表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/56

解体

翌日、部屋に尋ねてきたヒトラーに案内された義男は彼の住むアパルトメントへと通された。

そこには彼の自室兼アトリエがあった。


義男はそこで彼の絵をべた褒めした。


義男には芸術に対するセンスと言うかそういうのはほとんど持ち合わせてはいない。

なんとか一般人レベル・・・と言ったところか。(前世で中学のときの美術が5段階評価で2だった(笑))

ピカソの立体的に表現されたと言う絵を見てもなんじゃこりゃ?と思うような人物である。(むしろ彼のは青の時代や薔薇の時代などの初期の絵の方が好きだったりする)


彼の絵をほめたというのも、芸術的センスと言うよりも、社交辞令の部類が大きいものであった。


尤も、現在のようにボロカスに言われているほど酷い出来でもなかった。

ヒトラーが書いていた絵が写実的なものであり、それが義男の好みに合っており、純粋にほめたかったというのもあるが・・・。


そのときのヒトラーはまんざらでもなかったりする。


実際、彼の絵は当時の流行(当時は印象派が主流だったが、ヒトラーは写実主義だった)とはおおきく外れており、それほど評価されていなかった。また、政治活動にも参加していたこともあってそれほど絵を描くことができなかったと言うのもある。


そこでいきなり変な日本人がやってきて自分の絵を激褒した!


ヒトラーは確かに人種差別主義者ではあった。

だが、それでも純粋に芸術を褒められるとなると話は別である。


こうなるとヒトラーとしても満更ではなかった。



そんな訳で、ヒトラーの義男に対する評価はとても高いものであったと言うが、その一方で、日本人とはとても奇妙な存在だとも後年出版されることになったヒトラーの著作である「我が闘争」には記されている。

それでも、史実ほどボロカスには書かれなくなったりするだけ、まだマシなのかもしれない。


義男はここで数枚の絵を購入したのだが、これを機に、ヒトラーとの親交が始まった。


彼は後に時々渡欧するように成るのだが、そのたびに彼を尋ねて絵を購入するなどしており、個人的には良好な交友関係を築くことになる。

だが、それはまた後に語るとしよう。






・・・さて、ヒトラーとであった後、義男は茜と共にドイツの観光名所をいくつか見て回り、社員達と合流してドイツ東部へと向かうことにした。

彼らが向かったのはダンツィヒ

古くはバイキングの時代から人が住んでおり、中世最大の都市連合であるハンザ同盟に参加し、ポルメルン公国の首都ともなった由緒あるドイツの港町である。

後に、第二次世界大戦勃発の舞台となるところでもある・・・。


そして、この町はいま揺れていた。

ドイツが大戦に敗北したことによって、この町はドイツ領土から離れることが決まっていた。

そして、その代わりに連合国の保護下に置かれて新しい国家である自由都市ダンツィヒという都市国家になる。


そんな混乱の真っ只中に置かれたところに義男達がやってきた理由はただ一つ


鋼材が欲しかったのだ。


ドイツ海軍の主力艦艇の大半は1919年夏に一斉自沈を敢行したことは前に述べた。

だが、それでもなおドイツには多くの戦艦が残っていた。

尤も、それらは前時代の遺物とも言うべき弩級戦艦や前弩級戦艦であったが。

それらの多くは当然ながら連合国に対して分配されることが決定していた。

とはいえ、連合軍各国からすれば時代遅れの戦艦なんて欲しくないのだ。

尤も、いくつかの中小国家ならば話は別だが・・・それでも時代は超弩級戦艦へとシフトしつつあり、そんなもん欲しがる可能性は小さいと思われた。


その後、世界は巨大戦艦の大建造ラッシュへと進みかけるが、スタートダッシュが始まった直後にワシントン海軍軍縮条約が結ばれてしまい、世界規模の海軍軍拡競争はいったん停止してしまうこととなる。

