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振動

 話をしよう・・・別に1万年と2週間前とかそんな微妙に正確な時間の話なんてしないし、する気もない。

 日本は戦後、高度経済成長期という経済の著しい進捗があった。この時、数多くの日本製品が海外にて飛ぶように売れ、『made in japan』という言葉は文字通り世界を席巻した。その代表的なものが車であろう。トヨタや日産、マツダといった日本の自動車メーカーは、世界中に車を売りまくって成功している。そして、もう一つが・・・家電製品であった。最初はラジオや扇風機だったのが、やがてはテレビや冷蔵庫、そしてエアコンへと順次進化し、やがては我々がいつも弄くっているpcやスマホへと変貌していった。もちろんその中でも数多くの企業が成長していった。

 松下幸之助によって築かれた巨大企業団松下グループ、ゲーム機やパソコン、ウオークマンなどで世界を席巻したソニー、それを追うように富士通や東芝といった会社が次々と優れた家電製品を作り出していった。近年でこそ海外のメーカーの追い上げなどによってやや劣勢に立たされてこそいるものの、それでも日本と言えば優れた電子機器のメーカーを多数保有している国であると言えよう。


 未来人たる義男としてはこうした優れた電子機器を世に出し、自らがより暮らしやすい世の中にしたいと考えていた。

 その中でも、義男はレーダーの開発に意欲を見せていた。これからはレーダーの時代でしょう!と言う奴である。実際、史実で米軍のレーダーなどによって日本海軍が長い年月を掛けて研鑽してきた夜戦が封じ込められた事実を知っていることを考えても、レーダーやソナーといった新技術は必要不可欠だと考えていた。これは別に軍事技術だけではなく、漁業や通常の船舶の運航の安全上どうしても必要なモノでもあった。

 が、当時、まだよくある架空戦記に出てくるようなすごいレーダーなんてものは形にはなっていないし、義男としてもこいつは一介の営業屋でしかない。簡単な紹介程度の知識なら持っているが、より専門的なことになると、なにをどうやったらいいのかさっぱり分からない。ついでに言えば、ドイツから引っ張り込んできた技術者もまたレーダーって何それ?という状態であった。

 当時、レーダーの原理自体はすでに考えられていたが、実用化はまだまだずっと先の話だった。義男としても、研究しようにもすでに造船所のリソースはコンテナの開発やフェリー建造などに振り向けていたため、とてもじゃないがそんな余力はなかった。

 だからこそ、やるべきものはまずは既存のものである。技術者達と協議した結果、まずは通信機器の開発、生産を行うことになった。そのために電子機器開発部門を立ち上げることにした。これをいずれは山岡の率いる造機部門共々切り離して独立させ、別府造船傘下の電気機器メーカーとなってもらう予定であった。今のところは、宮部が部長として指揮を執っているものの、ゆくゆくはより経営的に優秀な人間をトップに据えるつもりだった。それはもちろん宮部も承諾済みである。

 

1922年12月2日 

師走のある日、義男は東北にあるとある大学にやってきていた。目的は一人の人間に会うことであった。


「寒いな・・・九州とは大違いだ」


 雪が積もり、半ば埋もれた校門から学舎に延びる一本道を歩きながら義男は毒づいた。九州育ちである義男は、この時代に来てから寒がりになっていた。もちろん、別府でも雪は降るときは降るが、それでもそんなにどっかり積もることはない。それに、それほど極端に寒いわけでもない。一応こいつはドイツで数ヶ月ほど商談と新婚旅行で暮らしていたことがあるのだが、その時期はそれほど寒い時期でもなかったために何とかなっていた。だが、東北の冬は寒い。もちろん地域にもよるが、それでも九州よりは確実に寒い。義男としては、とっとと目当ての人物にあったら蔵王にでもどこにでも行って温泉に入って暖まりたいというのが彼の今の切なる願いであった。

 周りを歩く学生はそんな彼の苦悩をよそに楽しそうに会話の花を咲かせていた。その風景を見て義男は前世の大学時代を思い出していた。あの頃は自分も若く、そして最も輝いていたのだとも感じていた。尤も、サークルの飲み会で調子に乗った末にぶっ倒れかけたことは彼にとっては黒歴史であるが、それはご愛敬であろう。


