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投資

 1929年10月24日のウォール街における株価の暴落は数ある相場師や投資家たちをどん底に叩き落した結果となった。だが、それは必ずしも全員そろって奈落に落とされたわけではない。中にはうまく逃げることができるものがいたし、それどころか逆に莫大な利益を得ることができたものもいる。そう、あの加熱した市場の流れを冷静に良い、これから一体何が起こるのかある程度理解していたものもちゃんといたのだ。

 投資家とは、深入りを避け、うまく損切りをする見切りの良さと、流れを読み、のるかそるかのギャンブラー的精神という決断力を併せ持っているという冷徹であり苛烈という極めて面倒くさい生き物なのである。


 さて、うまく逃げることができたやつの代表例にジョゼフ・ケネディがいる。後の、ケネディ大統領の父親である。9月半ば以降小刻みな株価の下落などを知った彼は保有株の大半を売り払い、投資の世界から身を引くことで、24日以降の破滅的な株価暴落などから生き残ることができたのだ。後に彼は、ルーズベルト大統領の側近として、金融や市場関係の職務において辣腕をふるうこととなる。


 一方で、莫大な利益を持つことができたものにはジェシー・リバモアがいた。ウォール街の灰色熊と称されたほどの著名な相場師である彼は、24日の暴落に対して空売りを行い、1億ドルという巨額の利益を得ることができていた。最も、その直後にJPモルガンなどからの頼みによって25日にはほかの投資家たちとともに売ポジションから買ポジションへと移り、株価を上向きにすることに協力しているが、それでも彼の挙げた利益は莫大なものであった。


 こうした成功者や逃亡に成功したものもこの一連の株価暴落事件の中にいたことは確かである。さて、そうした数少ない利益を上げたものの中の一人にある一人の日本人がいた。言うまでもないことであるが、義男である。こいつは未来情報と前世の経験によってアメリカの株価が大暴落することを知っていたし、いくつかの情報からその裏付けもとることに成功していた。そして暴落から続くおおよそ一週間にわたって空売りと買い戻しを繰り返し、その結果、アホみたいな利益を上げることに成功していた。










1929年12月20日 別府造船 会議室


「ほ・・・本当にこんな額を?」


「今までもこんなことはありましたが・・・」


「しかし・・・」


 年の瀬も迫ったこの日、集合した雷蔵をはじめとする別府グループの役員たちは・・・全員そろいもそろって顔色をころころと変えていた。いうまでもないが、義男が稼いできた金が莫大なものであったからだ。義男は笑い狂っていたわけであるが、次に問題があった。この金をどうやって使うのか・・・?である。

 言うまでもないことであるが、この一連の混乱のどさくさに紛れて得た資金の種金は安田などから融資された資金と別府造船の持つ裏資金である。一応、今回の株式投資において義男が主導で勝負を仕掛けるにあたっても、一応雷蔵や役員連中からの承諾は受け取っており、一定の裁量権を一時的ながらもらっていた。だが、それはあくまである一定期間これを利用して資金を稼ぎ出すというものでしかなかった。それだけであったとしても通常ならばありえないようなことなのだが、要は別府造船のトップたちはそれだけ追い詰められていたということでもある。つまり、義男が好き勝手に使える金というわけではないのだ。そのため、必要なことは・・・いうまでもないが、役員たちとの再協議である。


「全員言いたいことがあるかもしれないが・・・ここにある書類に書かれている金額は間違いなく本物だ。まぁ、まだ円に換えてないから国内で使うには不自由するんだが。」


 義男が頬をかきながら言った。半分照れているようである。いうまでもないが、こいつは最近腹が出てきた40代のおっさんである。

 義男たちが日本に帰国したのはつい3日ほど前のこと。ニューヨークでぼろもうけした後義男たちはその金を急いで処理すると、その足で客船ブレーメン号に乗船して一路ドイツへと向かい、ちょっとした買い物をした後、今度はシベリア鉄道を使って日本に帰国したのだった。で、帰国後、すぐに会議と相成ったわけである。



「信じられませんが・・・本当のようですな」


義男の言葉に武田は静かに言った。声が若干震えているが


「うん。そういうわけで、次の問題なんだが、こいつを一体何に使うのかってことだ・・・」


「真っ当に考えるのでしたら、三井などから借りた融資の返済後、いくつかの事業に投資をして後は内部留保として貯金する・・・というわけにはいきませんな」


「一部は貯金は可能だが大半は難しいだろうな・・・」


 げんなりする様に言った一色の言葉に義男をはじめとする全員がうなずいた。そう、この金はあまり長いこと手元い置いておくのが難しい金であった。何度も言うようだが、この金は別府グループの裏資金と三井からの融資された資金によって生まれた金である。

