50 氾濫を迎え討ちますわ!(前編)
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私が装備を調えて村の門に駆けつけたときには、すでに他のみなさんもお揃いでした。
「なんという魔素濃度でしょう。空の色が変わるほどなんて、少なくともここ二百年はなかったことですよ」
フレルさんの年齢は知りませんが、エルフの寿命は千を超えると言います。
おそらく、彼は実際に見たことを言っているのでしょう。
さきほど見た【セカンド・チャンネル】の噂話からも、この事態がかつてない大災害であることは明白です。
カァン! カァン! カァン!
見張り台の上から警鐘の音。続いて、見張りをしていたソレンさんが報告します。
「報告! ダンジョンの入り口から、スライム、ファングラット、ヤキイモグラが津波のようにあふれ出ています」
――氾濫。
とうとう、我がスカンピアにもそのときが来たようです。
私は杖を握りしめます。
ドガンさんは地面に手をついて、地中に【構造解析】を使用していました。
「……おかしい。地脈が悲鳴をあげとる。これは自然な氾濫じゃあない。誰かが外から無理やりこじ開けおったな!」
「えっ……? ど、どういうことですの?」
「誰かが介入して、意図的に魔素を暴走させた可能性があるということじゃ。それ以上はわからん。
じゃが、よい知らせもある。スカンピアの氾濫は比較的軽く済みそうじゃ。
震源地はかなり遠い……おそらく王都じゃろうな」
ドガンさんの言葉に私は少し安心しました。この村は、王都ほどの惨状にはならないということでしょう。しかし、我が村の戦力で対応できる規模かは、まだわかりません。
「そうなのですのね、よかった……と言っていいのでしょうか」
「この一ヶ月、入念に間引きをしていた成果があったのかもしれませんね」
ヴィオがパイプに薬草を詰めながら言いました。
私たちは、この一ヶ月、本当にがんばったのです。
せっせとモンスターを狩り、解体し、保存する。
レッサードラゴン級の強敵も、五日に一度は出現していました。
おかげで、クロウリーさんの魔法箱の容量はとうに一杯になっています。
入念に準備した結果、備蓄も経験値もたっぷり用意できています。
はたして、その努力は足りていたでしょうか。
それが今から試されるのです。
やがて、魔物の群れが目視できるほどに接近してきました。
お腹に響く地響きと、恐ろしい雄叫び。
魔素の異常によってダンジョンからあふれたモンスターは、凶暴化していて近くにいる生き物を襲う習性があります。
彼らには、いつもダンジョンで会うような、独自の生態系の中で穏やかに生活している魔物とは違った殺意があります。
「弓手構えぃ!! ……撃て!」
第八騎士団団長さんの指揮の下、村人の中で弓を使えるようになった人たちが斉射します。
群れの中の何体かの魔物が転倒します。
しかしまだ全体の勢いは止みません。やや遅れて、私の魔法も詠唱完了しました。
「降り注げ、【火矢の雨】!」
群れの中でも密度の高そうなところを狙い、【火魔法】で範囲攻撃を発動。
大雑把な攻撃ならいかにDEXが低かろうと問題ありません。何匹かのファングラットが倒れ、スライムが蒸発しました。
しかし、数を減らしながらも魔物の群れは止まりません。
「突撃隊、準備!」
「【氷結】!」
「吶喊!!」
フレルさんが【水魔法】で魔物の足元を凍りつかせ、勢いがそがれたところに、ドガンさんが作った装備で武装した自警団の皆さまが突撃します。
一番槍をあげたのはソレンさんです。それに続いてガヴさんが、ハンスさんが、ジョニーさんが。次々と魔物を倒していきます。
そして、突撃隊にやや遅れて、力の強い人や足の速い人が、せっせと魔物の死体を回収しています。
……よく見ると、ガヴさんや一部の村人たちは、攻撃と放血を兼ねたような動きをしているではありませんか!
