旅行
「ちょっとみんなで旅行行きません?」
義男がこういった時、会議の場にいた全員の顔を端的に現すと・・・
雷蔵→( ゜д゜)ポカーン
宮部→(;゜д゜)ポカーン
その他重役→( ゜д゜))ポカーン …
・・・大体こんな感じだった。
まぁ、当然である。
これから不況がこようとしていることが分かっていて、かつそれに備えようとしているときに暢気な事に旅行に行こうと言い出したのだ。
それも営業部門のトップがだ!
「・・・お前は何を言っているんだ?」
雷蔵はあきれたような表情をして義男に尋ねた。
「いや、だから・・・慰安旅行」
「だから、なぜこんな時期に慰安旅行なんか行かなきゃならんのだと聞いているんだ」
「どうせ経営方針が示せないんでしたらもう開き直ってパーッと遊びにでも行きましょう!社員連中引き連れて!」
義男はニコニコしながら言った。
その言葉に、会議室内の空気が一瞬凍った。
が、義男はまるで気にしていないようだった。
「・・・お前ふざけてるのか?」
雷蔵が青筋を立てながら尋ねた。
「いやいや、私は至って正気ですよ」
義男は相変わらずにこにこしている。
「もちろん、唯遊びに行くだけの旅行ではありません」
「と、いいますと・・・?」
武田が尋ねる。
「まずは、こちらの資料をどうぞ」
武田の言葉に義男はにやりと唇を歪ませ、ある資料を全員に配った
そこには椰子の木をバックにアロハシャツを着てサングラスを掛けた義男っぽい人物のイラストとともにこう書かれていた。
『欧州うきうき慰安旅行(笑)のしおり』
なぜ欧州なのにアロハシャツ?
などという突っ込みはしないでほしい。
肝心なことは、なぜ欧州に行くのかということだ。
全員に資料がいきわたった所で義男は再び口を開いた。
「さて、皆様もご存知の通り我々はこれまで欧米の技術を下に発展してきました。しかし、まだ我々の技術力は欧米に追いついたとはいえません」
全員が頷く。
「と言う訳で、分からないならば人から教えてもらえばいいじゃない・・・ということで、我々は欧州に向かうべきではないかと私は考えました。」
「しかし、なぜ欧州なのです?アメリカでしたらクランプ造船などの有名な造船所がありますし、参考になるものも多いですよ?欧州は大戦で疲弊しておりますし、ここ数年は技術革新どころではないのでは?ただ視察に向かうのでしたら別にアメリカでもかまわないのではないかと思うのですが」
黒田が尋ねた。
「いえ、現状の欧州だからこそ向かうべきだと私は考えています。」
「・・・つまり、ドイツが敗戦したために流出されることになるであろう最新技術を買い占めるということですか?」
「その通りです。」
義男の言葉をある程度理解したのか、宮部がたずねた。
「そううまく行きますかね?」
一色が怪訝な顔をしていった。
「確かに、現在の欧州は大戦で疲弊しているぞ?ドイツの技術は世界一だということは認めるがそれは皆が知っていることだ。戦勝国がドイツの技術をあさることも予想される。我々のような一企業が向かったところでめぼしいものは手に入る可能性があるというのかね?」
雷蔵が言った。
その言葉に義男はうんと頷いた。
「その御意見も尤もですが・・・我々にとって重要なのは技術だけではありません。、いうなれば宝物を手に入れるために欧州に向かうのです。」
「宝物・・・?」
怪訝な顔をしながら武田が尋ねた。
「ええ・・・ご存知のようにドイツの停戦・・・いや、敗北に伴って戦争は実質的に終了しました。勿論、我々が欧州に向かうことができるのは正式な講和会議が終了した後になりますが・・・。」
「まぁ、そうだがな・・・」
「これはあくまで希望的観測でしかないのですが・・・」
そこで一時的に義男は口を閉じた。
「構わないから言ってくれ。」
雷蔵にうながされて義男は再び口を開いた。
「戦争が終了すると古今東西何処の国であっても行うことは同じです。・・・すなわち、軍縮です。」
「それはそうですが・・・それが我々の欧州行と何の関係があるのでしょうか?」
「はい・・・ドイツは大戦前夜、どういう状態でした?」
「それは・・・我々が瞠目するような工業力と軍事力を併せ持った文字通り血と鉄の国・・・端的に表せばそうなるな。」
雷蔵が言った。
「その通り、ドイツは非常に強力な軍事大国でした。それでは皆様、早速ですがしおりの6ページ目・・・『帝国閉店のお知らせ!早い者勝ちのバーゲンセール』の章をご覧ください」
(その変なネーミングセンスはいい加減どうにかならんのか・・・)
と義男以外の全員が思いつつもページをめくり始めた。
義男は非難されるべきところがあったとするならば、それはおそらく彼のネーミングセンスの悪さにあったと後の彼の伝記には記録されている。
実際、安土丸型の名前を決めるとき、当初は義男がクラス名となる一番船の名前を付けようとした事があったのだが、そのとき彼が言った名前が
「・・・『暗黒天使号』か『ないとめあ丸』で、よくね?」
だった。
さすがにこれでは格好悪いということで雷蔵達が必死になって止めて結局無難に城の名前が使われるということがあったりする
・・・話を元に戻そう。
