06 再突撃! スカンピア村の晩ご飯
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スカンピア村に、とんでもない「暴力」が襲いかかりました。
それは、暴力的なまでに食欲をそそる、「匂い」です。
村の中央広場。ドガンさんが壊れた古鍋を【超速加工】で一瞬にして巨大な寸胴鍋に打ち直してくれました。
その中で今、グツグツと煮込まれているのは、先ほど狩ってきたばかりの「アルミラージ」のお肉と、大量の野草です。
「……いい匂いだ」
「夢じゃねえよな……?」
家々から、ふらふらと村人たちが集まってきます。その表情は、まるで神の奇跡を目撃した信者のようでした。
鍋の指揮を執るのは、私の自慢の侍女ヴィオです。
「お嬢様、火加減はこのままで。……ああっ、勝手に謎の草を入れようとしないでください!」
「だ、だって『味変』によさそうな草がポケットに入っていましたの!」
「それはマンドラゴラの葉です。全員踊り狂って死にますよ」
危ないところでした。
ヴィオの手際によって、鍋の中身は最高潮を迎えます。
隣の鉄板(これもドガンさんが廃材で作りました)では、「ウォーキング・マッシュ」のステーキが焼かれています。
「さあ、まずはステーキからどうぞ」
ヴィオがナイフで切り分け、アニーさんに渡しました。
アニーさんは震える手で、熱々のキノコを口に運びます。
「……っ!!」
ジュワリ。
肉厚なキノコを噛み締めた瞬間、あふれ出したのは濃厚なうま味のジュースでした。
まるで上質なお肉のような弾力と、森の香りが鼻を抜けていきます。味付けは塩だけですのに、バターで焼いたようなコクがありました。
「おいしい……っ! こんな、おいしいもの……生まれて初めて……!」
アニーさんの目から、ポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちました。
それを見た村人たちが、わっと歓声を上げて料理に殺到します。
「こっちの鍋もすごいぞ!」
「肉だ! 肉がとろけるぞ!」
アルミラージの鍋も絶品でした。
淡泊なウサギ肉らしさを残しつつ、ほどよく脂の乗ったお肉は、煮込むことでホロホロに柔らかくなっており、口の中で解けます。魔獣肉なんておいしいのかしらと心配しておりましたが、特有の臭みのようなものは全くなく、むしろ野草の香りと相まって、体の芯から温まる滋味深い味わいです。
「うまい、うまい……!」
「ああ、生きててよかったぁ……」
あちこちで鼻をすする音と、感謝の言葉が聞こえます。
おがくず入りのパンを食べていた彼らにとって、これはただの食事ではありません。命をつなぐ、温かな希望そのものでした。
「デザートもありますわよ!」
私がマジックバッグから取り出したのは、外気温でほどよく冷えたスライムゼリーです。
ぷるんぷるんのゼリーを頬張りますと、爽やかな甘みが口いっぱいに広がります。
「甘い……! 砂糖なんて何年も舐めてねえのに!」
「冷たくて、つるっとしてて……へへっ、極楽だ」
村長さんが、子供のように顔をほころばせています。
その光景を見て、私も胸がいっぱいになりました。
もちろん、私もお肉を頬張りました。……熱くて舌を火傷し、フーフーしていたらお肉が飛んでいき、ドガンさんの口にナイスインする、というアクシデントはありましたが。
「んぐっ。……うまいな、嬢ちゃん。ご馳走さん」
ドガンさんも満足げに笑ってくれました。
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宴が終わり、村が静寂に包まれた頃。
お腹いっぱいになった村人たちは、久しぶりに安らかな寝息を立てていました。
私は領主の館で椅子に腰掛け、開け放った窓からぼんやりと夜空を見上げました。
冷たい風が吹いていますが、ヴィオが淹れてくれた食後の薬草茶のおかげで、体は温かいです。
「……不思議ですわ」
私は、ポツリと呟きました。
視線の先には、闇夜に青白く光る「ダンジョンの入り口」があります。
「何がですか、お嬢様」
「お父様のことです」
私の父、先代のオルダー伯爵は、とても優しく、そして聡明な方でした。
貧しい民を見捨てるような人ではありません。
王都にいた頃、父はよく言っていました。「オルダー領は辺境だが、重要な土地なのだよ」と。
「今日、村の惨状を見て思いましたの。どうしてお父様は、ここまで領地が荒廃するのを放置していたのかしら」
魔素が濃すぎて作物が育たない。それは自然現象かもしれません。ですが、何かしらの対策は打てたはずです。
それなのに……。
「……先代様には、何かお考えがあったのかもしれませんね」
ヴィオが静かに答えました。彼女の銀色の瞳もまた、怪しく光るダンジョンを見つめていました。
「あのダンジョンが出現したのは、偶然だったのでしょうか。それとも、あの『ドラゴンの魔石』をここに持ち込んだ時点で、運命づけられていたのでしょうか」
「……わかりませんわ。でも」
私は空になったカップを置き、夜空に輝く満月を見つめました。
「今は考えても仕方ありません。私にできるのは、この村のみんなと生きていくこと。……そして、あのダンジョンをもっともっと探索して、この借金を完済することですわ!」
「ええ。とりあえず明日は、屋根の修理ですね」
「ふふ、頑張りますわよ! ……あ、くしゅんっ!」
私のくしゃみで、屋根の瓦が一枚、ズザザッと滑り落ちて砕け散りました。
「……お嬢様。明日はおとなしくしていてください」
「そんなぁ〜!」
私たちの賑やかな夜は、こうして更けていきました。
スカンピアに隠された秘密が牙を剥くのは、もう少し先のお話です。
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