傘
金属の塊が道路をなに食わぬ顔で駆ける。
指先だけで何キロメートルも先の恋人とコミュニケーションがとれる。
24時間、光を灯す店があちらこちらにある。
科学の足は止まることを知らない。
目的地もわからないまま、駆け足で旅を続ける。
そのスピードについていけなかったのか、それてもついていく気持ちがないのか、『傘』は進むことをやめた。
前進することをやめたから『傘』は中途半端だ。
いくら上手にさしても、横殴りの雨が降れば、ズボンはびしょ濡れ。
風が吹けば、関節をぐにゃぐにゃにして翻る。
それでも、『傘』は何百年も売れ続けるベストセラーだ。
どうして、あのような欠陥品が売れ続けるのだろうか。
と、いくら考えても答えは浮かばないわけで、雨あしは強くなるわけで、だから学校から帰るにも帰れないわけだ。
「しょうがない。走って帰るか……」
鞄を頭の上に構えるお決まりのポーズをとる。
位置について、用意……ドン!
「山田くん!」
おっと、フライングだったかな。
いや、そんなはずはない。
僕のスタートダッシュを止めたのは、
「……白石さん」
同じクラスの女の子。長い髪の毛とくりくりした瞳が可愛らしい。
「あ、あの……傘ないんだったら私の傘に入る?」
「……お、お願いします」
それから、僕らは学校から駅までの道を1つ傘の下ゆっくりと歩いた。
会話なんてろくにできなかったわけで、水玉模様の小さな傘では右肩がびしょ濡れなわけで、でもそんなこと気にならないくらい緊張していた。
ただ、『傘』が売れ続ける理由はわかった気がしました。
貴重なお時間をありがとうございました。
拙い文ですが、感想を頂けるとありがたいです。