第一話
腐男子【ふだんし】とは
キャラクターのBL的な掛け合いを好む男性のこと。
「やっぱ、今期はあれっしょ?ラグビー少年、RYU」
「部長とリュウのカプ、マジでいいんだけど!!」
「え~、松リュウ?私はやっぱ森リュウかな~」
「も・・・森君そこで出す!?あんたマイナー過ぎ・・・」
ラグビー少年RYUとは、その名の通り、ラグビーを舞台にした、週刊少年スキップ連載中の、漫画作品。
この春から、アニメも深夜枠にて絶賛放送中であり・・・
男ばっかのその内容に・・・オタクたちが腐った視線を大いに向けているってわけだ。
もちろん僕もその一人。
腐った視線とか言ってしまって大変申し訳ないが、侮蔑的な意味では言っていないし、
僕も腐った観点でしか見ていない訳だから安心してほしい。
僕の名前はl河野隆也。
私立高校二年。
アニメや二次創作なんかで、男同士の恋愛、つまりBLを愛する腐男子でもある。
でも、ゲイって訳ではないです。ハイ。
自分でも何が最初かは覚えてないけど・・・気づいたら腐ってました。
今いるのは、アニズメイト。
アニメグッズや、声優さんのCD、トーンやカラーペンなんかも売ってるし、同人誌も揃っている。
なんとも素敵なお店だ。
意を決して入った、BL系の小説がたくさん並んでいる棚の前で、制服姿の女子高生がきゃいきゃい会話をしている。
ぐぬぬ・・・そこをどけ!!ビッチどもが!!そこにはl金剛有美先生の新刊が!!くっそー!!
ほかの棚を見つめながら、ビッチどもの様子を疑う。
すると、その中の一人と目が合った。
「ねえ・・・あの男、なんかこっち睨んでない?」
びくぅ!!
目が合ったおかっぱJKが、ほかのビッチたちに声をかける。
「きっと腐女子キモいとか思ってんじゃない?」
と黒髪ロングの眼鏡女子。
「つか、入ってくんなし!!キモ・・・」
つづいて、茶髪ショートビッチ。
「もっとイケメンなら属性考えるのに~」
「わかる~」「だよね~」
・・・。
帰ろう。やっぱBLコーナーの気まずさはパネェな・・・。
メイトなら入りやすいかと思ったが、無理だったか・・・。
『ああ・・・でも有美先生の新刊・・・近所の本屋じゃ明後日まで待たないと並ばないし・・・くぅう!!』
やばい、泣けてきた。
一冊でも買いたいけど、無理だよな~・・・。
もう僕のことなんか気にしてもいない、さっきのビッチたち。
すぐ帰る様子なんかまったくない。
恨めしげに有美先生の新刊を眺める。
「ちくしょー・・・女子ばっか優遇されて・・・」
他に堂々とBL本を読み漁っている数人の女子にも悪態をつきながら、棚を離れようとした。
不意に・・・横をすれ違った人物に軽く腕がぶつかった。
思いっきり当たったわけじゃないが、その人は持っていた数冊の本を床に落とし、床に座り込んだ。
「いたた・・・」
「あ、すいません!!大丈夫ですか?」
ブレザー姿の女の子だった。
手を貸そうかとも思ったが、やめた。
いきなり見知らぬ男に手を差し出されたところで、普通は警戒するだろう。
オタクだって同じことだ。
自慢じゃないが、俺は女の子と手だって繋いだことはない!
本当に自慢じゃないがな・・・(泣)
一番僕の近くに落ちた本を拾い上げた。
ふと本のタイトルが目に入る。
『お姉さまとの秘密の放課後』
イラストは、制服姿の女の子同士が・・・キスをしているものだった。
絵の衝撃が強すぎて、顔の筋肉が、引きつったのがわかる。
「っ!!」
僕は、周りを見渡した。
他に散らばっている本は三冊。
全てのタイトル、イラストを一瞬で確認した。
『私と彼女の恋愛事情2』
金髪のパーマの女の子と、黒髪ロングの和風女の子のツーショット。
『恋人はお姉さま』
成人向け表記あり。
ロリッぽい女の子が二人。しかも裸。
『舞妓さん~乙女同士の恋愛~』
これだけ小説のようだ。
着物をだらしなく着崩している女の子二人。
恐る恐る、床にへたり込む女の子を見た。
僕と同じ、高校の制服・・・。
ゆるくパーマをかけた、少し長めのショートカットに、ヘアピン。
「お・・・お前・・・!!」
「た・・・隆也先輩!?」
そこには、思いがけない人物が座り込んでいた。
「「な・・・なんでここに!?」」