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第1話

「EPISODE SHAMAI」は、「EPISODE MIRA」とともに、『鏡の国戦記』を構成する物語です。こちらは、鏡の向こうに住むミラ族の敵・シャマイ族の個性的な戦士たちを描く、オムニバス形式のシリーズになっております。両方お読みになっていただくことで、さらに楽しめる仕組みになっておりますが、単品でもお楽しみいただけますので、ぜひご一読ください!



「いよいよ決戦は明日じゃ…」



長老の言葉に、篝火の周りに集まったモラン達は緊張した表情を浮かべた。


隣に座るア・ヤカなどは、久しぶりの狩りとあって期待に顔を輝かせている。


(なんだかなぁ……)


獅子のたてがみのような髪を夜風になびかせるラディの口から、溜め息が零れた。






ミラ皇国領の西部に広がる、乾いた広大な草原地帯――太古の昔より、その草原は神聖な場として数々の民族に崇められ、尊ばれ、そして侵略の対象とされてきた。


この草原に、古より住まい続けてきた勇敢な民族……それがシャマイ族だ。


シャマイの言葉で『ヴァナーシャ』と呼ばれるこの草原には、数々の動物が生を誇り、雨期になれば多くの植物が咲き乱れる。


そんな悠久の大自然の中で、シャマイは遊牧と狩りによって暮らしてきた。


生を尊び、己の命すら顧みずに大切なモノを守る彼らの自由な暮らしは、しかしミラ族の台頭により奪われることとなった。


ミラ皇国の王は、シャマイやその他先住民族たちを『蛮族』と蔑み、ヴァナーシャを自らの領土に組み込むことで彼らを支配した。


彼らの居住区画を強制的に割り振り、そのために今まで営んできた遊牧は難しくなり、点在していた村々は一つになることを余技なくされた。


以来、国内での部族同士の争いは絶えることなく、美しきヴァナーシャは、多くの血を吸い続けた――




そして今、シャマイ族は、同じくヴァナーシャに古くから住んでいたヒヨコ族との覇権争いの渦中にあった。



そもそもの発端は、1ヵ月前、族長ゴズィーラ・マ・ツィが任期途中にも関わらず突然姿を消したことにあった。


族長不在を好機と見たヒヨコ族の長ピヨキチは、シャマイに宣戦布告。族長選出の儀式の準備も整わないうちに、シャマイとヒヨコは戦に突入してしまったのだ。



「明日は総力戦となるだろう。今日は皆早く寝て明日に備えるのじゃ。では、武運を祈って……ウッホッホォォォォ!!」


「ウッホッホォォォォォ!!」


両手を突き上げ獅子吼する長老と、鍛えぬかれたモラン達の中で、ラディだけは浮かない顔をして座り込んでいた。




「ラディ……どこか……調子でも悪いのか……?」


戦闘の前夜祭が終わり自宅に戻るラディに、友人のシュガが声をかけてきた。


彼はシャマイでも数少ない魔術師の家系で、族長の補佐役(自らは『宰相』と名乗っている)である大魔女マヤンに弟子入りするほどの実力だ。


「あー、いや、別に」


心配をかけないように、と、野性的な顔にいつも通りのしかめっ面を纏うラディ。


(この悩みは誰にも知られるわけにはいかねぇ)


「そうか……なら……いいが……。明日は……サボるなよ……くくくくっ……」


「わぁってるって…」


シュガと別れて自室の床についたラディは、数日前の戦いに思いを馳せた。



「かわいかったな、ひよこ……」



シャマイ族には、『モラン』と呼ばれる勇猛果敢な戦士たちで構成される、独自の軍がある。



一定の年齢集団ごとに厳しい修行をつみ、ライオンを一人で倒すと言う試験を越え、一人前と認められた16歳以上の少年少女たちは、その日からシャマイ軍に入り、モランとして生きる。


人によるが、だいたい10年くらい戦士を務めあげると引退し、自分の好きな職業につけるのだ。


軍は、かつてはそれほど制度も整っておらず、狩りに出かけたり、家畜を野性動物から守る程度の役目を担っていた。


だが、ミラ皇国にヴァナーシャを征服されてからは、ミラ族に戦いを挑むため、また、村を他の民族や部族から守り戦うために、その役割や制度は飛躍的に向上した。




ラディが初めてヒヨコ族を見たのは、そんなシャマイ軍がヒヨコ族の村・ピヨヨ村で戦った時だった。


背の高いラディに必死に攻撃してきたヒヨコ達――そのちんまりふわふわした黄色い体を見たとたん、ラディは戦意を完璧に喪失した。その愛らしさに、すっかり心奪われてしまったのだ。


いったい仲間達はどうして、あんなにかわいい生きもの相手に槍を振るえるのか……!


殺らなければ、殺られる。


それがシャマイのモランにとって当たり前の事実であることは、ラディだってわかっている。


特にヒヨコ族は、これまでにも幾度もシャマイを脅かしてきた部族。連戦連勝で優勢な今こそ、制圧しておかなければ――


「でも、俺には……」


モランとしてのプライドと、人としての感情の間で悩むラディ。その夜はなかなか寝付けなかった。




次の日。



まだ夜が明けないうちにシャマイの奇襲をうけたピヨヨ村は、炎の海と化していた。


「ぴよぉぉぉっ!!」


「ぴぁぁっ!!」


黄色い羽を撒き散らし逃げ惑っているのは、雌ひよこや子ひよこだ。


「はぁぁぁっ!!」


「とぉっ!!」


「●※☆§■¥&♀$¢……」


シャマイステップで槍を振り回すのは、今一番族長に近い女と言われている、族長直属戦士団長ア・ヤカ。


その隣で鮮やかな飛び蹴りを食らわすのは、ア・ヤカに次ぐ実力と評される副団長レラッカだ。


そして、その少し後ろでなにやら呪文を唱えるマヤン……。



「……」



次々とひよこを屠る仲間の姿に、ラディは一人、鬱々としていた。


シャマイ1の弓使いであり、軍の第2部隊長であるアッタカの放った火矢が村を焼け野原と変え、まだ眠りに就いていたことも災いして、ヒヨコ達は混乱の中ほぼ制圧されつつあった。


「あとはピヨキチ! ピヨキチを狙え!!」


レラッカの指示に従い、モラン達が村で一番大きな卵(ひよこ達の家)に突進する。


「何ぼさっとしてんだよラディ! 突撃だよキャッホオオオッ!!」


「お、おぅ……」


ラディの所属する第一部隊の隊長ヨウタの怒声に、しぶしぶラディは重い足を動かした。


[続く]


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