白い空間 2
1日、更新できなくてごめんなさい。明日からはまた毎日更新できるかなぁ……
「油断したね、それが君の敗因だ。まぎれもない、ね」
卓郎は、それをじっと聞いていた。かつてのように、膝まずきながら。
ここはあの白い空間。上下左右前後、ただただ白く、地面というものがない空間。それなのに、浮いている感覚がなく……ああ、前と変わらない。
「君は知ってるとは思うけど、君がああいうステキな非人間的所業をしてる最中に、右目を打ち抜かれたんだなぁ」
「……のわりには、今の俺の右目はふつうだが」
「そりゃ、この空間でもスプラッタなままではいてほしくないもの」
道理が通っているような、そうでないような。
ただ、ナニカがいう、「油断」というのは、明らかに正しかった。卓郎は、それを思う。
「いいかい、君は幸運なのだよ。こうして死んでも、また生き返ることができるのだから。……それが、今はデメリットに転びかけてはいないかね?」
「……」
「わかりにくいかな? ではこういいかえよう。君は第二の人生を、明らかに『大事に』は生きなかった。これでは、次の第三の人生も、同じようなものだろう。またどこかで、流れ弾に当たっておしまい、さ。僕は君を見損なっていたのかな」
「さんざん好き勝手いってくれやがって……」
だがナニカの言っていることは、なにからなにまで正論であった。自分は、どこかで「この状況」を、夢めいたなにかだと、ずっと思っていた。
が、殴られると、撃たれると、痛いのである。そしてそこから沸き上がる憎悪も本物であった。
これは、バーチャルリアリティなどではない。現実だ。なんのメタファーでもない、ただの現実の延長戦だ。
卓郎は考える。
確かに、俺は「大事」には生きなかった。目的をしっかと据え、大事に生きるというのが重要だろう。
だが同時に、いくら大事に生きたところで、戦闘の素人たる自分は、あっけなく死ぬのである。それも事実だ。
戦場は、暗い。堅い。熱い。そのヒリヒリした空間には、慈悲はない。ずっと圧迫感だけ感じ続ける。それを「能力底上げチート」でなんとかなると思っていた。だが……
「経験、か」
卓郎は、ふと、そうつぶやいた。
「君にしては最大級のつぶやきだ。twitterだったら1000RTは軽いね」
「twitterこの世にあんのかよ」
「なくもない、と言っておくよ。だがそれは余談だ」
お前が話をずらしたんだろうが、という言葉は今は伏せておく。
ナニカはいう。
「そう、経験。これには、二つの意味がある。まずひとつは、君には異世界『レッズ・エララ』のあらゆる常識がない。そこで生きてきた経験もない。そしてもうひとつが、君はもと生きた『あの世界』でも、たいしたことを成してきていない、ということだ」
「おまえ喧嘩うってんのか!?」
卓郎は激昂する。ナニカは冷静に返す。
「君はもっとクレバーな人間だと思っていたよ、現時点でのミスと欠点を洗い出すのは、プロジェクト遂行において、定期的にすべきタスクだというに」
「毎回わかりづらい言葉を……」
だが、意味は、よくわかった卓郎だった。
卓郎自身、今まで中2病に堪溺するばかりで、ろくに「それを現実に生かしていない」人間であった。中2病を現実に生かす? と疑問符がつかれたかたもいるだろう。だが、あまねく知識は、現実での活用がキモなのである。たしかに、直接的には、中2病は役にたたない。だが、それを「ただ持っているだけ」で「よし」とするのも、また愚かな所業だ。
万物は教師である。読者諸賢におかれては、そのことは重々承知であろうが、不幸なるかな、我らが主人公たる卓郎は、まだ若かった。そういった視点を、まだまだ持つことができなかった。
そう、ようは、謙虚さの問題である。
自分はまだ、なにもできていない人間だ、ということ。ただの弱い独りの人間だ、ということ。そこからすべてがはじまる。つまらない理屈だ。……そして、卓郎自身も、つまらない、と感じていた。
「どうしろっていうんだよ、俺に」