「……なぜだ。なぜ彼らは魔物を倒した次の瞬間に、流れるような動作で解体を始めているんだ!?」
「ガッハッハ! ソレンさん、素材を無駄にするのはスカンピアの恥ですぞ! ほれ、ヤキイモグラの皮は上質な靴になりますからな!」
ソレンさんが呆れています。
しかし、私にはその動きに見覚えがありました。
「ガハハッ! 間に合ったようだな」
死線においてなお豪胆に笑ったのはガムルさんです。
「俺が【解体】を仕込んでおいたんだ。戦場では兵站が何より重要だろう」
確かに、毎日毎日あれだけ素材が運ばれているのに、作業所はよく渋滞しないなと思ってはいました。
それが今、こんな形で出てくるとは。
そのとき、一匹のスライムが、乱戦地帯を抜けて村に接近しました。
門から遠かったので見落としてしまったのです。
危ない、防柵に張りつかれる! と思った瞬間、茨がにょきにょき伸びてスライムに絡みつきます。
スライムは鋭い棘に核を貫かれ、しぼんでいきました。
「ああ、見てくださいお嬢様! 茨ちゃんたちが『不法侵入者は許さないぞ♡』とお怒りです! なんて健気な防犯装置なんでしょう!」
フレルさんが作った防衛機構がうまく働いているようです。相変わらずちょっと気持ち悪いですが、頼もしい限りです。
突撃隊はよくやっていますが、魔物のほうが数は上回っています。
一人の村人が複数を抑えているとはいえ、抜けてくる魔物がちらほら出てきました。
私は魔法を使おうと思いましたが、村人に同士討ちをしてしまうかもしれないと躊躇しました。
すると、ヴィオが柵の外に躍り出ました。
「私にお任せください」
ヴィオはメイド服を翻し、ナイフを一閃、二閃。
瞬く間に数体のヤキイモグラが地面に沈みます。
そしてヴィオは次なる獲物を探して目を細めます。
「ヴィオさん、さっきから目をすがめて……もしかして、あなた、近眼じゃないですか?」
フレルさんが指摘しました。
ヴィオには遠くを見るとき、目を細める癖があります。そう、私はそれはただの「癖」だと思っていたのです。
「……っ!? 違います、これは獲物を睨みつけるための……」
ヴィオは顔を赤らめて否定します。しかしドガンさんが動くのが先でした。
「なんじゃ、早く言わんか!」
ドガンさんは魔法鞄から素材を取り出し、あっという間に「眼鏡」を作り上げます。
それは頑丈そうなフレームを持つ無骨なデザインながら、つるの部分に小さな魔石や真珠が埋め込まれており、ステータスを向上させる魔導具も兼ねていることがわかります。
ドガンさんは有無を言わさずにヴィオに眼鏡をかけさせ、彼女の視力に合わせて何度か調整を加えます。
「……すべてが、止まって見えます。
お嬢様、これからは一本の煙も無駄にしません」
私は、ヴィオがまとう空気が変わったのを感じました。
「そろそろ前衛交代の準備!」
第八騎士団団長さんが声を張り上げます。
長く戦い続けていると、疲労が溜まったり、怪我をしたり、刃が脂を巻いたりしてだんだん戦力が落ちてくるそうです。
ですので、氾濫との戦いは持久戦になると考えた私たちは、戦力を二つに分けて交代する方針をとっていました。
「やっと俺の出番か」
「先代オルダー伯には恩がある。嬢ちゃんには言わずもがなじゃ。こいつらが愛したこの土地を汚す奴は、わしが許さん」
ガムルさんは肩を回し、ドガンさんはハンマーを担ぎます。
【ゼジィ】
レベル:17→21
HP:60→65
MP:880,204→1,008,360
STR:4
VIT:7
INT:115→134
DEX:2
AGI:4
LUK:999
スキル:
・ユニーク
【災い転じて福と為す】
失敗行動が高確率で「良い結果」に変換される。
・一般
【火魔法lv7→8】【治癒魔法lv5→6】【身体強化lv3】【浄化】【水魔法lv2→3】
【ヴィオ】
レベル:20→23
HP:1,020→1,100
MP:154→260
STR:66→72
VIT:65→68
INT:55→81
DEX:128→180
AGI:157→201
LUK:22
スキル:
ユニーク
・【紫煙の支配者】
吐き出した煙の成分や形状を自在に操る固有魔法。
・一般
【上級投擲術lv2→4】【身体強化lvMAX】【暗視】【短時間睡眠】【気配遮断lv1→2】
【ドガン】
レベル:50→51
HP:3,650→3,723
MP:210→214
STR:890→908
VIT:972→1,001
INT:152→154
DEX:1,250→1,288
AGI:42
LUK:121
スキル:
ユニーク
・【超速加工】
資材さえあれば、一瞬で加工・建築を行う。
・【構造解析】
対象に魔力を浸透させることで、建物や道具、あるいはダンジョンの構造を解析できる。
・一般
【上級槌術lv2→3】【上級鍛冶lv3→5】【上級建築lv6】【縫製lv2→4】【鑑定lv5】【身体強化lv1→3】
【ガルム】
レベル:28→30
HP:4,200→4,475
MP:200→210
STR:755→800
VIT:302→305
INT:96→99
DEX:198→206
AGI:105→103
LUK:41
スキル:
・ユニーク
【暴食の探求者】
食事をすることで一時的なバフを得る。バフ内容はメニューによって変わる。
・一般
【解体lvMAX】【斧術lv8→上級斧術lv1】【火耐性lv5】【毒耐性lv8】【鑑定lv3】【上級調理lv2→3】【食品加工】【身体強化lv2→4】
【フレル】
レベル:61→62
HP:920→1,080
MP:12,750→13,387
STR:35
VIT:36→37
INT:1,610→1,700
DEX:621
AGI:96
LUK:65
スキル:
・ユニーク
【緑の声】
植物の感情や状態を理解し、その生長や特性を最大限引き出す。
・一般
【水魔法lv9】【風魔法lv9→疾風魔法lv1】【調合の匠】【鑑定lv8→9】【社畜】【身体強化lv1】【限界突破】




