くという熱い思いを共有していると思っていた上官が裏でそんなことをしているなんてな。」

大尉の話を聞いていて怒り心頭だった僕だがその時ふと思った。僕の手紙を読まなければ大尉はこの最前線に来ることは無かったのではないかと。今度は僕の心に大尉に申し訳ない気持ちが溢れてきた。

「大尉、すみません。僕があんな手紙を出してしまったばっかりに…。」

すると大尉は僕の気持ちを察してか笑いながら言った。

「俺ほど優秀になるとな、各部隊から転属要請がしょっちゅうあるのだ。いつかは必ず最前線に来ることになっていたのだ。そんなことは気にしなくていいぞ。」

そして大尉は再び目を炎にやり言葉を続けた。

「俺はあの手紙は嬉しかったぐらいだ。可愛がっていたお前が俺を頼ってくれたのだからな。だから尚更ヨーゼフの親父やブラウン技師のことが許せなかった。自分のことしか考えられない連中だ。いつか天罰が下ると思いたい。」

大尉の話を聞いていて世の中は間違っていると思った。国の為を思う僕達が訳の分からない争いに巻き込まれて最前線に送られているのにヨーゼフやエヴァの父親のような保身しか頭にない腐った輩はのうのうと生きている。とても納得がいくことではないがこれが現実なのだ。いつか奴らを酷い目に合わせてやりたいと僕は思った。その為にはなんとかして生き延びねばならない。

「この話はこれぐらいにしておこう。ところでフランツ、お前の戦車には俺が戦車長として乗ることになった。お前は階級が少尉だしもう戦車長ぐらい務まるだけの能力も持っているのだがお前ほど優秀な砲手は他にいない。またチームを組んでくれないか?」

大尉の思わぬ一言がそれまで負の感情に包まれていた僕に光を与えた。

「勿論喜んで!こちらこそ宜しくお願いします!大尉が一緒にいてくれたら百人力ですよ。後で他の搭乗員を紹介しますね。」

僕は大尉の申し出を快諾した。大尉となら生き延びれるかもしれない、そんな思いが希望となって無意識に僕の心に大きく広がっていった。



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