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婚約破棄された不運令嬢ですが、辺境をダンジョンで開拓しますわ! 〜DEX2の不器用令嬢、LUK999とうっかりミスで借金一億を完済します〜  作者: 海底撈月


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42 聖女(仮)の正体は?!

●Sideリリア

「どぉしたんですか殿下ぁ~♡ 急に会いたいなんてぇ♡」


 アルフォンス王子が急に呼び出してきたと思ったら、王都の結界の話だったわ。


「えぇ〜、そんな大変なお仕事、私のお肌が荒れちゃいますぅ♡」


「そ、そこをなんとか。君ならできるだろう?」


 王子の金髪が、冷や汗で額にくっついている。情けない顔。この男はそろそろ出がらしかしらぁ。


「う~ん、しょうがないですねぇ♡ これからお茶会なので、終わったら行きますね♡」


「助かる。礼にドレスでも宝石でも、なんでも買ってやるから……!」


 私は王子にご褒美を約束させ、お茶会の席へ向かった。


 大輪のバラが咲き誇る庭園のあずまやで、たくさんの令嬢たちが私を待っていた。

 彼女たちは私を褒めそやし、流行のコスメ、ファッション、グルメなんかの楽しい話をしてくれる。

 雑談のお供に、香り高い紅茶と人気の菓子店から取り寄せた評判のお菓子をつまむのも悪くないわ。

 聖女という肩書があれば、みんなが並んで手に入れなければならない限定品を、順番に割り込んで強引に手に入れることも簡単よ。


「あら! あなたのネックレス素敵ね。流行じゃないけど、逆に新しいかもぉ♡ ヴィンテージってやつかしらぁ?」


「聖女様、ありがとうございます。これ、祖母の形見なんです」


「近くで見たいわ。貸してくださる?」


「はい!」


 その令嬢はネックレスを外して私の手に渡してくれた。

 大粒のオパールが、細かい金細工の台座に収まっていて、とても価値がありそうだわ。

 私がまだ持っていないテイストのアクセサリーだし、何よりきちんと手入れされていて、古くても大切に扱われていそうなところがいいわ。


「いいわね。じゃあこれ、いただいておくわね♡」


「……え?」


 ネックレスの元の持ち主は、歪んだ笑顔を貼りつけたまま固まっている。

 あぁ、そういう顔を見るのって、本当に気持ちいい。


「じゃ、私、王子に頼まれた用事がありますの。あとはみなさまでどうぞ楽しんで♡」


 いいものが手に入ったし、十分息抜きできた。そろそろ面倒くさい用事を終わらせてあげようかな。


 王都の守護結界の魔導具は、お城の中央の尖塔に(コア)があるらしいわ。

 その核に魔力を注いで、ストックされている魔力量に比例した時間ぶん、結界を維持させるのですって。


 騎士に護衛され、官僚にその場へ案内してもらっている道中、国王の声が聞こえた。

 国王と大臣か誰かが話しているようだわ。


「それは誠か……? 婚約破棄に損害賠償だと?

 男爵令嬢ごときにうつつを抜かしおって。ゼジリア嬢の存在が我が国にとってどれだけ利益だったのか、あのバカ息子は理解していなかったのか。

 何のために王子の婚約者に据えたと思っていたのだ」


「アルフォンスさまによって王都から追放されたゼジリア嬢は、現在は領地であるオルダーへ滞在されておられます。そして……」


「なにっ、絶縁だと!? もはや、アルフォンスに罰を与えてオルダー伯に怒りを収めてもらう他はあるまい」


 あーあ、とうとう国王にばれちゃったみたいだわ。もうあの王子とは潮時ね。

 私は何も聞こえなかったふりをして、核のもとへ連れて行ってもらった。


「これが、星霜の結界……」


「はっ。聖女さまには、こちらに手を当てて魔力を流していただきたく……」


「はぁい、わかりましたわぁ♡ でも、集中したいので、ドアの外で待っててくれませんかぁ?」


 お願い、と私は上目遣いをするわ。……うまくユニークスキルが発動したみたい。官僚や騎士たちは、私の言うとおりに外に出てくれる。


 私は一人で核に向きあった。

 そして、ここまで自分のもくろみが上手くいっていることにほくそ笑む。


 私はもともとはただの、魔素から生まれた魔法生物だった。

 そのうちに存在が固定化して、長くダンジョンで生きる間に知性を得るまでに成長した「魔族」であり、魔王軍幹部の一人よ。

 私の目的は、五百年前に封印された魔王さま――「エンシェントブラックドラゴン」さまを復活させること。


 そのために男爵家の養女になって貴族の立場を得た。そしてユニークスキル【聖なる癒天使猫姫(サークルクラッシャー)】を使い、王子に取り入ってこの国の中枢に侵入したわ。

 私のユニークスキルは、私に好意を持った相手から思考力と魔力を奪い、堕落させる能力。

 この能力を使って、この国の貴族たちの対立を煽り、同時にコツコツと魔王さま復活のための魔力を集めたわ。


 魔王さまの復活に必要な行程は二つ。


 集めた魔力を使って、この大陸に走る魔素の流れ――龍脈に介入すること。龍脈を流れる魔力を利用すれば、こんなものどころじゃない、もっと大きな魔力が扱える。

 龍脈の魔力量は毎年変動するけれど、今年は大きく上振れする、百年に一度の当たり年。各地のダンジョンの魔素濃度が上がっているのはその兆候よ。

 魔王さまを復活させるためには、そのくらい膨大な量の魔力が必要不可欠。


 もう一つは、このお城に侵入して、宝物庫にある「封印の鍵」を手に入れること。

 十分な魔素があるところで封印を破壊すれば、封印を解かれた魔王さまの魂が、周囲の魔素を吸収して肉体を形成し、復活するはずだわ。


 ゼジリア・オルダーを王都から追い出すのも作戦の一環だったわ。

 結界の魔力タンクである彼女がいたら、王都の守りをほころばせるのは難しかったんだもの。


 私は星霜の結界の核に魔力をほんの少しだけ注ぐ。


「(人間の欲望って本当に燃費がいいわ)」


 私はオパールのネックレスを弄ってつぶやく。

 もったいないと思わなくはないけれど、これくらいの出費はすぐに取り返せる。

 多少のコストをかけてでも、今はまだ信用させておかないとね。


「終わりましたぁ~♡」


 私はドアの外にいる人たちに声をかける。いかにも一仕事終えました、っていう雰囲気をかもし出しながら。

 ドアが開いたら、魔力が枯渇してふらふらになっているような演技をしてみせる。


「ごめんなさぁい、いっぱいにはできなかったみたぁい♡ 一晩眠って魔力が回復したら、もう一度注ぎに来てもいいですかぁ?」


 官僚の人は魔力のメーターを確認しているわ。私が注いだ魔力はMPにしておよそ三万ちょっとくらい。高位の魔術師一人分の二〜三倍といったところね。

 これくらい注げば、きっと「明日も頼む」と言われるはずだわ。


「さすがは聖女さま、素晴らしい魔力量だ。ぜひ明日もお願いします!」


 ほらね。


 さぁ、「聖女」「王子の婚約者」という立場でいられるうちに、封印の鍵を入手する算段を立てておかないといけないわ。


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