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こんにちわ、レッズ・エララ

プロローグ(2)から、

 烈風、業火、黒天揺らし。

 陽炎が揺らめいては、焦げ臭さと、もうひとつ何かの嫌な匂いを感じる。……それは、おそらく、人の焦げる匂い。脂が焦げて、臓腑を焼く匂い。

 ――戦場、か。

 卓郎はなぜか本能的にそれを悟った。

 「RedsElrla」の目が出て(積極的に出して)、卓郎は、この世界に第二の生を受けたようだ。

 実際のところ、この「レッズ・エララ」という世界は、卓郎が若干思っていたような「たのしい、おだやかな」世界とは異なり、それなりに修羅のはびこる世界なのである。

 戦乱が起こり、虐殺は起こり……そんなことが、文明レベルが「現代~近未来」になっても、まだ続いている、世界。ああ、異世界。

 ほう……、と、卓郎は思った。これが俺の第二の人生か、と。その舞台か。卓郎は丘の上に立って、業火の町を眼下に見据えながら、どことなく穏やかな気持ちになっていた。

 異世界において胸が沸き立つような気持ちは、あまりなかった。もっとも、現実感がいまだ不足していたからだ、ともいえる。が、それ以上に、卓郎の心の中に、ある想念が生まれていたからだ。


(やっぱり、どこの世界も、世界が世界であるってだけで、クソなんじゃねえか)


 本能的に、卓郎の心に巣くった想念は、そのようなものであった。

 それは、「前の世界」での憎悪が、自然に導き出した想念だった。


 ときに、卓郎は、このような業火の前であるにも関わらず、若干の寒気を覚えた。

 今更おびえているわけでもない。ただ単に、外気温度がそれなりに低かったからだ。

 なにしろ、卓郎の「前の世界」の時間軸は、五月五日。ちょうど初夏のような、照りつける暑さを覚えていた日だったから、卓郎は簡単なシャツとボトムズ以外着ていなかったのだ(付け加えれば、それなりにまともな服装をしなければならなかったのだ。家にこもって悲惨なグーグル検索を、やっかいな親戚を隣に控えながらやっていたのだから、フォーマルとはいわないまでも、これ以上バカにされるような服装をするわけにはいかなかった)。


 ――何かあの町に残っているモノはないか?


 と、卓郎は自然に思った。明らかに思考が単純化というか、野蛮なものに近づいているが、そもそもあの憎悪を経た今となっては、道徳などあまり構っていられない、と思う。

 もっとも、略奪を図るつもりもない。ただ、「もういらなくなったモノ」であろう、うち捨てられた食料や衣服を、拝借するだけのことである。積極的に殺す、盗む、犯す、みたいなことまでは考えなかった。そこまで卓郎は外道に落ちたわけではなかった(今のところは)。


 卓郎は歩き出した。

 五歩目で、「あれ?」と思った。

 「前の世界」の自分の歩きよりも、明らかに「さっさっ」と、軽やかに歩けるのである。

 世界が変わって、気分が晴れたからか、と思ったが、それだけでは説明の付きようがない圧倒的身の軽さ。そこで卓郎はあることを思いついて、全速力で駆けてみることにした。


 ――ヒュバッ!!

 

 まるで鹿などの獣のように、その場を物凄いスピードで駆けることができた。しかも、疲れなどまったくない。

 卓郎は、多少背丈があるとはいえ、インドア派&オタクであるし、運動系の部活にも入っていないから、ごく平凡な運動能力しか持っていない。それが、運動部……いや、国体選手……いや、オリンピック選手並みの身体能力を、ごく当然のように持っている事実に、辿りついた。

 たどり着いた。

 そう、自分の身体能力が、前の世界のそれとは、明らかに異なっていること。

 つまり、異世界転生における「能力底上げ」……いや、簡単に言おう。「チート化」である。異世界転生俺Tueeeもののテンプレである。

 卓郎は笑ってしまった。まさにこれはラノベではないか!

