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婚約破棄された不運令嬢ですが、辺境をダンジョンで開拓しますわ! 〜DEX2の不器用令嬢、LUK999とうっかりミスで借金一億を完済します〜  作者: 海底撈月


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05 はじめてのダンジョンアタック

 いざ、ダンジョンへ! というところで、ヴィオが言いました。


「ドガンさん。お嬢様に杖を作ってくださいませんか? 簡単なものでも構いません」


 私はぱぁっと笑顔になります。


「そうですわ! 杖があれば、私だって戦えますわ!」


「そんなのはお安いご用じゃ。じゃが、嬢ちゃんは魔法使いだったのか? なのに、自分の杖を持っておらんのか」


「お嬢様はただの箱入り娘ですよ。身体能力はすでにご存じのとおりです」


「ふふん! たしかに私に戦闘経験はございません。ですが、MPには少しばかり自信がございますのよ!」


 得意になった私の鼻っ柱をヴィオが折ります。


「……ですがあのDEXの値では、味方を巻き込むのがオチです。ただし杖があれば、魔法にある程度の指向性を持たせることができます。そうなれば、お嬢様の無駄に高いMPが、戦力として当てになるかもしれません」


 ヴィオの主張を、ドガンさんはいぶかしんだようです。


「そんな例は聞いたことがない。心配しすぎじゃないのか?」


 私は、恥ずかしい気持ちと、黙っていれば迷惑をかけてしまうのではないかという気持ちの間で揺れます。ですが、新しい友人を負傷させてしまうリスクを考え、思い切って打ち明けることにしました。


「ステータスカードをお見せしますわ。でもでも……! 笑わないでくださいましね?」


 私が差し出したステータスカードをドガンさんは受け取ります。


「DEX……2!? 冗談じゃろ。ドワーフにはこんな不器用はいない」


 そしてふぅむと顎を撫で、言いました。


「なるほど、杖がないと使い物にならないという事情はわかった。さて、嬢ちゃんばかり手の内をさらすというのも不公平じゃのう。わしのステータスカードも見せよう」


「では、私も」


 ドガンさんとヴィオがステータスカードを交換します。

 私はヴィオの横からドガンさんのステータスを拝見しました。


【ドガン】

レベル:48

HP:3,500

MP:200


STR:850

VIT:920

INT:150

DEX:1,200

AGI:40

LUK:120


スキル:

ユニーク

・【超速加工(クラフト・バースト)


・【構造解析(アーキテクト・アイ)


・一般

【槌術lvMAX】【上級鍛冶lv1】【上級建築lv2】【鑑定lv4】


 そこには、ヴィオを遙かに上回る数値が。


「これは……ものすごい手練れですね」

 ヴィオが感嘆します。


「盾役としてもダメージディーラーとしても立ち回れる、優秀な前衛ですね。私一人でお嬢様を守って戦うのは不安でした。ドガンさんがいてくれたことは、大変な幸運です」


「かかかっ、長く生きただけよ。お主らのような伸びしろはわしにはないわい」


 笑って、ドガンさんはその辺りに落ちていた廃材を拾います。それをあっという間に加工して、杖の形にしてくれました。


「ほい」

「まぁ! これが私の杖ですの? ドガンさん、ありがとうございます!」


 私は今まで、学校の備品しか杖に触ったことがありません。自分の杖を持つのは初めてです。まだ木の香りがする真新しい杖を、大変愛おしく思いました。一瞬で作ったとは思えないほど、私の手にすっぽりと収まります。これがドガンさんのユニークスキルの力なのでしょうか。