 そんなことを何となく考えながら歩いて行くと、やがて受付の守衛から教えてもらった部屋にたどり着くこととなった。ノックをすると中からどうぞという声が聞こえたところからみると、彼のお目当ての人間はどうやら在室しているようだった。ドアノブに手を掛け、ゆっくりとドアを開けた。

 

 中には、書類と書籍、そして何に使うのかさっぱり分からないような変な機械が置かれた雑然とした部屋であった。その中に、一人の青年の姿があった。義男よりもやや若そうな男であった。


「お電話させていただきました、来島義男です。岡部金治郎先生ですね?」


「ええ。そうです。散らかっていて申し訳ありませんが、どうぞおかけになってください」


岡部という男は「寒かったでしょう?」といいつつ義男に席と茶を勧めた。


「お電話させていただいたとはいえ、押しかけたことに代わりはありません。どうぞお気になさらず」


「・・・それで、研究のことでしたね?」


「ええ、あなたが行っておられるマグネトロンの研究・・・私、実はそうした電子関係に大いに興味がございまして・・・先生はその道ではかなり有名であるとお聞きしております。出来ることならばお話をしてはいただけないでしょうか?」


「先生はやめてください。私は一介の講師でしかないのですから」


「いや、お話を伺うのですから・・・ましてや私は学生ですらありません故、そう呼ばせていただきたい」


「分かりました。まずはマグネトロンですが・・・」


岡部の言葉を義男は真剣に聞いていた。マグネトロンとは何か、そしてその将来性はあるのか?彼自身はその将来性にどのようなものを浮かべているのかということを。


「なるほど、つまりこの新型真空管は電波照射における核となり得る存在と言うことですね?」


「その通りです。しかし、現実にはまだ出力は弱く。安定性も十分ではありません。また、どうしても他の真空管などを使う必要から電波照射などを行う際には大型化してしまう傾向にもあります。」


「つまり、出力が安定化する必要性があり、今後はそれを中心に研究していくと?」


「そうですね。しかし、この分野はまだまだ世界のどこででも手探りですからね。かなり厳しいですよ」


岡部の言葉に義男はうんうんとうなずいた。


「我が国はまだまだ欧米から見たら二流以下ですからな。しかし、一流ではなく二流を最初から目指す人間には一流にはなれない。しかし、長年の蓄積があるところにいきなり一流を目指すというのは容易ではない。ならば、彼らがまだ手を十分に出していないところを狙うのです。そこならば彼らとも一流を狙って競うことも夢ではないですね」


義男はそう言うとにやりと笑った。


「・・・話は戻りますが、真空管技術は欧州の方がずっと高い技術を有しております。我々が今から追いつこうというのは難しいものです・・・ならばどうすべきか?」


「確かに、私が研究しておりますマグネトロンは通信の幅をより大きくすることが出来るだろう将来を秘めておりますしかし、まだ全てが手探りの状態なのです。」


「ですが、将来性はある・・・ちがいますか?」


「その通りです。」


「しかしお話を伺う限り、なかなか研究は思うにはかどらない様子ですね?」


「大きな声では言えませんが、人的、資金的な問題もありますからね。まだまだ電波技術は本邦は立ち後れていますから、それが拍車を掛けているのです」


その言葉に義男はにやりと唇をつり上げた。


「なるほど・・・決まりです。是非、投資させていただきたい。最初は・・・そうですな、30万ほどでどうでしょう?」


「・・・はあ!?」


驚く岡部をよそに義男はにこやかな笑顔を浮かべながら続けた。

ちなみに、安土丸型貨物船の建造費は大体100万くらいである。


「ご入り用とあればもう100万程度でしたら直ぐにご用意しましょう。その代わり・・・モノになった際の製造権および販売権は弊社・・・別府造船所に渡していただきたいのです。」


「別府・・・造船所・・・?」


「はい、九州の方にある造船会社でして、私そちらで社長をやらせていただいております。」


義男はそう言うとニコニコと名刺を手渡す。


そこには、確かに別府造船所代表取締役と記載されていた。


「・・・なぜ、私のような一介の・・・それに電波技術はまだそれほど注目されていないですよ?」


「だからこそですよ。今から電波技術を磨いておくのです。それは将来的には大きな利益となり得るのですから・・・それに、弊社の関連会社には海運会社もありましてな、その船舶の安全性のためにも必要なのです。」