そしてその後のイギリス海軍のタラント空襲、日本海軍による真珠湾空襲、マレー沖海戦、アメリカ海軍によるレイテ湾海戦、坊の岬沖空襲・・・これらによって戦艦の時代は終わり、航空機、ひいてはミサイルの時代へと変貌していくのだが・・・


だが、この頃はいまだに戦艦こそが海の覇者だった時代である。

戦艦を沈められるのは戦艦のみ・・・世界中でそう信じられていた最後の時代だった。

(このちょっと後で日本海軍は戦艦の価値に見切りをつけるのだが・・・)

そして、この第一次世界大戦を経て第二次大戦終了までの20年で戦艦は際限なく巨大化、高速化していくこととなる。

(そうであるが故に、戦艦はより高価な代物となり、世界中の国々ではなく一部の列強しかもてなくなったなったともいえるが・・・)


それゆえ、ジュットランド海戦で防御と速力に限界を見せて時代遅れとなったこれまでの旧式戦艦に必要性はもはやなくなった。

これからより必要となるのは高速で海上を疾駆でき、より大きな口径の大砲を持ち、より充実した防御力をもった戦艦なのだから・・・

(最高峰は後に登場する日本の大和型戦艦、イタリアのヴィットリオ・ヴェネト級、イギリスのヴァンガード、アメリカのサウスダコタ級であろう)



・・・話が逸れてしまったようだ。


そのため、時代遅れとなったどころか、敗戦してしまった国の戦艦に各国はそれ程興味を示すことはなかった。

まぁ、一応内部の調査や試験を行ってその構造や用兵思想の解明を行ったりはしたが、それが終わるとこんなもんはただの鉄塊にすぎなかった。

そんなものをいつまでも抱えているような金は何処の国にもないし、だからといってドイツに返還する義理もない。

だってドイツにはすでにドイッチュラント級およびブラウンシュヴァイク級の戦艦のべ六隻の保有が認められているのだから・・・それ以上ドイツ海軍を強化する気など連合国にはない。


となると、道はひとつ・・・解体しかない。


そんなわけで、ここダンツィヒにてドイツ艦艇の多くが解体されることになった。


「・・・で、俺達がいるわけだな!」


「・・・本当に買うのか?」


「当然!」


心配そうに言う雷蔵に義男は自信たっぷりに言ってのけた。


「・・・まぁ、戦艦買うといってもそのもの全部買うわけではないし。それに、時代遅れの石炭レシプロエンジンなんか手に入れるだけ無駄だし。装甲はほしいけどね」


「それに、潜水艦に積んであるディーゼルは欲しいですね。アレはこれからの機関を大きく変える契機になりえますから」


後ろにいた山岡が言った。


・・・なにもダンツィヒで解体されたのは戦艦だけではないし、ダンツィヒだけで買うわけでもない。

依然いったヴィルヘルムスハーフェンなどでも艦艇の購入を行っている。

義男達はドイツのありとあらゆる最新技術を欲していた。


その中でも特に山岡の瞳は爛々と輝いていた。


・・・このドイツにやってきて、おそらく最も技術力の吸収に熱意をもっているのは彼であろう。

山岡はこのドイツの地で軍工廠を訪れた際、建造中だった潜水艦に搭載される予定であったディーゼルエンジンを見て興味を持ち、その後MAN社やズルツァー社などのディーゼル制作会社をまわった結果、すっかりその性能にほれ込んでしまったのだった。


義男としてもディーゼルエンジンは今後の民間商船などにおいて絶対に必要なものと考えていたこともあって、現在MAN社から主力商品である4サイクルディーゼルエンジンのライセンスを得ようと考えて交渉中である。

ちなみに言うと、MAN社のディーゼルエンジンは川崎が、もうひとつのディーゼル大手であるヅルツァー社のディーゼルエンジンのライセンスをそれぞれ取っていたりするが・・・まぁ、蛇足である。



