44 わくわくドキドキ! 買い取りタイムですわ!(前編)
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領主の館の応接室で、私たちはクロウリーさんの来訪を迎えていました。
メンバーは、私、ヴィオ、ドガンさん、フレルさんです。
前回、グリーンレッサードラゴンの素材が多すぎて、領主の館の前でクロウリーさんをお迎えいたしました。今回は、グリーンレッサードラゴンより大きいブルードラゴンがあるので、サイズ的にはお庭にもおさまりません。
にもかかわらず、室内にお招きしたのは、村の中に観光客がたくさんいるからです。
かつてはわずかな村人しかいませんでしたので、通行人を気にするようなことはありませんでしたが、今は落ち着かない感じになっていますからね。
「これで借金完済間違いなしですわ!」
「皮算用はやめてください」
楽観的に構えている私に対し、ヴィオは不安げに帳簿と目録をにらめっこしています。
ヴィオにとって、私の身分剥奪・鉱山送りは、それだけ恐ろしいことなのです。
「わしの作った傑作を安く叩かんでくれよ」
ドガンさんは足を組んでぶらぶらさせています。彼女もまた落ち着かないようですね。
「ふふふ……今日も芳しい『失敗』の匂いがしますねぇ」
「あら、クロウリーさん、どちらからいらしたんですの?」
なにもないはずの物陰から、クロウリーさんがヌルリと現われました。
しかしその問いには、クロウリーさんは答えません。企業秘密というものなのでしょう。
まずは、現在需要が高騰しているポーション類を査定していただきます。
買い取り数は、従来品の数は据え置きで、スリムポーションはかなり増えています。
「それと……領主様、フレル先生。お手紙には『領主様は調合の練習をされている』と書かれていました。失敗作でもいいので、多少なりとも回復効果があるなら、ポーションを多めに納品してくださいませんか」
「えぇ……本当ですの?」
「ふふふ、見てくださいこの依頼書を。王都の騎士団からは『とにかく効くやつを、泥水でもいいから寄こせ』と悲鳴が上がっています」
売り物になるようなものではないと、目録に載せていなかったものはあります。クロウリーさんがそこまでおっしゃるのであれば、王都のポーション不足はよほど深刻なのでしょう。
「……ということでしたら、お嬢様、『アレ』をお出ししましょうか」
「ええっ!? あれ、火加減を間違えて真っ黒になっちゃった、私の失敗作ですのよ? 皆さん、そんな怪しい色のものを飲んで、気分を害されませんの……?」
フレルさんがおっしゃる「アレ」とは、私が作った真っ黒な失敗作です。効果は濃縮されているだけあって、普通のポーションより高いくらいなのですが、とにかく見た目が悪いので、村で消費しようということになっていたものでした。
そうして急遽追加となった「超濃縮・黒ポーション」ですが、クロウリーさんは全部買ってくれました。
「お嬢様、今の王都は『背に腹は代えられない』状況なんです。腕の悪い新人薬師が作る水のようなポーションよりは、毒々しい見た目の劇薬の方がマシだと思われているのでしょう」
「それは……深刻ですわね」
「このドロリとした見た目……王都の軟弱な貴族なら悲鳴をあげて逃げ出すでしょうが、死線を潜る騎士には、これほど頼もしい『泥水』はありませんよ」
私はこれを売るのはどうかと思っていましたが、クロウリーさんもそうおっしゃるなら、きっと需要があるのでしょう。
私たちは、しばらくダンジョン探索は薬草を目的にし、ポーションの生産量を上げようと話しあいました。
私ももうすぐ【調合】スキルが生えそうな感じがしているのです! がんばりますわ~!
続いては、化粧品類の査定です。贅沢品ではありますが、スカンピアリゾートのお土産品が大好評。定番のバスソルトに続いて、石鹸も人気が出始めているようでした。
この石鹸は、海藻の灰と植物油を使って、村の女性たちが丁寧に作ってくれたものです。
「クロウリーさん、見てくださいまし! こちらの石鹸、村の女性たちにそれぞれ好きな香りをつけていただいたんですの。そうしたら、観光客の皆さまにも、『今日はどれにしようかしら』って選べるって、大好評でしたのよ」
「……素晴らしい。『選択肢を与える』ことは、購買意欲を煽る最高のスパイスです。これに『スカンピア・リゾート・セレクション』と名付けて、王都の商会に倍の値段で卸しましょう」
バスソルトも、三種の香りを詰め合わせにしたものをたくさん買い取っていただきました。今までの単品売りよりも、詰め合わせの方が人気があるそうです。
「おい、そこのペストマスク。わしがゼジィの嬢ちゃんと協力して作ったこの石鹸、ただの石鹸だと思うなよ?
海藻の灰のアルカリ濃度を嬢ちゃんが魔力で無理やり安定させたせいで、魔物の返り血すら一拭きで落ちる代物。戦場じゃ重宝するはずじゃ」
ドガンさんがアピールしてくれます。ドガンさんは香りよりも洗浄力を重視した、別のラインの石鹸を作っていました。
「これもいいものですね。騎士や労働者はしつこい汚れに悩まされがちです。おしゃれな女性層だけでなく、別の客層にも攻勢をかけるとは。スカンピアの皆さまは、商売上手ですね」
そして、農産物や保存食、毛皮なども買い取っていただき……。
「それと、クロウリーさん! これ、目録には載せていなかったのですが、昨日拾ったものですのよ」
わたしはとっておきの宝物を、どん! とテーブルに置きました。
「……お嬢様。その二十センチ大の真珠はどこから?」
「昨日、『珊瑚の海』でかわいいカニさんを見つけて……つい追いかけていたら派手に転んで、岩場に頭をぶつけちゃったんですの。そしたら、その岩だと思っていたものが実は巨大な大貝で、びっくりして吐き出したのがこれですの!」
「……深海にしか生息しないはずの『万年真珠』。これを転んで見つけるとは、もはや商売の神に愛されているとしか思えませんねぇ」
クロウリーさんはペストマスクの下で、目を輝かせているように見えました。