 つまり、下手に財閥や国にかぎつけられたらどうなるか分かったものではない。最悪税務署によって稼いだ額以上が没シュートされて外積の債務返済やら訳の分からないクソみたいな事業に金を使われた挙句、自分たちは店をたたまねばならないなんて言う最悪最低の結末をたどりかねない。それだけは絶対に避けなければならなかった。

 もちろん、そうなら内容に義男は手を打っていた。資金はアメリカや欧州に作ってあるいくつものダミー会社に分割してプールしてあり、しかも資金の流れもそれらダミー会社をいくつも経由させることで滅茶苦茶にしてそう簡単にはたどれないようにしているから、そう簡単には三井などの財閥はかぎつけることができないハズだ・・・多分。

 が、いつまでも手元においておけるような額であるわけでもない。つまり、さっさと処分してしまわないといけない厄介な金でもあった。


「そういうわけで、この面倒くさい金をどうやって処分するかがとりあえず緊急の課題なんだが・・・どうしようか?」


 義男の言葉に全員が頭を抱えた。彼らの心境を訳すならば宝くじでいきなり5億円あてたようなサラリーマンたちであった。宝くじを買った時は何をどうやって使おうかとか考えるのだが、いざ当たってみると何をどうやればいいのか分からなくなるというものだ。しかもこれは貯金をすることがほとんどできないという厄介な金である。


「・・・現在建造中および計画中の客船の建造資金と融資の返済に充てるとして・・・残りの投資先ですか・・・」


「造船設備の増強もいいかもしれんが、それにしても限界だ。」


「取り合えず、横浜の造船設備を強化する必要はありますな」


「神戸製鋼所の高炉建造資金に充てるというのは・・・」


「この間日鉄法ができたからな。大蔵省や商工省の役人どもが絶対に茶々を入れてくるぞ」


 神戸製鋼の高炉の新造はどかと提案する後藤の言葉に義男は鋭くいった。この前年に八幡製鉄を中心として三井製鉄などをはじめとする日本の多くの製鉄会社が一気に合併する日鉄法がこの年の8月に成立しており、日本最大の製鉄会社となる日本製鉄株式会社が1930年の4月には成立する見通しとなっていた。史実より3年ほど早い誕生であった。

 神戸製鋼にもこの合併についての話は来ていたが、丁重にお断りしていた。義男たち別府グループからすればあまりメリットがなかったからだ。義男たちは独自で加古川の製鉄所をより強化しようとしており、そのためにドイツやアメリカから転炉や新型高炉の材料の買い付けに奔走している真っ最中だった。

もちろん、日鉄成立の動きは別府グループは早くから察知しており、必死になって設備の強化にいそしんだ結果、なんとか新型高炉群と転炉の建造の目途はついていた。あとは数年後の完成と火入れを待つばかりである。

 が、この件についてはこれ以上の強化は難しいというのがグループ内の一致した見方であった。一応、大分市にも造船材料を製造する目的で高炉と転炉をもつ大規模な製鉄所を用意するという計画もあったが、それが認可される可能性は極めて低かったし、たとえ認可されるにしても相応の時間がかかることが予想されていた。

 

「本業はダメ、傘下最大手の神戸製鋼へのテコ入れも限定的になりますし・・・となりますと」


「一つが石油かぁ・・・」


 細川がうーんと微妙な表情を浮かべながら言った。別府グループは貝島らと合同で東邦石油開発㈱を立ち上げて石油事業にも力を入れており、実際に山形にて油田を発見し、生産しているが、それは微々たる量に過ぎなかった。まぁ、国内の油田で勝負はできないことは最初から全員が知っていたし、すでに海外においても事業を行うべく動いている真っ最中であった。実際、旧トルコ石油から引き抜いた人々のうち何人かがすでに海外事業部の人員らとともに中東方面に足を延ばしており、現地で交渉、調査にあたっている。

 が、致命的なことに、そうした石油関連の人材が別府グループには恐ろしく不足していたのである。確かにドイツから人員を何人か引っこ抜いてくることには成功しているが、あくまでそれはほんの一部でしかない。義男たちが洋行で引き抜いてきた人材の多くはもともと造船や鉄鋼関連の人物が中心であり、石油関連の人材は非常に不足していたのだ。


「取り合えず、スタンダードあたりと交渉して石油関連の人材を引っ張り込むしかないのかなぁ・・・」


 義男は残念そうな表情で言った。幸い金はあるし、その一方でアメリカは景気の低迷によって消費と供給がともに減速することは確実であろう。となれば、石油関連にもそれは直撃するだろうから十分に人材や機材を手に入れるチャンスはあるように思われた。すでにスタンダード系の石油会社とのつてもあるわけだし、不可能ではないだろう。


