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独逸

1919年8月20日 ドイツ 


ヴェルサイユ宮殿にて結ばれたヴェルサイユ条約と呼ばれる第一次大戦の講和条約は、敗戦国たるドイツに対し1200億マルクという超天文学的な数字の賠償金と、ダンツィヒ、ポーランド回廊やメーメル、アルザス・ロレーヌ地方などの領土割譲、膠州湾租借地、南洋諸島やカメルーンなどと言った全ての海外植民地の取り上げ、そしてラインラントの非武装化といったとんでもなく重い罰を与えることとなった。

このため、ドイツ革命を受けて発足した新生ドイツとも言うべきワイマールドイツ共和国の前途は多くの困難が待ち受けていることは確定していた。

同時に、これは次の戦争への引き金になるとは・・・誰もそのときは考えていなかった。

そして、その先に待っているのは・・・お察しの通りで、この先に経済の混乱で札束で積み木ができるというとてもリッチかつ楽しそうな時代を経て第三帝国が誕生するのである。

しかし、今は1919年半ばごろ。

つまり、ヴェルサイユでの講和会議が行われ、ヴェルサイユ体制と呼ばれる一種の平和秩序がヨーロッパの地にて成立した直後のときであった。

このとき、ドイツ経済はある意味10年後に発生する世界恐慌のとき以上に混乱していたと言っても過言ではない。

いや、まだこの時点では混乱へとなりつつあった(・・・・・・・・)と言ったほうが正しいだろう。


とは言え、現状のドイツは大戦時の影響でインフレーションが進行しており、いつ経済が大崩壊を起こしても可笑しくはないと言う大変危険な状態であった。

また、当時ドイツ最大級の財閥であったルール地方を中心に巨大な富と比類なき工業力を築いていた鉄のクルップ財閥も解体されつつあった。


ドイツ経済が崩壊するのは最早時間の問題であったのだ。


さて、そんなドイツに数十人の東洋風の顔立ちをした人間達が降り立った。

いうまでもなく、別府造船所と神戸製鋼所の社員達である。

さすがに、社員総出で行くのは無理があったため、幹部連中と技術者が中心になっていた。





「再び別府造船所の理想を掲げるために!買い叩き作戦成就のために!独逸第二帝国よ、私は帰ってきたぁッ!」(※大塚明夫さんっぽい声を頑張って出しています)


「来たことがありましたの?」


「・・・・・・ありません。」


義男の傍らに立っていた茜が冷静に突っ込む。

結婚してから2年近くが経過した今、義男のことはある程度理解するようになっており、普通にボケに突っ込みを入れることができる様になっていた。

当初の箱入り娘()具合から考えればすばらしい進歩である。

ついでに言うと、出逢った当初のロリっぽい感じから歳相応の体つきへと変化しつつあるようだった。

ドツキ漫才ができるようになるまで、あと少しだ!ガンガレ


これまで色んなことがあった。

義男が変なことをするたびに宮部や雷蔵によって突っ込まれているのを茜は必死になって覚えた。


よき妻(藁)になるために!(・・・それがよき妻になるのかどうかは分からないのだが)


そして義男のボケ具合から推察していくうちに結論付けた。


こいつは只の変な勘(未来知識)が回るだけの普通のヘタレた変なオッサンだということに!


・・・大体あっているから困る。


という事で、今や彼女は「もう何も怖くない!」とも言うべき状態だった。

そして、あまりにもフランクでかつ炊事洗濯と何でもござれというこの時代ではとても珍しい平然と自分から家事をするというこの男に、今まで抱いていたエリート然としていた感じは完全に吹き飛んでしまっていた(大体は最初の見合いでゴミ箱にポイされていたが)

そしていまやこの二人は、現代日本では何処にでもいる極普通の一般家庭の夫婦のような感じになっていた・・・まぁ、義男がそういう風にあわせていくうちにそうなったとも言えるのだが・・・



さて、そんな義男たちがココに来たわけは前回述べたとおり、ドイツの技術と遺産を買い叩こうと言うわけである。


実際、ドイツにしてみれば外貨。

特に、当時の世界の基軸通貨であるポンドはとんでもない賠償金を化せられたドイツにしてみれば幾らあっても足りないと言うのが現状である。

(とはいえ、いまや大英帝国に比べてアメリカの力が大きくなりつつあり、基軸通貨はドルへと切り替えられていくのだがそれはもっと後、第二次大戦後のことである。しかるに、いまだ世界の基軸通貨はポンドであった)