「卓郎くん、今の発言は、最大級にダサい発言だよ。君の人生は君が選びたまえ。僕は君のママンではないのだから」
ギリッ……と歯ぎしりをした卓郎だった。だが、事をなにも成していないのも事実。これでは、前の世界でのガキである自分と、なんら変わりない。
「……まあ、もっとも、下手に成功するよりも、まだ状況はよかったのかもね」
「……どういうことだ」
「いや、君、あの都市でもって、君の目的とするところ……たとえば、食料とか、衣服だったっけ。それらが無事に手に入ったとして、そこからまた……たとえば野宿生活だよね。君、あの町の再建に力を尽くす義理なんてないでしょ?」
「そりゃそうだろ」
「うーん、いいね。さっきから君を説教してきたけど、今はじめて見直したよ。それこそが『魔王』の度量だ。暖かな『ひと』の群れに対する温情を、きっぱりと切り捨てる感覚」
「ほめてるのかよ」
「大いにね。これはほんとに、僕はほめてるんだよ」
「うれしくねえなあ」
「この程度でうれしくなられても困るのだから、まあ僕としても、これでいい。君には、食料とか、衣服とか、そんなちんけな目標で満足してほしくないのさ。だから、君の小市民的感覚が出なくてよかった。まずは君はそこから脱却せねばならない。しかし……さて、あまねく問題は『これからどうするか』だよ、卓郎くん」
「わかっている」
卓郎は、ようやく頭が冷えてきた。
まず、自分は明らかにナメていた、ということ。様々の異世界転生系ラノベが教えたところではないか、「世界をナメきった登場人物に、救いはない」ということを。
その逆も然りだった。「世界に対して慎重さを失わない人物は、最終的には勝利を得る」と。
どこかで、現実とフィクションがごっちゃになった理論であるが、しかし、中2病患者としては、格段の進歩である。彼は、はじめて、フィクションで学んだものを、現実に生かそうとしていた。
卓郎は、より深く考える。
……の前に。
「おい」
「ん?」
「俺はこの場に、あとどれだけいられるんだ?」
「ああそのこと。いくらでも、考えていていいんだよ。スロットの目が出るまでね。この空間は、レッズ・エララの世界の中でも、また特別な時空軸にあるから」
「もうちょっと詳しく」
「イイネ、慎重になってきたね、卓郎くん。では君の求めている情報に即して答えてあげよう。具体的に質問してみたまえ」
「単語っつーか、箇条書きっぽい言い方でいいか?」
「上出来だ」
「よし……ならいう。
(1)この場でどれだけの情報が得られるのか。つまり、おまえから。
(2)この場で得られた経験は、次の人生にどうフィードバックされるのか、それとも無なのか?
(3)次に出る目はなんだ?
……こういったところだ」
それに対し、ナニカはものすごく「にんまり」とした笑みを浮かべた。
「COOOOOOL! 僕はやはり君を選んで正解だった! この状況を『まずは利用する』君の心性、狂った根性を、まずは最大限評価させてくれたまえ! 君の心性、狂った根性は、まだ死んでいない! ……そして、また破壊を繰り返すつもりだね?」
「ああ」
「暗い炎は、まだ燃えているんだね?」
「なんでだか知らないけどな。今度は、もっと効率よくブッ壊していきてぇ」
「……その欲望が、君はどこからきているのか、知っているかい?」
「だいたいは」
ヒュウッ! と口笛を吹いたナニカ。上機嫌である。
「よしよし、じゃあ、ご要望に応じて、君の疑問にすべてお答えしようじゃないか……」
そしてナニカの説明という名のご高説がはじまった。
やっと、「プロローグ」における、この世界・ゲーム設定の本格的な説明がはじまります。
なお、それはいままでの「ほうき星町」シリーズ、および「レッズ・エララ」シリーズのそれと、基本的にまったく変わりません。この前の話「3192年の~」のあたりで説明されたものとも、また変わりません。
ただ、「この世界がはじめてな人」向けの説明となりますので、この説明のくだりをお読みいただければ、今までわかりづらかったアレコレが氷解する……ように、話しをもっていきます。