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出会い

 物心ついた頃から、忌み嫌われる存在であった。どうやら俺は、死を呼び込む体質だったらしい。

 まだ言葉も覚えていない赤子。抱き上げてくれた人は皆、その日のうちに仏にしてしまう。最初は偶然が重なっただけだろうと気に止める人も居なかったが、それが六つも重なると流石に気味悪がった。少し年を取れば、人を選んで這っていった。選ばれた人は当然の如く、その日のうちに亡くなった。そして終に、人々は幼い俺を避けるようになった。

 最初のうちは未だ、家族がいるだけ良かった。外を歩くと人が退き、出て行けなどの野次が飛ぶ中でも、離れずに支えてくれた存在があった。最後まで貴方の味方よと、母は何の躊躇いも無く俺の手を握ってくれた。それだけが、救いだった。

 死を呼ぶ者

 いつしか俺はそう呼ばれるようになった。目を合わせるな、着物に触れるななど、擦れ違うだけで嫌われる。それでも俺は、何かに惹かれる様に人の間に入っていった。見えるのだ。光が。轟々と燃え盛る炎が。だが、ある人には見えない。そして、然ういった人は必ず、生きている者ではない目をしていた。俺は光を持たない人を追って、町の中を彷徨っていた。

 もう、子供とも大人とも言えない年になった。どんなに時が経っても、俺の家族は皆、厄介者扱いをされ続けてきた。死を呼ぶ俺は外に出ることを許されず、一人家に軟禁され、書物を読み漁っている日を過ごす事が多かった。何の面白みの無い毎日でも、一人の妹と父母は、俺を退屈させないようにと必死だった。人を殺してしまう手前、外に出させる訳にはいかないのだ。そんな家族の思いを知っていても尚、時折、体内を巡る隆々とした血液は、外に出ることを促すのだった。

 そんな日々を何日と過ごしてきた。自分を求める声のようなものも聞いた。それが幻聴だったとしたら、それだけ精神を弱らせていたということだろう。外に出してくれと懇願する俺に、家族は苦しそうに挨拶するだけだった。そんな事を繰り返しているうちに、ある異変に気付いてしまった。妹の、炎が弱まってきているのだ。其れとはなしに体調を聞いてみても、何てことありませんよと笑って返してきたが、此の儘では妹は死んでしまうと俺はもう分かっていた。分かっていながら、それを止める手段など無かった。到頭、妹の炎は消えてしまった。

 初めのうち、妹はまだ生きていた。しかし、目には命は宿っていなかった。口数も減り、表情も無くなった。体調を問う母の言葉にも、何てことありませんよと、言葉こそ昔のままであるが昔より随分と勢いのない口調で返事することが多かった。母も、様子が普通でないのを気付いていた。時折探るように、俺の表情を盗み見ていた。

 俺の血は妹を見て、どうしても動かねばならないと急き立てた。何がそうさせるのかは分からないが、それが妹にしてやれる最後の事だと、妹が望む事だと、心を動かすものがいた。そして、終に俺の心は得体の知れない何かに負けた。俺は父母の居る目の前で、妹の細い肩に手を置いてしまった。刹那、妹は初めて、感情のある目で俺を見た。そのあまりにも短い出来事が、俺のこれからを大きく変えた。

 次の瞬間、母の手が勢い良く俺の手を叩いた。子を子として見ない眼で俺を睨み、今何をしたの、何をしたのと喚くばかりだった。父は妹を俺から庇う様に、きつく胸に抱いていた。その時から、もう、俺の家族は居なくなっていた。そこに居るのは、か弱い娘と、その父母、それと一人の死を呼ぶ者だった。今までの感情を放つ様に、俺は家を飛び出した。妹はきっと死ぬのだろう。それは俺の所為なのだ。自分を睨む父母の顔が頭から離れなかった。最後まで、母は手を握ってはくれなかった。

 随分と成長した俺の姿を見て、誰も何も気付いていなかった。家族であった者たちも、誰一人後を追って来なかった。久しぶりに出た外は、記憶よりもずっと冷たかった。陽の光は眩しすぎるぐらいなのに、凍えるほどに寒かった。町を行く人は皆、生きている人ばかりだった。粲粲たる炎の中を、俺は何かに導かれるように走っていった。