義男は出されたお茶を飲み干すと話を続けた。


「・・・昨今の海難事故をみるに、濃霧や夜間での衝突事故というのは絶えません。現にタイタニックは通常ならば分かるはずだった巨大な氷山に衝突しました。どんなに見張りを増やしても見えないモノは見えません。では電波の目がそこに加われば?海難事故の確率は低下させることが出来るでしょう。精度が高くなれば高くなるほどに・・・ね?」


「先ほどあなたが電波照射のことを言っておられたのは・・・?」


「全てそのことです。うちの技術者によりますと、そのためにもマグネトロン・・・つまり電波を作り出す核は必要不可欠らしいのです。」


「確かに、マイクロ波の微弱な振動は確認されておりますが・・・」


まだ十分に起こすことが出来る段階ではないと岡部が言おうとする前に義男はマシンガンみたいに言った。


「その出力の高い安定した物を作っていただきたいのです!資金ならば提供いたしましょう。必要とあらば人材の探索にもご協力させていただきます。無論、製造権や販売権を取得したからと言っても開発者であるあなたにも相応の利益の提供もお約束いたします。」


「本当に開発できるか分からないのですよ!?」


「私はあなたなら開発できると信じているからこそ、資金を提供しているのですよ。新しい技術によってよりよい社会を作り上げることこそが私の使命だからです・・・自分で言っておいてなんかこの台詞は政治屋みたいで嫌ですね。」



 ハハハッと苦笑いを浮かべる義男を見ながら、岡部はなんだこいつと内心思っていた。実際、彼が行っているマグネトロンの研究は国内どころか世界でもまだ端緒についたばかりの分野であった。それ故に、注目されることも少なく、研究資金は少なかった。しかし、ここでいきなり自分の研究を認めてくれる人間が突然押しかけてきて、かつ資金提供の話を持ちかけてきたと言うことに岡部は驚くこととなった。そしてそれ以上にどうして自分なんかに?とすら思い、不信感を抱いた。まぁ、当然かもしれない。突然見ず知らずの人間があまり知られていない分野の研究の話を聞き、あまつさえそれを支援すると言い出したのだ。変なやつ以上の何者でもない。


 しかし、義男にしてみればまじめもまじめ、大まじめであった。軍事知識しか知らないこいつであるが、その中でレーダーの重要性はよく理解していた。そしてその中で日本は優れた基礎技術を持っていながらも、それを理解せず、国外に二束三文で売り払ってしまったと言うことも。

 だからこそ、義男はこの技術を自分たちで発展させてしまおうと考えていた。つまり独占である。どうせ誰も価値がないモノだと見なすのだ。だったら自分たちで使い物になるようにしてしまえば良いではないか!この考えの基、義男はドイツ人技術者などにも声を掛け、新しい電子技術の研究を行っている人間を片っ端から捜し出すことにした。

 岡部もそのうちの一人であった。後に彼は史実より早く分割陽極マグネトロンの開発に成功し、さらにその高性能化の研究にも携わっている。それが出来た背景には、別府造船所を通しての強力な資金援助があったからに他ならない。


 このほかにも、多くの技術者が別府造船からの資金援助を受けて新型機器の開発に成功させており、そのために別府造船はその後高い技術力を保存、成長させることに成功した。これが後に、ソニーや松下グループと並ぶ家電機器メーカー『別府電機産業』を起こす切っ掛けとなっていくのだが、それはまだ義男本人は知らない。



皆様こんばんは、色々書いていたらちょっと遅れてしまいました。

今回はマグネトロンについてのお話です。本編でも書きましたが、この岡部金治郎という人はマイクロ波を用いたレーダーの心臓となる分割陽極マグネトロンを開発した人です。が、軍などの無理解で海外に持ってかれることになります。で、その重要性を知ったのは戦中だったらしいです・・・。ということで、今回は青田買いで彼を取り込むことにしました。


さて、次のお話はそろそろ学校を作ることになるかもしれません。

次回はもっと早く上げられるようにしたいです・・・。

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