「間に合わせじゃ。性能も耐久性も期待するでないぞ。ダンジョンに慣れてきたら自ずと素材も集まるじゃろう。そうしたらもうちっと本格的なものを作ってやる」


 ドガンさんはそう言いますが、私はこの杖を一生大事にする気満々でした。新しい杖を作っていただいたとしても、宝物として部屋に飾っておこうと心に決めました。


 私たちはドガンさんの案内で、再びダンジョンの入り口である「大穴」へとやってきましたました。

 そして、ドガンさんは滑車とロープを使って、簡単な昇降機を作ってくれました。

 先ほどは落下しましたが、今回はこれがありますから、安全に降下できますね。


「ひゃあ……! 少し降りただけですのに、急に暖かくなりましたわ!」


 地下に広がる空間に降り立った瞬間、肌を撫でたのは生ぬるく湿った空気でした。

 外は凍えるような晩秋だというのに、ここはまるで初夏のような陽気です。

 壁や天井には青白く発光する苔がびっしりと生えていて、松明がなくても昼間のように明るく、視界は良好でした。


「魔素濃度が高い場所は、環境が固定されるんじゃ。ここは植物や小動物にとっての楽園じゃな」


「楽園……まさにそのとおりですわ!」


 私の目の前には、見たこともない光景が広がっていました。

 足元にはフカフカの下草が絨毯のように広がり、あちこちに色とりどりの果実をつけた低木や、巨大なキノコが生えています。


「わぁぁ! これは図鑑で見たことがありますわ。たしか、ポーションに使われる薬草ですわ」


 私は目についた植物の中から、見たことがあるものを手当たり次第に摘んでいきます。王都にいたときは、教科書の中でしか見たことがなかった植物たちですが、ここでは現物があるのです。新しい見識を得られたという新鮮な感動が、私をいつになく素早く動かします。


「嬢ちゃん! そいつには触るな!」

「ひぇっ!?」


 ドガンさんが私のベルトをつかんで引っ張ります。


「そいつはマンドラゴラじゃ。うかつに引っこ抜くと、わしら全員発狂じゃ。貴重な素材でもあるんじゃが……今回は準備がない。葉だけもらっておこう」


 ドガンさんはナイフで数枚、マンドラゴラの葉を切り取りました。


「まったく……お嬢様、警戒してください。楽園ということは、それだけ生存競争も激しいということです」


 ヴィオが紫煙を吐き出しながら、鋭い視線を茂みに向けました。

 すると、プニプニとした水色の物体が、草陰から飛び出してきました。


「あら、可愛らしい! スライムですわ!」


 それは、直径三十センチほどのゼリー状のモンスターでした。

 ぽよんぽよんと跳ねながら、こちらに向かってきます。


「スライムは純粋な魔素から生まれた『魔法生物』です。物理攻撃は効きにくいですが、核を破壊すれば……」


 ヴィオが解説しようとした瞬間、私は杖を構えました。


「任せてくださいまし! 魔法なら私の得意分野です! ええっと、【火魔法】で焼き払って……」


 私は気合いを入れて魔法を唱えようとして――そして、湿った苔に足を滑らせました。


「あだっ!?」


 私は盛大に前のめりに転倒。

 突き出した杖の先端が、スライムの体にズボッと突き刺さります。


「ああっ、ごめんなさい! 杖で突っついてしまって!」


 私が慌てて杖を引き抜こうとしたとき、杖の先から暴発した【火魔法】の熱が、スライムの内部で炸裂しました。


 しかし、私のスキル【災い転じて福と為す】が発動したのでしょう。それは攻撃魔法としてではなく、「絶妙な火加減の加熱処理」として作用してしまったのです。


 ポンッ!!


 軽快な破裂音とともに、スライムの体が霧散しました。

 後には、キラキラ光る小さな石と、プルプルの塊が一つ残りました。


「……あれ? スライムさんが消えてしまいましたわ」


「魔法生物は、死ぬと魔素に還って消滅するんです。……ですが、これは何でしょう?」


 石のほうは魔石です。弱いモンスターの魔石は、魔導具の動力として使われるため、広く普及しています。しかし、プルプルの塊のほうは、見たことがありません。ヴィオが残されたプルプルの塊を拾い上げ、匂いを嗅ぎます。


「……甘い匂い。これは『水ゼリー』ですね。しかも、お嬢様の魔力で加熱殺菌され、あまつさえフルーツのような風味が付与されています」


「まあ! 食べられますの!?」


「ええ。毒素は完全に抜けています。冷やせば極上のデザートになりそうです」


 なんと! デザートをゲットです!

