47 思わぬ強敵との遭遇ですわ!
●
私とヴィオはドガンさんの後ろについて、ダンジョンへと来ていました。
ドガンさんは第二層に鉱脈を見つけたそうです。
「いい金属の鉱石ですの?」
「いや、普通の魔鉄じゃな。じゃが、安価な武具や消耗品が売れ筋じゃとペストマスクが言ったじゃろ。ちょっと大量生産しようかと思っての」
ドガンさんもいろいろ考えてくださっているのですね。
私の目的の薬草は、比較的どこでも手に入ります。ドガンさんが採集している近くで、私とヴィオも必要な素材を探しました。
「おぉ、コイツはミスリルか……。しかし最近、レア素材が出やすくなっておる気がするのう」
「いいことではないんですの?」
「氾濫の前にこういう現象が起きることがあるんじゃ。ドラゴンの出現といい、不穏なことが続いとるじゃろ」
「それはそうですわよね。弱いモンスターの数も、相当間引いているはずなのに減った感じがありませんし」
私はガヴさんの言葉を思い出しました。
このスカンピアに、何か悪いことが起きそうな予感がします。
夕方近くになって、そろそろ帰ろうと思ったころです。
私たちは、そこにいるはずのないものに遭遇しました。
体高は二メートルを超えるくらい。金属質な、緑がかった黄色の鱗を持つ巨体。
太く力強い後脚と、長大で棘のある尻尾。
そして緑色の大きな双眸が、爛々と私たちを睨みつけています。
やや小ぶりであり、色も違いますが、この姿には見覚えがありました。
「おい……おいおいおい! イエローレッサードラゴンじゃと!?」
ドガンさんが慌てたように言いました。
「たたたた、大変ですわ! 村に逃げて、応援を呼びましょう!」
「いや、わしらはあのときよりレベルが上がっておるし、装備もよくなっとる。勝てるかもしれん」
「しかし、危険では?」
ヴィオはドガンさんの提案に異論を唱えます。
「こんな浅い階層におるドラゴンを放置して、外に出てこられたら大変じゃぞ!?」
ドガンさんの言う通りです。ここから村まで、私たちの足で歩いて三十分もかからないのですから。
攻略法はわかっています。動きを止めて、逆鱗を貫く!
私たち三人でやりおおせなければ……。
「やれるだけ、やってみましょう……!」
真っ先に動いたのはヴィオです。パイプから煙が出ていたドラゴンを拘束しようとします。が、ドラゴンの魔力が風を生み出し、煙を散らしてしまいます。
「くっ……イエローレッサードラゴンの属性は【風】。煙とは相性がよくないようです」
「まだ手はある! ダメージをガンガン与えて怯ませるんじゃ!」
ヴィオはナイフでドラゴンとやりあい、回避盾の役割をしていてくれます。ドラゴンは尻尾の棘でヴィオを斬り裂こうとしていますが、【身体強化】を使用したヴィオはその攻撃を見切っている様子。
「紅蓮の魔力よ、我に応えよ! ――【燃焼】」
私は新しく作っていただいた、ブルードラゴンの魔石を先端に埋めた杖で魔法を発動します。
「ギャアアッ!」
よし、ダメージは通っていますね!
ドガンさんもハンマーを振り回し、ヴィオとともに前衛をしてくれています。
ヴィオもドガンさんも、徐々に負傷が増えてきています。
私もガンガン強めの攻撃魔法を詠唱します。
「清き水よ、穢れを包み込め! ――【水球】」
「グォォオオオン!!」
水球に頭部を包まれ、呼吸を塞がれたドラゴンが、苛立ちと共にその巨体を激しく震わせました。
次の瞬間、ドラゴンの周囲に真空の刃が幾十にも発生し、私の魔法を内側から引き裂いたのです。
「危ないですわ!」
弾け飛んだ水のつぶてが、散弾のように周囲を襲います。私は思わず杖を盾にするように構えましたが、そこで私のDEX2が悪さをいたしました。
濡れた足元に滑り、杖の先端が変な角度で岩の隙間に突き刺さってしまったのです。
「あだっ!? ま、また転んで……!」
しかし、その瞬間、私のユニークスキル【災い転じて福と為す】が発動しました。
岩に突き刺さったブルードラゴンの魔石から、制御を失った莫大な魔力が地面を流れます。それが地表を伝わり、ドラゴンの足元を凍結させました。
「グルゥ!」
風を操るドラゴンの足元が凍りつき、その自慢の俊敏さが奪われました。
「ナイスじゃ、嬢ちゃん! これなら逃がさんぞ!」
ドガンさんが重厚な『軽銀の剛甲』を叩き合わせ、跳躍しました。
そのハンマーには、ドワーフの執念とも言える魔力が凝縮されています。
「【隕石落とし】!!」
ドガァァアン!!
ドラゴンの脳天に、文字通り隕石が落ちたかのような衝撃が走りました。
昏倒し、無防備に晒されたその「逆鱗」。
ヴィオの銀髪が、風を切り裂いて舞いました。
「……仕留めます」
彼女の手には、ドガンさんが打ったナイフがありました。
それが抜群のコントロールで投擲され、吸い込まれるようにドラゴンの顎の下へと突き刺さり、命の灯火を断ち切ったのです。
激しい戦いの後には、ドラゴンの巨体と、私たちの荒い息遣いだけが残りました。
ヴィオが乱れた服を整えながら、倒れたドラゴンを見下ろしてつぶやきます。
「……お嬢様、やはり異常です。この個体、小さいながらも、やはり一端のドラゴンでした」
「わしも同感じゃ。本来なら五層にいてもおかしくない強さ……。ダンジョン全体が、何かを『吐き出そう』としておるような、嫌な予感がするのう」
ドガンさんの言葉に、私の胸のざわつきは止まりませんでした。
私たちは三人でイエローレッサードラゴンを倒しました。
決して楽な戦いではありませんでしたが、それでも成長を感じられる善戦でした。
それは朗報でありながらも、第二層にドラゴンが出現したという、凶報でもありました。
「すぐに村へ戻りましょう。私たちの魔法鞄には、このドラゴンを収納できる容量はありません。応援を呼ばなくては」
ヴィオが言いました。
私たちはドラゴンの巨体を解体する時間すら惜しみ、最低限の素材だけを魔法鞄に詰め込んで、急いで地上へと戻りました。




