46 自警団とランチタイム
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クロウリーさんを見送って、フレルさんは調合室に戻りました。私とヴィオとドガンさんは、訓練所に向かいます。
なぜなら、お昼どきだからです。
屋外にある訓練所では、村の自警団が訓練をしていました。騎士の経験があるソレンさんを中心に、村の有志が戦うための技術を身に着けています。
……と、私たちは聞いていました。
実際は……。
「……ガムル殿。あの、丸太を片手で振り回している村人たちは……確か一ヶ月前まで、ただの塩焼き職人でしたよね?」
「この村の人間の特異体質らしいぜ。魔素濃度が高い環境に適応した結果だそうだ」
「いやぁ、ソレンさん。最近は魔物も活発でしてな。これくらいムキムキでないと、カブの収穫もままならんのですわ。ガッハッハ!」
「……カブの収穫に、なぜ『身体強化lv5』相当の筋力が必要なんだ……?」
ソレンさんがつぶやきます。
たしかにこの村の人たちのマッチョ具合はだんだんおかしな方向になってきています。
あそこで子供たちが石蹴りで遊んでいる石……あれ、十キロはある鉄鉱石ですよね?
あちらで洗濯物を絞るおばあさまの腕も、なんか……すごいのです。
ここにはそんなカオスな日常と、それを全く意に介さず、マイペースにお昼ご飯を準備するガムルさんという光景が広がっていました。
このお昼ご飯こそ、私たちの目的です。
ガムルさんが作る今日のお昼ご飯も、おいしそうです!
大きな肉切り包丁の背でしっかり叩かれた厚切りのステーキ肉は、フォレストボアでしょうか。
刻んだホースラディッシュと香草を和えたものと、洋ナシのソースがかかっています。
つけあわせはパースニップと聖女カブ、腸詰も一人二本ずつついています。
肉を焼く鉄板の隣にあるお鍋では、ビーツのシチューが煮込まれています。
真紅のスープの中でぐつぐつ煮えているのは、たくさんの野菜とモツ肉です。保存の効かないドラゴンのモツは、ガムルさんの時間停止つきの魔法鞄で保存され、毎日少しずつ料理に使われています。きっとあれにも入っているはずです。
そして、今日はデザートもあるようです!
エールとリンゴのコンポートですね。
ガヴさんが、たくさんのお料理を見て驚いています。
「こんなに食材を使って、在庫は大丈夫ですかのう?」
「最近、魔物の数が多すぎるんだ。さっさと食っちまわねェと腐っちまうくらいにな。
それだけじゃねェ、浅い層に強い魔物が迷い込んできやがる。肉の量と質は上がって助かるが、不気味だぜ」
「ただ数が増えただけなら収穫が増えて万々歳じゃ。じゃがのう……」
ガムルさんとガヴさんは暗い顔をしています。
やがて、午前の訓練が終わり、配膳が始まったようです。自警団に混じって、私たちも列に並びます。
「……騎士の坊主。いいか、戦いってのは腹が空いてちゃできねェ。このフォレストボアは、逃げ足の速い獲物を追い続けるためのしなやかな筋繊維を持っている。食えば、お前の細い腕も丸太のようになるぜ」
ガムルさんが、ソレンさんのトレーにお椀を乗せました。ソレンさんはベンチに腰掛けて食事を始めました。
「なんだこれは、噛むたびに熱い魔力が噴き出してくる……!」
ソレンさんがお椀の中身を飲み干すと、腕の筋肉がミシミシと膨らんだような気がします。
「この村の野菜は、嬢ちゃんの魔力を吸いすぎて、もはや野菜の形をした魔力ポーションみてェなもんだ。これを食って、明日から村の防柵を一気に積み上げるぞ」
おぉぉ! と、自警団の皆さまが野太い声をあげました。
ソレンさんもすっかりスカンピアに馴染んでいるようです。
……私たちはあれを飲んでも二の腕が太くなることはありませんよね?
私とヴィオとドガンさんも、お昼ご飯をいただいてベンチに腰を下ろしました。
「嬢ちゃん、ヴィオ。午後の予定は何かあるのか?」
「とくには。調合の練習をしようかと思っていますわ」
「私はお嬢様のお世話を」
「なら、わしと軽くダンジョンに行かんか? 鉱石を掘りに二層に行こうと思っとるんじゃ」
「いいですわね。私も練習用の薬草を摘みに行こうかしら」
私たちは、そんなおしゃべりをしながらお食事をしていました。
「お嬢様たち、気をつけて行ってらっしゃい。このところ空気が騒がしいですじゃ。何も起こらないといいのじゃが」
ガヴさんが、空を見てそのようにおっしゃいます。
私にはよくわかりませんでしたが、土地の老人とは、幼いころから蓄積された経験をお持ちであるものです。ですから、ガヴさんでないとわからないような、小さな差異があるのでしょう。
私はそのことをよくよく心に刻みつけておきました。
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