「・・・まァ、とにかく色々と参考にはなるだろうからな」


「原料も欲しいが・・・それならそれで国内で買ったほうが安く上がる気もするがな」


「それはそうだが・・・国内のよりドイツのほうが質がいいしね」


「否定はしないがな・・・輸送費を引けばこっちのほうが安いことも」


「だが、それだけじゃ足りない。」


「後でまたルール地方に行かないと・・・」


「クルップか」


「そういうこと・・・お、入ってきたな」


ゆっくりと船がタグボートにに惹かれて湾に入っていくのが見えた。


2本の煙突をつけた古めかしい前弩級戦艦が入ってきた。


ブランデンブルク級戦艦


それを「ヴェルト」という。

ドイツの戦艦である。

こいつは45口径28センチ連装砲2基を前後に配置し、船体中央部のやや後方に35口径28センチ連装砲を1基、それぞれ中心線上に据え付けたというまるで弩級戦艦のような形をした興味深い形をした戦艦である。

また、戦歴も面白いものがあり、姉妹艦の『クルフュルスト・フリードリヒ・ヴィルヘルム』および『ヴァイセンブルク』の2隻はトルコ海軍に編入されて内『ヴァイセンブルク』は装甲艦『トゥルグート・レイス』となり、驚くべきことに1953年まで健在であった。(つまり、世界でも有数の長寿戦艦となったのだ)

だが、本国に残った2隻は別に活躍することもほとんどなかく、もっぱら練習艦や宿泊艦として運用されていた。

こんな旧式艦となった弩級戦艦をほしがる理由なんてない。(浪漫はあるが)

ということで、さっさと売却&解体されることが決まっていた。


「だが・・・あんなもん買ってどうするんだ?まさか回航するつもりか?」


「まさか。解体はこっちでするよ。」


「じゃぁ、どうやって運ぶ気だ?まさかシベリア鉄道なんて馬鹿なことは言わないよな?」


「それこそ有り得ないよ・・・まだ現実的な考えでこそあるがな」


「・・・どういうことだ」


「まぁ、それはまた今度ね・・・さ、行こうか」



義男はすぐさま現地の解体業者を尋ねた。


「つまり、御社があれを購入したいと?」


「左様でございます。ぜひ、あの前弩級戦艦を弊社が購入したいと思いまして・・・」


「ふむ・・・それはいいが・・・あんなものを買ってどうすると?」


社長は訝しがる様に訪ねた。

常識的に考えて、あんな時代遅れの船を欲しがる理由なんてそうそうない

あるとすれば、高騰している鋼材のためだろうが・・


とはいえ、欧州人が欲しているのもまた鉄であった。


第一次世界大戦の結果、欧州がボロボロになったことは何度も述べた。

だが、ボロボロになった後にやってくるのは・・・?


人がこの世で生きている以上有史以来ひたすらやってきたこと・・・破壊と創造である。


物が壊れたらまた新しく作り直す。

それはこの時代においても同じことであった。

そして、この時代において復興のために必要なのは、セメントであり、煉瓦であり、そして鉄であった。


鉄はあらゆる産業に必要であった。


特に、船の材料には必須であった。

最近ではアルミとか、樹脂とかセラミックとか色々あるのだが、今の時代そんなもん影も形もないどころか、発想すらない。

(アルミはボチボチ考えられていたが、腐食が激しいので危ないと考えられていた)