例え、それがはした金であったとしても、ないよりは遥かにマシであった。それくらいドイツ経済は追い詰められていたのだ・・・


「しかし、どうします?」


宮部が尋ねた。


「何を?」


「我々は目的の物を買えるんでしょうか?」


「あぁ、そのことか・・・」


宮部の問いに義男はようやく合点が言ったように頷いた。

というのも、この年の6月、イギリスはスカパーフローにて、現地に廻航されて来たドイツの大艦隊が一斉に自沈を行ったのだ。

その艦艇のすべては、連合国に引き渡される予定のものだった。


つまり、義男が手に入れようとしていたドイツの新型艦艇はその大部分が義男達がドイツにたどり着く前に沈んだと言うことになる。

それは、残された味噌っかすの旧式戦艦群(それでもたいしたものだが)が、今度は連合国への賠償として分捕られるということを示していたともいえる。


そして、下手をすれば義男達が目をつけている建造中の艦船も分捕られるかも・・・そんな危機感が宮部にはあった。


だが、そのことを知っていてもなお、義男はニヤニヤとした気味悪い笑みを崩すことはなかった。

彼は、未来知識で建造中の艦艇の大半が引き渡されることなくそのまま解体されたことを知っていたからだ。


「・・・大丈夫だ。たぶんね」


「多分って・・・」


「・・・さて、私達は私達の仕事・・・じゃなかった、遊び(・・ )に取り掛かるとしよう。と言う訳で宮部君、ちょっと黒ビール買って来て。」


「なんでだよ!」


そんなやり取りを少しはなれたところで一人の男が不思議そうに眺めていた。

歳は義男と丁度同じくらいと言ったところか。


男の名は山岡孫吉。

山岡工作機械の社長だったおとこである。

現在は別府造船所がエンジン部門での責任者をつとめており、機関開発主任という役をもらっている。

実は、1918年ごろから会社の経営状態が大幅に悪化。

一時は店をたたむことになったのだが、それを聞きつけた義男が負債を肩代わりすると同時にM&Aをおこない、自社に併合したのである。

そして、山岡と社員全員をまとめて別府造船所の機関製造部門にぶち込んだのである。

数年後には、機関製造部門を独立させてそこの社長に山岡を当てるつもりであった。


山岡自身としては吸収合併されたことにこそ少し思うところがあったが、それでも普通に機関部門をまかされたことと、ある程度の自由裁量を任されたことから、義男には感謝していた。


なにしろ、エンジンを作りたくて仕方がなかった上に金がないどころか会社が死にそうになっていたところに、「じゃぁ、将来的に会社を復活させるし、あとお金あげるからエンジン作って」と会社の復活を約束してくれた上にエンジン開発までも約束してくれたからだ

その代わり、大分無茶振りをされることは彼でも軽く想像が付いたが・・・

そして、現在は義男の発案した社員旅行に「見聞を広めて欲しい」ということで随行(半ば強制的に)しているのである。


「どうかね?ウチの息子は。」

ふと、背後から声が聞こえた。

山岡が振り返るとそこには雷蔵の姿があった。


「社長・・・これは・・・」


「あいつらにとってはいつものことだ。何も心配することはない」


「はぁ・・・いつもこの様な方なのですか?」


「まぁ・・・な。これさえなければ文句はないのだが・・・いや、あの中で何か思いついているのかも知れんが、私には分からんよ。しかし・・・」

山岡の問いに雷蔵は苦笑しながら続けた。


「退屈はしない。・・・そうだろ?」


「・・・確かに。楽しいと言えばそうですね。」


山岡もまた、義男の言葉を聴いて微笑した。


「そうそう、楽しそうと言えばこの後のほうが君にとっては楽しいかも知れんな」


「まぁ、技術者の端くれとしましては宮部技師や黒田主任と同じ程度には・・・」


・・・これから山岡は義男たちと共に、ヴィルヘルムハーフェンの造船所を見に行くことになっていた。


ドイツの軍港や造船所には、まだまだ建造途中のまま放棄された戦艦や巡洋艦が山のようにあった。


客船ビスマルク(後のキュナードラインのマジェスティック)やコロンブスなど建造が続行された船もあるにはあったものの、これらの大半は解体される予定のものばかりであった。

そして、軍艦・・・特に戦艦に至っては全艦艇が解体されると言う予定になっている有様であった。


・・・これは義男たちから見ればとんでもなくうれしい知らせであった。


当然のことながら、建造中の船と言うものはその時代における最新の技術や思想が取り入れられることが多々ある。

日本は残念ながらいまだ工業後進国なのだ。


そして、義男たちが向かう先にはドイツがその威信を掛けて建造していた戦艦たちがドックで哀れにも解体を待っている状態だった。

その船体構造は当時考えられる限りの思想と技術が用いられている。

(もっとも、ジュットランド海戦の結果、時代遅れ扱いされてる部分もあったが)

また、軍艦の装甲材料と機関は基本その時代の最ッ高の技術を用いて製造されている。


まだまだ技術力で微妙だと自覚している神戸製鋼所や別府造船所の技術者連中にしてみれば喉から手が出るほど欲しい。

前者は鋼鉄の技術を

後者は船体開発の技術を


そして山岡は機関の技術を


それぞれ求めていたのだ。


で、今回は義男たちはまずモノをみるべくヴィルヘルムハーフェンの軍港へとやってきたのだった。



ここで、義男達旅行組はとんでもないものと出会うことになる。

それはやがて、別府グループの象徴になっていくにふさわしいものであった・・・。







皆様本当にお久しぶりです。

作者です。

ようやく第19話上げることができました。


最近どうもリアルで忙しかったこととスランプに陥っていたようでして、なかなか思うように掛けずにいました。

別に艦これやってたり、ガンダム見返していたからじゃありません。二次創作を書いていたからでも在りません・・・・・・ゴメンなさい、全部やってました。

逆シャアと0083は名作だと改めて思いました(すっとぼけ)


今回はドイツについてすぐのところを書いてみました。

よく教科書や写真で見るようなハイパーインフレは1920年代に入ってからのようですが、この頃既にインフレーションがすすんでいました。

しかし、フランスェ・・・ドイツの支払い能力を無視してルール進駐を強行するとはやはり汚いさすがフランス汚い・・・


次回は、ドイツの造船所から話は始まります


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