56 元・婚約者の行き先は
●Sideアルフォンス
転移魔法で最寄りの都市まで移動したあと、スカンピアまでは馬車で移動するのが普通だそうだ。
しかし俺は王子。乗り合い馬車のような粗末なものには乗らん。
その場で調達した白馬に騎乗し、数人の従者を連れてスカンピアへと駆けていた。
式典用の華やかな衣装に身を包み、百本のバラの花束を持つ俺。あの凡愚なゼジリアでも、この俺の美しさと価値を認めざるを得ないだろう。
「王子、よろしかったのですか。そのバラを摘んで」
従者が意味のわからないことを言う。
「なにを言うか。城の花園に勝手に生えていたバラだぞ。城のものを王子がどうしようと自由だろう」
「バラは自生するものではありません。そのバラは、今年の卒業記念パーティーのため、第三王子妃主導で育てられていたものです」
「ハッ! 義姉上には悪いが、自然に咲いた花を誰が摘むかなど、早いもの勝ちなのが常識だろう?」
従者は小うるさいくちばしを閉じる。やれやれ、と思っていたら、まだあったようだ。
「国王はあれほどお怒りでしたのに、まだ失態を重ねるおつもりですか」
「そうだな。結界の魔力を充填することはゼジリアの義務だ。それを果たさず、王都を危機に陥れた罪は重い。
国王のお怒りももっともだ。情け深い俺は、ゼジリアが頭を下げるなら取りなしてやらんこともない」
「…………」
「国王はお怒りのあまり、無関係なこの俺に当たり散らしておられた。年を取ると『伝言』も冷静にできないとみえる。ああはなりたくないものだ」
「…………はぁ」
「ふん。ゼジリアが十分な謝罪の遺志を表明するのはさぞかし大変だろうな。あれほどの事態だ。土下座ひとつで済むようなものではない」
先ほどから従者の反応が悪いな。無礼なやつだ。王都に帰ったら辞めさせて、他の者と交代させよう。
「ゼジリアが深く反省し、この俺に尽くすのであれば側に置いてやらんこともない。きちんと義務を果たすことが前提だがな。
いやしかし、調子に乗られてはいかんな。俺の正妃はリリアで、ゼジリアなどつまらん女を愛することなどないのだから」
「……サン・ガルディア王国に側室制度はありません。寵姫にでもなさるおつもりで?」
「ゼジリアは俺を愛しているのだろう。たまに部屋へ通ってやれば機嫌が取れるというのなら、そうしてやるのもやむを得ないな。
スムーズに女を働かせるのに情けをくれてやるのも男の甲斐性というものだ。
やれやれ、女に好かれるというのも面倒なことだ」
「ゼジリアさまのお気持ちを考えたことがおありですか?」
「ああ! 情けを恵んでもらっているからといって、ゼジリアがみっともなく嫉妬しては困る!
女というのはとにかく知恵に乏しく感情的だからな。ヒステリーを起こされたらたまらない。
俺と正妃リリアを立て、三歩下がって控えめに振る舞うようにとよくよく言い含めておかねば」
「ゼジリアさまは、辺境の貧困地帯を一年で豪華な観光地にした手腕の持ち主ですよ」
「スカンピア! あのようなポテンシャルがあの土地にあったとはな。
スカンピアの経営権は、慰謝料として俺に委譲させよう。そのほうがゼジリアは自分の義務に集中できるし、俺のほうがもっとうまくスカンピアを発展させられる。いいことづくめだな!」
従者はそれ以降話すことはなくなった。俺はため息をつく。やっと馬を走らせることに集中できる。
おしゃべりが好きな男というものは情けないものだな。
なにもない荒れ地の中に、やがて壁のようなものが見えてきた。
見苦しい畑の中に見張り台があるな。ふん、あの女の仕事とはこのようなものか。
やはり俺がここを美しく豪華に整えてやらねばいかん。
「さあ、見えてきたぞ! スカンピアの貧乏人どもめ、ひれ伏して俺を……」
ゴォォォオオオオオオオオッ!!!
そのとき、背後の山が爆発したかのような轟音がひびいた。
驚いた馬が転倒し、俺は地面に投げ出される。
ごろごろと転がり、衣装も花束もめちゃくちゃになる。
「無礼な畜生が! この俺を……」
強烈な閃光と熱と衝撃波。
空にバラの花びらが散って、一瞬で塵になっていく。
あぁ。この圧倒的な暴力と熱量こそが、真の王者の証ではないのか?
しかし、俺にはそれが何を意味しているかを理解するほどの時間などなかった。
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