第4話
‡第四話‡
「ラディィィィィ!!」
「ひよ子ぉぉぉぉっ!!」
ラディとひよ子がいちゃこらしていた時……
倒壊した屋敷の周囲では、シャマイ族もヒヨコ族も、争いの手を止めて、それぞれの仲間の名を呼んでいた。
「ア・ヤカ……ラディが……」
「いまとびこんでったよね〜……」
ちょうどピヨキチに襲い掛かっていたレラッカとア・ヤカも、その瞬間を目撃していた。
「まさかあのしたじきに……ぁわわわ」
普段からおっとりのんびりしているア・ヤカも、さすがに焦っているようだ。
「妹が……ひよ子が!」
すると、パニくるア・ヤカの影から、一匹の雌ヒヨコが顔を出した。
「妹? あんたの妹があの中にいんの?!」
すらりとしたそのヒヨコに、レラッカが尋ねる。女子供は逃がすよう指示していたのに……
「あの子はー正義感が強いからー、族長の娘の自分だけがー逃げるわけにはいかないと思ってー残っていたんだわー!」
「じ、じゃぁその子は……」
レラッカは崩れた屋敷に目をやった。こんな小さな体があの下敷きになっているとしたら、ひよ子はもう……
「……ん?」
複雑な気持ちで立ちすくんでいたレラッカの視線の先で、山積みになった瓦礫が微かに動いた。しかも、その隙間からちらりと見えたのは……
「赤チェック! 皆、ラディだ! ラディが生きてっぞ!! 瓦礫を退かすの手伝えー!!」
仲間に呼び掛けながら、レラッカは姉ヒヨコの手羽をひいて屋敷の残骸に駆け寄った。
「あ、あのー……?」
「ほらほらあんたも来て! ひよ子ちゃんが生きてるかもしんないぞ!」
姉ヒヨコは、一瞬間を置いて、レラッカに手羽を差し出した。
「私はー、ブル子・オン・クレジット。あなたのー名前は?」
「うっわ偶然だなー! あたしの名前、レラッカ・ブ・ルコーってんだ!」
8人(+1匹)がかりで瓦礫をどかせること数十秒――
「……ぅうっ」
顔をしかめたラディが、自力で姿を現した。しかもその手の中には……
「ひ、ひよ子ぉーっ!!」
「姉さん!」
感動の再会を果たしたヒヨコ姉妹が抱き合うのを横目に、レラッカはヨウタとともに傷だらけのラディの長身を支えた。
「ひどい怪我だな……どーしたってのさ?!」
背中にぱっくり開いた傷を見て、ヨウタが気遣うような声で尋ねた。
「ひよ子を……助けに……」
「じゃあ、あの子を助けたのってあんた!?」
「ああ」
「ラディ……あんたどーして……」
いくら雌とはいえ、ひよ子は敵だ。こんな大怪我を負ってまで助けるなんて……
「簡単なことですよレラッカ。ラディ君はヒヨコに……いえ、ひよ子嬢に好意を抱いているんですよ」
「マヤン!」
座り込むラディのもとに音もなく歩み寄ってきた腹黒女は、親友レラッカに嬉々として説明した。
「おかしいとは思ってたんですよ。この前の戦のとき、ラディ君はヒヨコを一匹も殺していません。おまけにさっきは、扉の影で震えていたひよ子嬢に釘づけでしたから」
「(なんでそんなに知ってるんだ……)」
恐怖を覚えるラディ。しかし次のマヤンの言葉に、ラディは戦慄した。
「でも、ラディ君はシャマイでも屈指のモラン。一時の感傷に心乱されただけですもんねぇ。さ、モランのお手本として、このひよ子嬢をぱぱっと殺っちゃってください…おとしめられたくないならね」
[続く]