終戦
1918年11月
キールでの水兵の反乱をきっかけとして発生したドイツ革命を受け、ドイツ第二帝国はこの日講和を決意した。
と、同時に皇帝ヴィルヘルム2世も退位して亡命して行った。
1914年に起こってから足掛け4年近くにもわたった戦争は終了した。
その印として、フランスのヴェルサイユにて講和条約が締結される。
だが、植民地と領土の割譲、そして法外な賠償金etc・・・といった感じに、あまりにも敗戦国に対する重い賠償は、この後20年後に起こる第二次大戦の火種をまいた形となったのだが、当の世界各国・・・戦勝国も敗戦国もそんなことは毛ほども考えてはいなかった。
そんなことも考えられない位に両方の勢力は疲れ切っていたのだから
彼らの頭の中にあったのは、できる限り速く自国を立て直すこと・・・それだけであった。
さて、この講和によって戦勝国なのに損をこうむった国がある。
主戦場だったヨーロッパから地球を半周したところにある東洋唯一の列強・・・日本である。
第一次大戦の欧州での物資の不足を解決するために、工場を次々に新設してフル稼働させたことによって1980年代のバブル並みの未曾有の好景気を味わったこの国であったが、ヴェルサイユ条約の締結によって一気に需要がストップすることとなった。
だってもう軍需品を作る必要はなくなったのだし、日本に発注しなくても別に自分達で作れるからもういらないと言うことになったのだ。
ということで、キャンセルの嵐が日本中に吹き荒れることになる。
1918年11月20日 別府造船所社屋 会議室
1918年の年の瀬も近づいて頃、ドイツの休戦によって実質的に大戦が終結したことを受けて別府造船所では直ちに幹部社員による緊急会議が開かれることになった。
「参ったな」
雷蔵が苦笑いを浮かべながら言った。
「予想通りといえば予想通りなんだけどね・・・」
義男が言ったが顔は暗いものだった。
まぁ、これから先20年くらい続く不況を知っているのだから暗くなるのも分かる。
「しかし、対策をしておいて良かったですね」
武田が言った。
「全くだ。喜ぶことはできんがね・・・」
細川も溜息をついていた。
別府造船所は1917年半ばごろには年18隻の建造を目標とした建造ラッシュを続けていた。
だが、それ以降は徐々に建造隻数を減らしていくことにしていた。
現在では半分ほどの年12隻を目標に建造を続けており、今年度実績では安土丸型貨物船8隻が既に完成し、多くが引き渡されているが、ドックにはまだ2隻が建造中な上にいずれも進水間近な状態だった。
おまけに1万トンドックもつい先ごろ完成してしまっており、現在安土丸型貨物船第48番船のキールがすえられてしまっている状況だった。
(まぁ、これは直ぐに解体できる状態だが)
いずれにせよ、何隻かのキャンセルを貰う可能性は大きいため、これ以上安土丸クラスの建造を続行させることは経営上危険であった。
「これ以上の建造は・・・ストップだな」
「川崎造船はまだ造っているみたいだけれど・・・ヤバイだろうな」
「Uボートを恐れる必要がなくなったから「もう、何も怖くない!」状態になっている。「こんなの絶対可笑しいよ!」とか「私ってほんと馬鹿」にならなきゃいいんだが・・・」
「お前は一体何を言ってるんだ?」
義男の言葉に雷蔵たちが不思議そうな顔をしてたずねる。
「いや、ちょっと旗の話をね・・・」
義男が笑いながら誤魔化すのを彼らは不思議そうに思いつつも「まぁ、いつものことだ」とすぐ本題に戻った。
さすがに昔から義男と付き合っている人間が多かったこともあって、彼らはスルースキルが身に付きつつあったようだ。
「何れにせよもはや船舶のストックは必要なくなり、船は山ほど余る事になるだろう。だが我々は稼がねばならない。」
雷蔵の言葉に一同は頷いた。
「さて・・・我々の新商品。フェリーの売れ行きはいかがかな?」
雷蔵が義男に尋ねた。
「現在、姫島村をはじめとして瀬戸内海周辺のいくつかの自治体より購入依頼がきておりますが、姫島丸を除きますと大半が20トン程度の小型船です。また、現在大阪商船および鉄道院に2000トンクラスフェリーの提案を行っております。」
「受注が取れる可能性は?」
「船あまりが起きている大阪商船さんの場合は厳しいと言わざるを得ないでしょうが、津軽海峡をはさんだ北海道と本州を鉄道で結ぶ以上、乗ってくる可能性があります。」
「加えて、メンテナンスもウチがやる・・・と?」
「ええ、アフターサービスも万全となればより好印象がもてるかと・・・」
「ふむ・・・何分、特殊な船だからな」
「だが、それだけでは足りないな」
「とはいえ、どうすることもできんな」
ここで社員達は頭を抱えた。
確かに、欧州大戦の終結に伴い需要の大幅な低下はすでに見通しており、別府造船所などは当面は守りに入る体勢に入りつつあったがとはいえ、それだけでは会社は持たないだろう。
売れなくても売って利益を出さなければ会社はやっていくことができないのだ。
だが、どうやって利益を出す?
以前宮部技術主任による鉄道車両の開発計画が持ち上がったがそれだけでは十分とはいえない。
じゃぁ、機関車はどうか?