セラミックや樹脂にいたっては・・・ハハハ、こやつめ・・・である。


ただでさえ、ドイツのUボートが大西洋で暴れまわったのだ。

そこで膨大な船舶が沈没してしまったのだから、それの穴埋めのためにやはり大量の船舶が必要となっていた。


そんなわけで、原料となる鉄は現在高騰していた。


「そうですね、ドイツの優れた工業技術を見てみたい・・・というのでは、いけませんかな?」


「いや、結構。で、回航でもなさるおつもりかね?はるばる日本まで」


「いいえ、ちょうど船をチャーターしてましてね、解体してバラバラになった部品をそいつに積み込んで日本まで持って帰るつもりです」


「なるほど。」


「して、いかほどで買われるおつもりかね?」


「できれば、6千£程で購入したいと・・・」



義男は暫く考えた。

6千£・・・この時期の円レートに直せば4万円そこそこである。

基の建造費を考えると・・・かなり安い。

ちなみに、史実で弩級戦艦のオルデンブルクが売却された金額は2万£ほどである。



「な・・・6千?!」


「もちろん、解体は御社で請け負ってもらいたいと考えております。」


「ふむ・・・その解体費用は?」


「勿論、別途でお支払いしたいと考えております」


「なるほど・・・」


社長は暫く考える。


6千でさらに解体費用別途・・・これは、かなり相場よりも高い

このクラスだと精々4千£がいいところだ。

しかし何のために?船体自体の年齢も古いし

また、解体費用も別途・・・このクラスだと千£程だろうが・・・となると、たしかに悪くない話だ。


・・・社長はこの変な日本人が欲っしているものはおそらく船体の装甲材料であるクルップ鋼であると考えていた。

そして、事実、義男が欲しているのは確かにクルップ鋼であった。


新品には劣るが、それでも日本から見れば優れたものであったといえる。

これを大量に手に入れて解析&いずれ建造したい艦艇の建造にまわせれば・・・と義男自身は考えている。そうすれば、この程度の出費はたいしたものではないからだ。

別府造船所は別府湾工事や安土丸型の建造でかなり儲けていたし、義男自身が欧州にやってきたときに行った投資でもまた稼いでいた。(例えば、大戦後に暴落した銀相場や大戦後の復興需要etc・・・)

それに、義男の狙いはもう一つあった。

解体時についてくる大量のおまけともいうべき大量の大砲である。

例えば、このブランデンブルク級は45口径と35口径の28センチ砲のほかに、88ミリ速射砲などの武器が搭載されている。

これらははっきり言って時代遅れの旧式砲でしかなく、脅威も必要性も薄いものであった。

だが、こういった火砲は、そう簡単に民間の一企業が手に入れられるものではないということもまた事実であった。

そいつらが生産時の数分の一という捨て値で手に入るのだ・・・必要経費と思えばいい。


「・・・まぁ、いいでしょう。悪くはない取引ですし」


「そういっていただければ幸いです。・・・また、他にも買いたい予定の船は?」


「ああ・・・旧式戦艦や潜水艦ですが、数隻ほど・・・」


「ほう・・・それも購入したいと考えておりますので、ぜひお譲りいただけませんか?」


「・・・そうですな。悪くない取引が出来れば幸いです」


二人はニヤッと微笑を浮かべた。



その後、義男はダンツイヒのほかに欧州各地の解体現場を回って多数の艦艇を購入して回ることとなる。

それと同時に、多数の火砲もまた手に入ることとなった。

これらは後に、別府造船が建造することとなる艦艇に改造された後に搭載されたりするのだが、それはまた別のお話ですることとしよう。





皆様お久しぶりです

安定的に書きたいけれど、なかなか上手く書けずにずるずると延ばしてしまうのが最近の悩みです。

・・・さて、今回はダンツィヒにてドイツの旧式戦艦を購入しています。

1919年ごろから1922年ごろまで欧州では不要になった戦艦の解体ラッシュが行われています。それに食い込んでみました。

しかし、弩級戦艦や前弩級戦艦というものはこうゴテゴテした感じがまた格好良く思えます。形も面白いものが多いですしね!

思わず、こんな旧式戦艦が一隻どこか小国に渡って第二次大戦を戦ったら・・・という妄想が浮かんできましたよ。


次回あたりでそろそろドイツ旅行も終わりかな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 買いたい予定の船 × 解体予定の船 ○
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