閑話休題~秋津教授の憂鬱
都会からは離れていたが、人里に近い、そんな閑静さと活気の丁度中間にあるような土地。そこに一つの大学があった。その一角にて、一人の初老の准教授の姿があった。なを秋津という。経済史を中心に研究する彼は、4月の人事異動関連や講演関係などの日々の喧噪も一段落し、研究室にて窓の外のそろそろ散り始めた桜を眺めつつコーヒーブレイクを楽しんでいた。しかし、彼のその至福の時間は、数人の学生の入室のために、唐突な終わりを告げた。
入室してきた学生から手渡されたのは一枚の書類。『クラブ設立願い』だった。この大学においては、クラブやサークルを作る場合、管理者として顧問を置くことが決まっていた。といっても、基本的に名目上の管理者でしか無く、多くの場合は学祭の時くらいにしか顔を出すことはなかった。秋津はこの時どの部活の顧問もしてはおらず、生徒や大学当局から目を付けられたのだった。
秋津教授は呆れたように、目の前にいる学生達を見回した。
「アー・・・つまり、新しい部を作るから、顧問になって欲しいって事かな?」
「はい。お願いします」
「なるほどね・・・ところで、どんなことをやるのかね?」
秋津は目の前にいる生徒・・・小早川に尋ねた。
「オカルト・・・魔術とか、後はマヤとかの古代文明について調べたりする予定です」
「オカルトねぇ・・・」
秋津は大学で経済史をあつかっており、とてもじゃないが、オカルトなどとは無縁だったのだが、ふと自分がかつて研究した中である人物を思い出した。
「今、各務君はマヤ文明とかとはいったが・・・一時期テレビのバラエティーで有名だったっか・・・未来を予知していたなんていう珍説は知っているかね?」
「ええ・・・宇宙人と交信していました。それで、世界の終わりの観測を・・・」
各務は話を続けようとしたが、秋津はそれを制した。この手の話は長くなることを自分自身の経験からよく知っていたからだ。
「あぁ・・・そういう説もあるのか・・・まぁ、いいや。経済史の研究者の中でもね、実はこいつは未来を予知していたんじゃないか?という人物がいるんだけど、君たちは知っているかな?」
唐突な秋津教授の質問に、学生達は一様に首を横に振った。
「経済という物は数字で表せる物でもあるんだ」
「・・・だからこそ、四季日報などのデータである程度の未来は予測できるのでは?」
「良いところに気がついたね、君は?」
「史学科2回の棟方です。近世のイギリス史を研究しています」
「近世の西洋・・・ああ、蓮見教授のゼミか・・・彼処は大変だろう?」
「ま・・・まぁ・・・」
言葉を濁す小早川を面白そうに目を細めて見つめつつ、アノ噂は本当だったのかと思ったが、直ぐに本題に戻ることにした。
「しかし、完璧に未来を予知することははっきり言って不可能だ。でなければ、この世でバブルなんて物は発生しない。南海泡沫事件とかがその典型だね?」
秋津の言葉に棟方は少し戸惑いながら頷いた。ふむ、まだここは勉強していないのか・・・後で担当教授に伝えておくとしようと秋津は心にとどめた
「しかし、殆ど完璧に未来予知をやってみせた人物がいた。尤も、日にちなどはずれていたがね」
「そんな人間がいたんですか!?」
各務が尋ねた
「珍説の域でしかないけれどね・・・君たちは、別府グループを知っているかな?」
「知ってるも何も・・・財閥の一つでしょう?」
「うん、まぁ、船が有名だね。この前もなんだったかな、大型のクルーズ客船を竣工させたとニュースになっていたし。後は、車や石油とか繊維、後電気製品が有名だね・・・早い話何でも屋だなこりゃ」
「ところで、別府グループがどうしたんですか?」
「来島義男・・・別府グループの実質的な創始者といわれているがね・・・彼の記録を見てみると、まるで未来を知っているかのような行動を取っているんだ。」
ここから、オカルト研究会と秋津教授の関係は始まったのだった。
皆様こんばんは
今回は未来編と言うことで初めてかかせていただきました。
取り敢えず今回は出だしだけですね。
もう少ししたら、本格的に未来から見た義男の話を書いていきたいと思います。
多分、次回以降の最新話を挙げるときについでに挙げる予定ですが、その都度、後書きで告知していく予定です。