一応、別府造船所はある程度のエンジンの自作が可能だし、溶接もお手の物だ。
だが機関車は日本中あちこちで作られており、競争相手が多すぎる。
適度な競争は市場の活性化につながるためいいのだが、過度な競争は結果としてチキンレースになりやすく、結果としてだれも得をしないなんて事になりかねない危険性がある。
義男はディーゼル機関の開発を考えたことがあり、山岡とも接触してツバつけてはいるが・・・流石の彼でも手を出すには少し早いと考えていた。
なによりも別府造船所や神戸製鋼所などにはディーゼルのノウハウはない。(何それ食えんの状態)
この時代、日本は確かに造船業は世界屈指の地位に上がりつつあったがいまだ十分ではなかった。
とくに技術面は未だイギリス、フランスなど先進造船国家から見たらまだまだ幼稚な面が多くあった。
実際、造る船も現代と違って基本的に海外の船の劣化コピーみたいなものだった。
別府造船所としては普通の鉄板の溶接ならばお手の物になりつつあったし溶接棒もイギリスから輸入したものをパクってそれなりのものを自作できるようになりつつあったが、それでもよりすぐれた高張力鋼板の溶接などは未だ手付かずだった。
一応、神戸製鋼所が現在溶接可能かつ軽量な高張力鋼を開発中だが、いまだ目処は立っていない。
ということで、いまや経営方針の策定がドンヅマリ状態になりつつあったのだ。
(不味いな・・・)
義男もここにきて限界を感じていた。
勿論、金はある。
戦前戦中にシコタマ溜め込んだ金とシベリア出兵の時に米ころがしをしたり大戦終了の際の株価暴落などで稼いだ金という、某銀行員さんもビックリな超後暗い金だったが。
とはいえ、金というものは使わなければ意味はない。
だが、どうする?
どこに使う?
新商品はどの程度開発できる?
どの程度売れる?
この先に待っているのが不況だということは決定的に明らかだ。
ならば、どうする?
支出を減らすか?
それこそナンセンスだ。
宴会とかはなくして節約に励んだとしても金はなくなっていく。
生きていく限り『銭』は減っていくのだ!
金は適切な投資をしてこそ生きてくるのだ。
ドブに捨てるものではない
「取敢えず、フェリーはさらなる設計の改良と日本中の自治体に売り込みを掛けるしかないと思います。すでに鉄道院も興味を持ち始めているようです。後は四国や大阪の自治体や船会社、鉄道会社にさらなる売込みを掛けていくべきでしょう」
武田の言葉に全員が頷いた。
売れそうなものはそれくらいしかないのが現状なのだ。
しかし・・・本当にそれだけでいいのか?
それは全員の頭にあった。
無論義男にも。
得をするにしろ損をするにしろ、手は打たないと・・・
やがて会議は終了したが結局、フェリーの設計改善とさらなる営業努力、余った船腹はそう多くならないだろうから設立予定の別府汽船に譲渡すること
などが決まった。
「どうすりゃいいんだ・・・」
義男は会議の終了後、港に来ていた。
別に釣りに来たわけではない。
良くあるベタな展開でちょっと悩みに着ただけだった。
(どうする?金はあるけど足りないし・・・技術もない。このまま頭打ちになって潰れこそしないとしても大戦に突入したらそれこそ改変なんて夢のまた夢じゃないか・・・なにかいい手は・・・?)
「ん?坊じゃーないか?」
取敢えず解決はしないけれど良くあるドラマ見たく黄昏てるとよくある展開のように後ろから声がかかってきた。
振り返ると・・・源だった。
「何だ、源さんか」
「何だとは何や。失礼だな。・・・で、どうした?」
「いや、ちぃーと会社のことでね」
「ほうか・・・」
そういうと、二人は再び黙りこくったが・・・暫くしておもむろに源が口を開いた。
「おいどうはまどろっこしいことは良く分からんが・・・飲んで呆けるべきなんじゃないか?」
「呆けるってそんな・・・」
苦笑いしながら義男がそういいかけたそのとき、義男に電流が走った。
そうか、別に無理する必要なんてそもそもないし、それでいいのか
というかこれこそチャンスだろ!
いやいや待てよ・・・それだけじゃ足りないな。
もっとこう・・・・・・「そう!面白いことだ!」
「ワッ!?なんだ突然!?」
いきなりわけの分からないことを叫んだ義男に源は一瞬腰を抜かしそうになった。
「そうだよ・・・何無理をしてたんだよ俺は。金は面白いものを買うために使うもんじゃないか!」
そして義男はいたずらを考えた子供のように楽しそうな笑みを浮かべながらブツブツ呟き始めるのを、源はしばらく不気味に思いつつも眺めていた・・・
「ど・・・どうした坊?」
「ん・・・ああ、なんでもない。又酒でもおごるわ・・・じゃあ!」
といって義男はあわてて家に帰るなり、しばらく部屋に閉じこもった。
「来た!メイン盾来た!」「これで勝つる!」「ガハハ!グッドだ!」などという変な台詞と変な笑い声を上げながら・・・
その後しばらく、義男は電報所と会社のデスクを往復し続けるなどし続けた。
怪しいニヤニヤした笑顔を浮かべながら
雷蔵たちは気味悪そうに見ていたが義男は気づいていないようだった。
そして一週間後、定例会議が行われることとなった。
議題は前回に引き続き、この先どうするかということだったが開始早々に義男は資料片手に立ち上がってにこりと笑って口を開いた
「みんなでちょっと旅行行きません?」
この義男の提案が停滞状態に陥った別府造船所を再び躍進させる大きな一歩となるのだがそれはまだ義男くらいしか知らなかったりする。
皆様こんばんは
というわけで第一次大戦が終わってボーナスタイム終了です。
チュートリアルは終了し、ここからが本番です。
さて、義男たちは不況の波に飲まれることなく生き残ることができるのか!?そして刺されることなく生き残ることができるのか!?
その前に義男たちは旅行行ってきます。
行き先はまた次回辺りに明らかにしますが・・・とりあえず面白いところとだけはいっておきましょう。




