蒼く暖かい光
星屑による、星屑のような童話です。よろしければ、お読みくださるとうれしいです。
どんな出来事をイメージして書いたのかは、皆さんのご想像にお任せいたします。
目が覚めたら、ボクは別世界にいた。別世界にふんわり浮いていた、と云った方がいいだろうか――
別世界としか云い様がない。
周りには、ただ白っぽいだけの、臭いもない空間が、漫然と拡がっているだけだった。
物体と呼べるものは何一つない。暑くもなく寒くもなく、空気でさえ本当にあるかどうか、疑わしいくらい。
(一体、どういうこと?)
ボクは、通っている中学校では、まあ、普通の成績。そんな程度ではあるけれど、自分の頭を働かせ、考えてみた。
昨日(だと思う)、ベッドで眠りにつく前、ボクの周りには、確かに「日常」があった。
自分の部屋に向かうボクに、やさしい声で「おやすみ」と声をかけてくれた、母さん。
残業で遅くなり疲れているはずなのに、明るい調子でボクに笑顔を見せた、父さん。
ベッドの横には、クラスの仲間と撮った写真の入った写真立てが、飾られていた。
あのときまでは――そう、あのときまでは確かにまちがいなく、ボクの周りには家族や、仲間や、人間社会があったはずなんだ。
それに比べて、この状況は、一体何なのだろう。
今、ボクの周りには、誰もいない。何もない――
結局、明らかなのは、この世界にボクだけ、たった一人ということだ。ボクの頼りない頭脳は、ボクに、そう伝えてきた。
そのとき、ふと浮かんだ、一つの疑問。
(前に進めるのだろうか?)
手足を、もがくように、がちゃがちゃと動かしてみる。進もうとした方向が、前なのか後ろなのか、はたまた、上なのか下なのかもわからない。とにかく、動かしてみた。
ダメだった。
ボクの体はその白っぽい空間の中でただ回転しているだけで、前に進まない。もしかしたら、この世界には、前も後ろも上も下も、そんな概念すら存在しないのかもしれない――
「一人では何もできないということか……」
がっくり空しい気持ちで心が押しつぶされそうになったそのとき、ボクの目の前に、蒼く輝く、小さな光の粒が現れた。
(これが、この世界の太陽?)
ボクは、その光を自分に手繰り寄せてみたくなった。そして、もっともっと必死になって、もがいてみた。けれど、その蒼い光の粒は、ちっともボクに近づいてはくれない。
気持ちが沈みかけたとき、ボクはボクの横に、一人の少女がいることに気付いた。ボクと同い年くらいの、長い黒髪をした瞳の大きな女の子だ。
(ボクは、一人ぼっちじゃなかったんだ)
冷たく縮こまりかけていたボクの心に、温かく赤い血が、トクトクと流れ始めた気がした。
「キミは、誰?」
「ワタシは、あなたの未来」
そう答えた彼女は、どうやってこの空間を動いて来たのか、ボクに近づくと、甘いチョコレートのような笑みを浮かべて、ボクの左手をその右手で握った。つまり、ボクらは、手を繋いでたんだ。
(暖かい……。人って、こんなに暖かいものだったんだね)
ボクがそう思った瞬間、蒼い光の粒は、まばゆい光を発しながら成長をし、野球のボールほどの大きさになった。
ボクは、もう一度、光の玉を手繰り寄せるように、右手をふらふらと動かしてみた。今度は、彼女も仲間だ。二人で一緒に、手を動かした。
一人の時よりは、蒼い光に近づけた気がする。でもやっぱり、光はボクの手の中におさまらない。
(永久にあの光は掴めないのかな)
あきらめかけたその時だ。ボクは、ボクとその少女の間に、幼児くらいの小さな男の子がいることを感じた。
「キミは、誰?」
「オイラは、人類の夢」
(……そうか、なるほどな)
理屈はわからない。だけど、何となくその意味が飲み込めた気がした。ボクらは、他人であり、家族であり、人類共通の仲間なんだ。
ボクの眼から、勝手に涙があふれ出した。
その瞬間、蒼い光の玉はさらに眩しさを増し、子どもの顔ほどの大きさの塊になった。蒼い光は、その色に似合わず、ぽかぽかと春の日差しのような暖かさがあった。
どこまでもどこまでも見渡せるような、そんな澄み切った青空のような色の中に込められた、母親の眼差しにも良く似た、淡い暖かさ。
(これがきっと、愛なんだね)
ボクは、少女と子どもを、ぎゅっ、と抱きしめた。すると、光の玉は、掌を通して、ボクの心の中心に飛び込んできた。
「ありがとう。大切にするよ」
〈終わり〉