趣味
1916年10月 別府湾
朝の別府湾を一隻の漁船がゆっくりと航行していた。
船には二人の男が乗っていた。
「いっつんすまないな、源さん」
船の手すりにしがみつきながら、義男は操舵室で舵を握っている男に言った。
「のぉ~に。坊の頼みや。こげんもんお安い御用だよ!」
舵を取りながら男はハハハッと笑った。
男の名は源宗右衛門。
大神の漁師で、義男の乗っている近海漁船「辰瓶丸」(木造、5、2トン)の船長だった。
地元では源さんと親しまれている。
予備役海軍大尉である。
黄海海戦や日本海海戦に参加したことがあったのだがエリートコースから外れてしまったうえに両親が死んでしまったことから脱サラし、故郷で漁師をするようになった。
よく義男も可愛がってもらった。
さて、義男には数少ない趣味ということで釣りがあった。
といっても前世も釣り好きというわけではなかった。
せいぜい釣●馬鹿日誌をよむ位だった。
むしろ、アニメヲタや軍事ヲタといった方がよかった。
(最も、日本史をもっと詳しく勉強しておくひつようがあったのだが)
だが、こっちの時代に来てからはそれらの趣味は完全に無効化されたといっても過言ではない。
何しろこの時代は当然のことながらテレビはない(つまりはアニメなんてない。あってもディズニー系統くらいか?)、ラジオもない、映画はトーキーがそろそろ始まった頃であんまり音もない(現代と比べるほうが馬鹿らしい)、PCは影も形もなく、窓98が存在したらそれはオーパーツレベルだったりする。漫画も微妙なできのものしかない。
教養をつける目的で読む小説以外高尚な趣味もほとんどない。
はっきりいって彼がはまる娯楽がほとんどない。
これではヒッキーもニートもできない。
つまりは暇なのだ!
なのでいやが上でも何か趣味を持たねばならなかった。
そうでなければ仕事と結婚する羽目になる。
さすがにそれは義男もいやだった。
彼も趣味が欲しかったのだ。
義男の場合それが釣りであったのだ。
他に温泉旅行や食べ歩きもあったりするのだが、彼は何とかそれで己の中に眠る欲求と戦っていた。
幸いなことに別府湾の水質は現代のそれよりも良かったし、まだまだ綺麗だった。
その上、春は豊後水道からの黒潮が流れ込み、冬は瀬戸内海からの海水が流れ込むそこそこ良好な漁場だったのだ。
なので、割と豊富な種類の魚を釣ることができたため、すっかり嵌ってしまい、休みの度に海に出て釣りをしていた。
お陰で自力で一から魚を捌くことも普通にできるようになってしまった・・・。
まぁ、それでも時折酒を飲んで酔っ払うと「ウエーン、な●はが見たいよー!東●したいよー!●クが聞きたいよー!」
と言って泣いていたりするのだが、周りの人間は「また来島の坊がなんか言っちょんぞ。」
と言ったりして不思議がった。
「しっかし、坊もえらくなりよったのぉ。ここ2年毎日船の建造やろ?」
「まぁ、景気はいいけどその分休みが減ったよ」
義男はしかけの準備をしながら苦笑した。
チヌを狙うつもりでいた。
「それでん儲かるのはええこつやん・・・お、着いたで」
源はさっそく船を止めて漁を始めた。
真鯛を狙うのだとか。
義男もまた釣り糸をたらす。
時間がゆっくり流れる中不意に、源が言った。
「・・・そういえば、坊は海軍受けたこつがあんんやっちな?」
「ん?ああ。源さんがまだ現役やったときや。」
「もしも受かっちょったらわしの部下になりよったかも知れんな」
「違おらんな」
「でん、坊は軍人ならんほうが良かったで」
「何で?」
「むいとらんよ。今のほうが坊にはずっと向いとる」
「・・・そげなもんかな?」
「そげなもんや」
「フーン・・・お、来た」
突然ビクンとした感覚が手に伝わった。
どうやら来たようだった。
後ろを向くと源にも当りががきたらしく、釣糸を引いていた。
ゆっくりとリールを巻き上げていって吊り上げたのは40センチ程の真鯛だった。
(そういえば今日の夕方には帰って来いとか言われていたな。客でも来るのか・・・?商談だろうが一応血抜きして土産にでもしてもらうか)
そんな風に思いながら魚籠に釣った魚を入れていく。
昼前になると潮の流れも止まったためにさっぱりつれなくなったので、二人は持ち込んだ酒と吊り上げた魚をさばいて食べる事にした。
義男が釣り上げたカワハギの刺身だった。
「そういえば、昔話と言うたら最近過ぎるけど坊もとうとう結婚するんやっち?」
「どこでその話を?」
「いや、雷蔵がゆうとった」
「ああ、成る程。」
(クソ親父、余計なことを・・・)
「北九州の炭鉱のお嬢さんや。政略結婚ゆう奴かな?」
「なんや、えらい気にくわへんごたるやな?」
「歳も離れてるしね。あんまり」
「・・・まぁ、わしの女房は幸運なこつに幼馴染やったこつやねんし歳もはなれてへん」
「でん尻には敷かれてる。」
「それは言ったらわややろ」
苦笑しながら源は酒を注ぎ足した。
義男も刺身を口に放り込む。
「結婚は人生の墓場ちうけど、わしも墓場逝きか・・・」
「そげんこつ言うな。男は家をもっち何ぼやろ」
「そんなもんか?」
「そんなもんや」
この後、二人はしこたま酒を飲むことにした。
昼過ぎになり、辰瓶丸が港に帰ってきた。
義男は魚の陸揚げを手伝った後、源にお礼にと持ってきた一升瓶を手渡して家路に着いた。
来島家は造船所のすぐ隣にそれなりの大きい家をもっていた。
さて、今日はいつもとは勝手が少し違っていた。
家の門の前に見慣れない車が一台止まっていたからだ。
雷蔵が言っていた客なのだろう。
そう思いながら義男は玄関をくぐると親父が待っていた。
ということは商談か?
と思っていると
「やっと帰ってきたか。ほら、さっさと着替えて客間に来い」
と開口一番に言われた。
夕方だと思っていたのにもう来たのか・・・そう思いながら部屋着に着替えて客間に向かうと義男はメガテンになった。
余りにも予想外の人物がいたからだ。
え?あれ?
なんであんたらがここにいるの!?
「ひさしぶりだねぇ、義男君」
「お待ちしておりました」
客間には着物を着た少女と背広を着た中年・・・貝島太市と貝島茜
・・・義男の婚約者とその後見人的存在がいたのだから・・・。
偶の休暇に釣り船に乗って釣りをする・・・私もそんな生活がしてみたいものです(;ω;)
私の趣味は釣りでして・・・といってもここ数年の初心者ですが
偶に休みになりますと電車に飛び乗って海に向かったりします。
神戸港や、大阪の南港や日本海側の舞鶴、敦賀や宮津、小浜といったあたりに偶に出没したりするようです。
見つけても触ったり、餌を与えないようにしてください。