「あとは・・・自動車かな?」


 義男がおずおずといった。この時代、日本において自動車生産を請け負っていた会社はいくつかある。その中で大手と言えばいすゞ自動車、フォードと三菱であったといえる。のちにそこに日産が加わるのであるが、鮎川がダット自動車を買収して日産車体を作って本格的に自動車産業に参加するのはもう少し先のことだ。

フォード自動車はこの時代、日本においてノックダウン生産を行っており、大規模な工場も持っていた。現在の横浜にあるマツダの研究センターがそれだ。1927年ごろにはフォードA型の生産販売を行っていた。


「機材もなければ人材も皆無ですが・・・」


「幸いと言っては何だが、フォードがまたニューモデルを計画しているって話を聞いてな。うまくいけばフォードの現行モデルを生産機材を丸ごと買いたたけるかもしれないとなんとなく思ってな・・・」


「現行モデルって・・・機材をもらって工場を立ち上げるころには時代遅れの車種になってそうですが・・・?」


義男の言葉に武田が言った。義男もそれは知っている。


「でも俺たちってそもそも自動車作った経験なんてないしな。でもこれから売れそうなのって自動車くらいしか思いつかないっていうのも事実だし・・・」


「そもそも我々は造船屋ですからね?」


「それを言えば三菱や石川もそうだろう?」


「確かに、石川さんも自動車生産に力を入れていることは有名ですがね・・・」


 そう、日本という国は造船屋が自動車を生産することは別に珍しいことではなかった。石川播磨重工が自動車生産に着手したのは1929年ごろのことであり、のちにいすゞ自動車となっている。


「しかし、首尾よく生産機材を手に入れて工場を立ち上げて生産ができたとして・・・売れますかね?」


 後藤が訪ねた。そう、ただでさえ世界経済の先行きは怪しいし、その上にフォードはそのとんでもない生産能力をフルに生かして作りまくった中古車がこの世にあふれている。そんな状態でほとんど新古車ともいうべき旧式車両を大枚はたいて買ってくれる顧客がいるのだろうか?というか、それなら中古車を大量にアメリカから買い付けた方が楽なんじゃないか?


「その辺は価格次第だと思いますがね。特にうちの国はこれから自動車関連は売れ行きは伸びると思いますし、それに、大量生産技術を手に入れるための投資だと思えばいいのでは?」


 後藤の疑問に細川が言った。そう、1923年の関東大震災によって自動車が人員輸送などで大活躍した結果、自動車が着目され、国内における自動車需要はかなり高まりつつあった。最も、高価である分なかなか手が出せなかったともいえるが・・・。


「確かに、大量生産によって価格が抑えることができれば、旧式車種でもそれなりに売れる可能性があるな・・・」


雷蔵が納得したように言った。


「といっても思い付きだけどな・・・」


「具体案をもう少しちゃんと考えないとだめですね・・・それから、今度新しく傘下に加わった企業団にも仕事を与えませんと」



後藤がたしなめる様に言った。




「そうだな・・・繊維や薬品や食品にもかぁ・・・高度な柔軟性をもって臨機応変に投資をしていくしかないか」


「恐ろしいくらいのどんぶり勘定ですね。経理の名が泣きますよ・・・」


一色が思わずため息をついた。むろん、これは青写真の青写真に過ぎず具体案はこれから本格的に経理部や営業部が中心となって詰めていくことになるが、それにしたって無茶苦茶な決め方である。


「まぁ、とにかくあれだ・・・反撃開始ってやつかな?奴らをあっと言わせてるとしようか?」



大企業のトップたちが行おうとする投資の割には行き当たりばったり過ぎる超適当な考えに苦笑する皆を見まわしながら、義男は茶を一口飲んでからそういった。

 彼らの考えは一つだった・・・この暴落が起こった以上おそらく財閥たちは金を取り上げに来るから、下手にかぎつけられる前にさっさと使ってしまわなければならない。とりあえず金はあるから何とかなるかもしれない・・・というかそう祈るしかない。というものだった。悲壮感があるのかないのかなんかわからないがその時の彼らはそうするしかなかったのだ。




 



皆様こんばんは

何とか恐慌から続く話を書くことができましたが・・・すいません。手直しに時間がかかった挙句に無双するとか言っていたのですが、なんかすごくグダグダした話になってしまいました。しかも全員が投資先に対して頭を抱えて最終的に行き当たりばったりの方策を立てるという極めて適当というか敗北フラグがものすごくたつような終わり方です。

次回はほかの財閥との関係とかを書く予定です・・・しばらく無双は難しそう。というかやっぱり自分には最強系主人公は書けないのでしょうか?(泣き言)


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― 新着の感想 ―
まだかなまだかな~
外貨が稼げたならテキサスの油田開発をやって欲しいですな。ほんで日本に持ってきて円を稼いでは
是非続きをお願いします。
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