 丘を駆け下りる。当然の如く転ぶことなどなく、卓郎は眼下の燃え上がる町に、突撃するかのように走っていった。


 ……そしてだんだんと冷静になって、あたりの状況を、走りながら見つめることができた。これだけの猛スピードで走っていながら。

 まずあの町は、卓郎の元の世界で言うところの、郊外の町のような規模だといえる。そこに、まず戦車と、なぜか騎馬の連合軍隊が、陸から攻めている。

 そして紅に染まる黒い空には、何機もの飛行船が飛んでいる。つまり空軍だ。

 それらが「軍隊」だと即座に卓郎が推察できたのは、彼の中2病的センスである。つまり、それぞれの機体に張られている紋章であるとか、統一されたデザインであるとかが、彼をして「こいつらは悪か敵的な組織だ!」と直感させたのである。RPG脳である。

 この町のある一帯は、幹線道路が延びていて、それを山や丘が囲んでいる。いわゆる盆地だ。遠くに川や湖も見える。どうやら、日本的な風土というよりは、前に写真集で見た、ロシアや北欧のそれに近い。だからこんなに寒いのか、と卓郎は思う。やけに頭が冴えている自分に、ちょっとばかり苦笑する。


 卓郎の俊足は、やがて町のゲートにまで到着させた。ゲートは、都市攻略の常として、当然のように破壊されている。

 さて、どこから手をつけようか……と卓郎が思っていたら、いきなり、

  

 ズギュン!

 

 という銃声と共に、彼の肩を銃弾が貫いた。


 ――え?

 卓郎は、この世界に来て、はじめて動転した。

 しかし考えてみれば当然なのである。ここは戦場だ。そこに猛スピードで突っ込んでくる、身体能力の高そうな若者。軍隊からしてみれば、「敵」としか見えようがないではないか。

 

 卓郎は、生まれてはじめて「肩がねじ切られる痛み」を、猛烈な電流に貫かれたような感覚でもって得た。

「ぎゃああああああぁぁぁぁぁああ!」

 叫びながら、前のめりになって倒れた。悶絶した。肩に手をあてたら、血が湧いてくるわ湧いてくるわ。


「なんだ……素人かよ。しかも単なる弱っちいガキじゃねえか……驚かすなよ……ケッ、クソが」


 そういいながら、遠距離から卓郎を撃った兵士が、近くまで寄ってきた。一人である。

 「クソが!」

 そして、卓郎の「肩をあえて狙って」、持っているアサルトライフルのストックで打ち付けた。

 「ああああああぁぁああぁあぁぁあ!」

 卓郎はもだえた。

 「うるせえんだよ! お前はなんなんだか知らねえんだがよ、邪魔すんじゃねえよ!」

 兵士は卓郎を、足蹴にして、また「肩をあえて狙って」蹴りつける。

 卓郎は、一方的に暴行される。

 あれだけの身体能力を持っていながら、反抗できなかったのは、この状況に混乱していたからだ。

 ……だが。

 ……どこかで、卓郎の背後で、卓郎自身が幽体離脱するかのように、自分の思考と状態を観察していた。いつの間にか。

 人間、あまりに悲惨な目にあうと、そのように乖離的な精神状態になる。卓郎は、ひどく突き放したように、「自分」というものを見ていた。もちろん痛すぎるが、痛みを痛みと、もはやあまり感じなくもなっていた。


(……またかよ)

 卓郎は思った。

(……また、こんなクソみたいな世界かよ、あの野郎、何が「たのしくなる」だよ……)

 卓郎は憎悪した。

(大体この戦争めいた状態はなんなんだ。俺に救えってのか? その割には、たいしたチート補正もかかってねえじゃないか……)

 卓郎は、しかし、兵士に暴行を受ける。

(こいつ……いつまで続ける気……まてよ、何で俺はこいつにここまでされなくちゃいけないんだ? 別に俺は、今は何もしてないだろう?)

 卓郎は、そして気づくのだった。

(……またかよ。また、俺は、クソみたいに扱われるのかよ!!!)


 その憎悪が心に燃えた。

 同時に、卓郎は、身を急激に起こし、目の前の兵士に殴りかかった。


「お、やんのかお前!」


 だが兵士もプロである。卓郎の無我夢中の殴りかかりをかわす。そしてもう一回、卓郎に銃撃を食らわそうとする。

 ……したのだが。


「ぎゃああぁぁぁぁあああぁぁぁぁあ!」


 叫んだのは、兵士だった。

 卓郎は、兵士の銃撃開始の前に、兵士の喉元に俊足でもって近づき、一気にこの兵士の喉元を歯で噛んだ……いや、「喰いちぎった」!!


多分次も、このプロローグの続きです。

もうちょっとしたら、ほうき星町の面々と、「勇者=彼女」との邂逅になります。

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