 私はマジックバッグにゼリーと魔石を放り込みました。


「次はお肉ですわ! 村のみんなにお腹いっぱいお肉を食べさせてあげるんです!」


 意気込む私の前に、今度はガサガサと茂みを揺らして、一匹の獣が現れました。

 額に鋭い一本角を生やした、モコモコのウサギです。


アルミラージ(つのウサギ)! あの子も魔素から生まれたのですか?」


「いや、あれは元々地上にいた野生動物が、魔素の影響で変異した『魔獣』じゃ。だから倒しても死体は消えんぞ!」


 ドガンさんがハンマーを構えますが、それより早くヴィオが動きました。


「今夜のメインディッシュですね」


 ヒュッ、とヴィオの手から何かが放たれました。

 それは彼女が髪留めに使っていた銀のピンでした。

 ピンは目にも止まらぬ速さで飛び、突進してこようとしたウサギの眉間を正確に貫きました。


「ピギッ!」


 ウサギは短く鳴いて、その場にドサリと倒れました。

 スライムのときとは違い、体は消えずにそこに残っています。


「おお、見事な腕前じゃ! 毛皮も傷ついておらん。これなら肉は食えるし、皮は防寒具になるぞ」


「動物ベースのモンスターは、こうして素材がそのまま残るのがありがたいですね。……ただ、血抜きと解体が手間ですが」


 ヴィオがナイフを取り出そうとします。

 私は倒れたウサギに駆け寄りました。丸々と太っていて、とてもおいしそうです。


「ヴィオ、あそこにも! あっちには歩くキノコがいますわ!」


 見れば、ウサギの群れの後ろから、巨大なシイタケのような魔物「ウォーキング・マッシュ」がトコトコと歩いてきます。


「キノコステーキにウサギ鍋……! 夢が広がりますわ!」


 私は欲張って、キノコに向かって走りました。

 しかし、運動神経ゼロの私が、凹凸のある地面をまともに走れるはずがありません。


「きゃっ!?」


 私はまたしても何もないところでつまずき、宙を舞いました。

 手から離れたマジックバッグが、開いた口をこちらに向けながら飛んでいきます。


「あっ、バッグが!」


 私の体は、運悪く(いえ、運良く?)群れをなしていたウォーキング・マッシュたちの上にダイブ!  ドミノ倒しのように倒れるキノコたち。

 その衝撃で、キノコたちが一斉に「痺れ胞子」を噴き出しました。

 周囲のウサギたちが、胞子を吸い込んでバタバタと気絶していきます。


「げほっ、ごほっ!」


「ドガンさん、今のうちに」


 ヴィオが促すと、口をあんぐり開けていたドガンさんが動き出します。


「お、おう!」


 ヴィオとドガンさんは、ウサギとキノコに素早く攻撃を加えていきます。

 さらに、私が蹴り飛ばしたマジックバッグが、絶妙な回転を加えながら着地し――ヴィオたちがとどめを刺したウサギやキノコたちを、まるで掃除機のように次々と吸い込んでいくではありませんか!


 ズボボボボボ……スポンッ!


 あっという間に、周囲の魔物は一掃され、私の足元にはパンパンに膨れ上がったマジックバッグが転がっていました。


「あ、あら……? もう狩りが終わってしまいましたわ」


「……お嬢様。あなた、わざとやっているわけではありませんよね?」


「もちろんです! 真剣ですわ!」


「はぁ……。まあいいでしょう。これだけの量があれば、村人全員がお腹いっぱい食べられます」


 ヴィオが重たくなったバッグを拾い上げてくれました。


「さあ、帰りましょうお嬢様。今夜は宴です」

「はいっ!」


 こうして私たちは、あふれんばかりの食材を抱え、飢えるスカンピア村へと凱旋したのです。

【廃材の杖】

 そのへんに落ちていた廃材で簡単に作った、間にあわせの杖。素手よりも多少魔法を使いやすくなる効果がある。

 DEX+8

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