 目の前には大きな桜の木が成っている。樹齢何千年と経っているだろう。走り疲れた俺は、直ぐ傍にしゃがみ込んだ。こんなにも大きな存在であるにも拘らず、まるで威圧を感じなかった。太い幹に背を預け、暫く目を瞑った。思い出すのは自分を睨む四つの目だけだった。そして、妹の最後のあの挨拶は一体何だったのだろうと、思いを巡らせた。何を考えても分からなかった。

 其処で何をしている、と人の声が聞こえた。ゆっくりと目を開けると、確かにそこに人はいた。沈む夕日の光を背に浴びて、その表情ははっきりとは見えなかった。そして俺は、そいつに光が無いという事に気付いた。慌てて俺に近づくなと声を上げると、何故とそいつは返す。俺に近づくものは皆死ぬのだと応えると、今度は大声で笑って言った。お前は人を殺すのか。そして私を殺すのか。残念ながら、お前に人は殺せない。そして私も殺せない、と。

 そんなことは無いと言い返すと、そいつは俺の目を見て言った。死神よ、自分の能力を履き違えるな。お前の手で人が死ぬのは、何もお前が殺した訳ではない。お前が人を選んで殺しているのではなく、人がお前を死に所として選んでいるのだ。

 死神。死を呼ぶ者としてはこれほどお似合いな呼び名はないだろう。自嘲気味に笑う。死神であれなんであれ、やっていることは同じだろう。とどのつまり、俺は人を死に導いているのだ。そう言うと、お前は何も分かってないなとそいつは言った。死神というものは、魂を導くものだ。命数尽きた臠から魂を引き離す力を持った者を言うのだ。お前が今まで殺したと思っている相手は皆、お前が魂を抜く前から既に死んでいるのだ。その言葉を聴いて、俺はやっと自分が人ではない何かであると気付いた。目の前の奴は、何も比喩として死神と言っているのではないのだ。俺は人ではなかったのだ。正真正銘の死神だったのだと。

 そんなはずは無い。と、思うより先に言葉が出た。俺は死神ではない。人の子だ。人から生まれた人の子だ、と。冷静な自分は驚くほど死神である自分を受け入れているが、心は人で在りたがった。その言葉を聴いたそいつは驚いたように目を丸くした。そうか、お前は自分が死神だと知らなかったのか。と独り言のように呟いた。

 お前は人の命を見たことがあるだろう。炎のように見える光のことだ。生きている内は荒々しく燃え盛っているが、命数尽きると消えてしまう。お前は、それが見えるだろう。その言葉に俺は、お前の命は何一つ見えないと応えた。私には無いのだとそいつは応えると、だが、人のは見えただろうとまた聞いてきた。お前は人ではないのかと聞くと、そいつは澄まして人ではないと応えた。私は人ではないからその炎を見ることが出来る。また、お前も人ではないから見ることが出来る。人にはその炎は、決して見ることの出来ない物なのだ。じゃあお前は何者なのだと問うと、お前と似たような者だ、と応えた。

 そいつは少しずつ俺との距離を縮めてきた。近づくにつれ、そいつは思ったよりも小柄で、精悍な面付きだと言う事に気付いた。男にしては綺麗過ぎて、女にしては逞しかった。そいつは俺の直ぐ傍に来ると、上から見下ろして言った。死神、お前に行くところはあるのか。無い。と短く答えると、そいつは笑顔を作って続けた。ならば私と一緒に来ないか。長年一人で過ごしてきて、もう孤独は退屈だ。お前もどうせ行くところが無いのだから、私と暮らすのもいいだろう。そいつは右手を差し出してきて、俺が掴むのを待っていた。

 こいつについて行っても大丈夫なのか。しかし、初めて自分を理解してくれた相手だった。これから孤独を生きることになるだろう俺には、誰でもいいから隣に居てほしい気持ちはあった。

 目の前の手を見つめて一つ問うた。何故俺なのだ。世界には他にも孤独を生きる神など巨万といるだろう。するとそいつは暫く考えて、それは目の前にお前が居るからだろう。それに、死神と暮らすのは楽しそうだ。とあけらかんと言った。

 呆気に取られて上を見上げると、そいつはやはり笑っていた。こいつは奇妙な奴に捕まったと胸の内で独話すると、意を決してそいつの手を握った。毒を喰らわば皿までだ。こうなったらこいつに最後まで付いて行ってみよう。

 引き上げられて立ち上がると、そいつは俺の目線の下に居た。薄暗い空には強い風が吹いている。

 ふと振り返ると、そういえば大きな桜の木が成っていた。

読みにくい話が書きたった。

続けたいけど、続けられるか分からない。

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