第3話
「お父しゃん……みんな……」
ピヨキチの次女・ひよ子は、屋敷の扉の影から戦況を見守っていた。
ヒヨコ族1の美少女・プリンセスひよ子――もちろん真っ先に村から逃がされたはずだった。
(皆が戦っているのに、私だけ逃げるなんてできないぴよ……)
そういう訳で、正義感の強いひよ子は、こっそり隠れて戦の様子を見ていたのだ。
だが、勝利は明らかにシャマイの手中にあった。ヒヨコ達は満身創痍。父ピヨキチも羽がほとんど抜け落ちている。
「お父しゃん……!」
幼い顔をした少女の振るう槍が、父のむき出しの鳥肌を凪ぐ。
しかし、父の危機に気をとられるあまり、ひよ子は自身に迫る牛の大群に気付かなかった。
「ひ、ひよ子?!どうして!に、逃げてー!!」
自分の姿に気付いた姉の叫びに、ひよ子はようやっと屋敷に突っ込む牛に気付いた。
「ぴよぉぉぉっ!!」
牛の直撃は避けたが、あまりの衝撃に立ち上がることもできない。
そして……
轟音とともに屋根が崩れ落ちてくる……
「ぴぃっ!」
死を覚悟して目をつぶったひよ子の耳に、どこか遠くから自分の名を呼ぶ声が聞こえた――
「……ぴ?」
しかし、予期した痛みは一向に訪れない。
不思議に思ってゆっくりと目を開けたひよ子が見たのは、一面に広がる赤チェックだった。
「だ……大丈夫、か……?」
「ど、どうして……?」
敵であるはずのシャマイ族の戦士――ひよ子の上に覆いかぶさり、広い背中で瓦礫の山を受けとめていたのは、野性的な面立ちのモランだった。
「あ、あなたはいったい……」
両手で優しくひよ子をすくい上げ、苦労して瓦礫の山から這い出したモランに、ひよ子は震える声で尋ねた。
何故この若者は、体を張ってまで敵である自分を助けたのか……?!
「あんたに……惚れたから……だから、助けた」
「ぴ……」
激痛に顔を歪めながら答えたその一言に、ひよ子のハートは鷲掴みにされてしまった。
今まで、ヒヨコ族とシャマイ族の恋人達がいなかったわけではない。しかし争いに恋愛感情をもちこむことは、戦士としてあってはいけないこと。最悪の場合、汚名を着せられ一族から追放されることもあるのだ。
なのにこのモランは、一目惚れした自分を命懸けで救ってくれたのだ。
「こんなことをしたら、あなた大変なんじゃ……」
「あんたが助かったから、それでいい……」
「……!」
気が付くとひよ子は、優しきモランに抱きついていた。
「ありがとう……私はひよ子。あなたは?」
「ラディ。シャマイのラディ・トゥクだ……」
こうして、戦場で出会った二人は、許されぬ恋に落ちた……。
[続く]