さて、めくられたページにはこんな感じにいくつ物文字と数字の羅列が記入されていた。
ハプスブルク 8000トン 3隻
エルツヘルツォーク・カール 11500トン 3隻
カイザーフリードリヒ3世 12000トン 5隻
ブランデンブルク 10000トン 2隻
ヴィッテルスバッハ 12700トン 4隻
ブラウンシュヴァイク 14000トン 5隻
ドイッチュラント 13000トン 5隻
「これは・・・?」
「現在ジェーン海軍年鑑にて確認されているオーストリアおよびドイツの戦艦です。戦艦だけでも20隻以上はあります。勿論他にも一杯ありますが・・・」
「・・・こんなボロ舟のリストなんて一体・・・って、まさか!?」
富樫が合点が行ったように叫んだ。
「まさか、これを買えなんて言うつもりじゃないでしょうね!?」
「そのまさかですよ」
ニヤッと義男は顔をゆがめた。
「そんなもん買ってどうするってんですか!」
「いやいや、これは結構なお宝ですよ?なにしろ軍艦は最新技術の塊ですしね!」
「スクラップ・・・ですか」
宮部が言った。
「そうです。私はこれら戦後に廃棄されるだろう艦艇の購入を進言いたします。」
「スクラップ・・・たしかに艦艇は優秀な高張力鋼や装甲板を持っていますし、おまけに優秀な機関も手にはいることは将来的に考えてもわが社の技術力を大きく向上させるでしょうな・・・上手くやれば優れた人材も手に入るかもしれません」
武田が楽しそうに言った。
「スクラップというものは大方買い叩かれるのがオチですしね、また新しいものは状態にもよりますが手を加えれば新しい船に改造することもできるでしょう」
義男は第一次大戦の結果ドイツが戦艦のほぼ全てを損失したことを知識によって知っていた。
で、それを旅行のついでに買い叩いてやろうと思ったのだ。
実際、軍艦というものは車で言うならフェラーリやランボルギーニみたいなもので、その時代の最新式の機関や装甲などを保有している。
もちろん、上に挙げたものはこの時代では既に役立たずな(少なくとも大西洋では)戦艦だし、このほかにも何隻もの戦艦港に係留されている、あるいは建造中のものがドイツ、オーストリアには存在している。
それだけではない。
ドイツは無制限潜水艦作戦などを行っていたこともあって多数の潜水艦が存在している。
もちろん、日本などの連合国がハイエナのように漁って行くだろうが、たぶん大半はすぐにスクラップになるだろう。
これら潜水艦にはディーゼルエンジンが搭載されているものがこの時代になって出てきていた。
義男が望んでやまないドイツ製の優秀なディーゼルエンジンが只同然で手に入るのだ!
・・・これほどうれしいことはない。
つまり、いつ買うの?今でしょ!・・・ということである。
「しかし、欧州に行くのはいいとして・・・ビザはどうします?」
不安そうに細川が尋ねた。
この時代、ビザを取ることはなかなか難しいことだった。
「そうだな、ビザが取れないと難しいぞ?」
「ビザは・・・旅行ビザのほうがまだ簡単に取れますのでそちらの方を」
「ちょっと待て!我々は視察に向かうのだぞ!?」
「いえ、 観光旅行です。スクラップの購入は・・・ヨーロッパ土産(?)です」
「建前でなく、本音だったと言うことか・・・」
「本音と建前を合わせる事がこの世で生き抜くための手段なのですよ・・・私もそろそろ新婚旅行に行きたいですし・・・いかがでしょう?」
「・・・まぁ、よかろう」
雷蔵は溜息をついた。
「このまま手を拱いていても小田原評定になるだけだ・・・ならば損をするにしろ得をするにしろ、何かをせねばならない。その前準備と考えればいい。幸い、内部留保はここ数年に出した利益のお陰でかなりの額だ。これを流用すればいい・・・異論がある者は?」
雷蔵は会議室内の全員を見回したが誰一人反対の者はいなかった。
彼らとてこれからどうするのかわからなかったのだ。
ならば、何か意味のあることをせねばない。
少なくとも、欧州旅行は悪いことにはならないだろう。
それに別府造船所では基本的に派手な遊びなどはしていない。
仕事の一環とは言え、気分転換に楽しむことも悪いことではあるまい・・・
「では、欧州旅行についての具体案を練ることとしようか・・・」
かくして、別府造船所の欧州への社員旅行が決定した。
皆様こんばんは
今回は旅行先が決定したようです。
結局ドイツで社員旅行になりました。
あくまで、社員旅行です。そこをお間違えなきように・・・(強弁)
ビザ取るのは大変そうですが・・・
旅行資金は後暗い金でパーッとやってみます。
実際、戦艦などに使われる複合装甲は普通の鉄の70パーセントの重量で同等の強度を発揮します。
そして、この時代ドイツではクルップ鋼などが戦艦などの装甲部材に使用されていましたが、これら装甲材料は滅茶苦茶効果です。
そこにきて信頼性の高いタービンや最新式(4~5年前の型落ち品だが)などの優秀な機関が大量に売りに出されるのです。
これを買わない手はありません。
ついでに技術者もあちこちから引き抜いたりしたいと思います。
次回は、ドイツでの話になる予定です。(多分)




