39 リベンジ! ブルードラゴン戦ですわ!(前編)
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私たちはひとまず確保できた素材を持って、村に戻りました。
夕食がてら、領主の館に集まって、作戦会議をしようということになりました。
メンバーは、私、ヴィオ、ドガンさん、フレルさん、そしてガムルさんです。
ガムルさんはさっそくクラーケン料理を振る舞ってくれました。
メニューはイカスミのリゾット、イカのフリッター、イカと夏野菜のオーブン焼きです。
黒いリゾットは見た目こそびっくりなものでしたが、そのおいしさと言ったら! これが嫌いな人は、そうそういないのではないかと思えるようなお味です。
刻まれたイカの身と、村で栽培しているキノコが食感にアクセントを加えています。
フリッターはサクサクとした衣とムチプリのイカ、香草の風味の華麗なる三連コンボが炸裂します。シトロンの果汁を搾ってもおいしいです。
オーブン焼きはスカンピアの実りがたっぷりの、豪華な料理です。イカの肉汁を吸ったお野菜は、じっくり火を通されて、カブもナスもとろとろに柔らかくなっており、とってもまろやかです。
「この歯ごたえ、たまりませんわぁ〜〜!」
「エールじゃ! エールを持ってこい!!」
あまりのおいしさに、私とドガンさんは大はしゃぎです。
「クラーケンはアンモニア臭がすると言いますが、これはとても上品な味ですね。ニンニクとバジルの香りがよくて、いくらでも食べられそうです!」
「鮮度が高いうちにうまく処理すれば、そう臭みは出ねェよ」
フレルさんにも好評のようで、ガムルさんは鼻が高そうです。
ヴィオがお酒のおかわりを持って来て、話を切り出します。
「私たちはダンジョン第四層で巨大なドラゴンに遭遇しました。そのドラゴンの巣に目的の素材がありまして……」
ヴィオはドラゴンの特徴を話します。
でも、私は「それがどんなモンスターであっても、ガムルさんは食べるとおっしゃるだろうな」と思っていました。
「俺ァそいつを食うぞ」
やっぱり。
「そのドラゴンはおそらくブルードラゴンでしょう。レッサードラゴンより強さは数段上です。しかし――」
フレルさんはみんなを見渡し、イタズラっ子のようにささやきました。
「攻略法があります。宮廷魔術士が使う戦術なのですが、ここにいるメンバーならやれるでしょう」
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準備を整えて、私たちは再びダンジョン第四層「珊瑚の海」へやってきました。
メンバーは私、ヴィオ、ドガンさん、ガムルさん、フレルさんの五人です。
「それでは、手はず通りに」
フレルさんの指示のもと、私たちは配置につきました。
一番手はヴィオです。
ヴィオの役目は、フレルさんが作った「誘導ポーション」を使い、ブルードラゴンを浅い海域まで誘引することです。
この誘導ポーションは、瓶を開封することでモンスターを惹きつける匂いを発し、罠などにひっかけるアイテムです。
今回はドラゴン種に特に効くように調合されています。さらに、水中で徐々に溶けて匂いが広がるよう、瓶の中でゼリー状に固めてあります。つまり、ブルードラゴン特効の誘導ポーションというわけです。
「ヴィオ、一人で大丈夫ですか?」
「お嬢様が一緒にきても足手まといなだけです。お任せください」
言葉に反して、ヴィオの表情は優しいです。
「いざというときのための回復ポーションを持っていきますから大丈夫ですよ。
手はず通りにいけば、打ち合わせ通りにウキで知らせます」
ヴィオが持つウキは、二種類の薬品が詰まっています。そのままでは、この薬品たちは液体と固体ですが、紐を引っ張るとウキの内部で混ざりあい、気体を発生させます。
つまり、紐を引っ張らないうちは水中で携帯でき、引っ張ればすぐに浮かび上がるということです。
私は心配でしたが、みんなが作戦の成功のためによくよく相談し、入念な準備をしています。ヴィオを信じて見送ることにしました。
磯で待つこと数十分後、海面にウキが浮かびました。ヴィオからの合図です。
「次は俺だな!」
ガムルさんは口に肉を放り込みます。それはクラーケンの心臓の肝和え。
ガムルさんのユニークスキル【暴食の探求者】が発動します。
そしてガムルさんは錨を抱えて海へと飛び込んでいきました。
入れ違いにヴィオが磯へとあがってきます。ヴィオはそう大きな傷は負っていないようで、私は安心しました。
「誘導ポーションの威力はすごいですね……。かなり浅いところまで連れてくることができました」
海のほうを見れば、恐ろしいほどに静かです。
計画通りであれば、今頃ガムルさんはドラゴンの口の中のはずです。
●sideガムル
水の中でヴィオを追いかけるブルードラゴンを見て、俺は舌なめずりした。
丸々と太ってうまそうな体をしてやがる。トカゲが魔素によって変異した「魔獣」であるレッサードラゴンとは違って、ドラゴンは純粋な魔素から生まれた「魔法生物」。
生まれて間もない魔法生物は倒せば魔素に還るものだが、あの存在感だ。あいつは間違いなくすでに「存在の固定化」が起きている。つまり、倒しても死体はその場に残るってことだ。
ドラゴンの野郎はヴィオに【水魔法】を撃って狩ろうとしているが、ヴィオにはそう簡単に当たらないようだ。彼女のAGIは水中においてなお健在だな。
ドラゴンの後ろには、誘導ポーションに惹きつけられた他のモンスターどももいる。
すれ違いざま、誘導ポーションの瓶をヴィオから受け取る。ドラゴンの野郎は俺にターゲットを変えた。
ギラギラした金色の目玉が熱視線をぶつけてきて、闘志が滾るぜ。
「(かかってこいよ!)」
ドラゴンは俺に向かって大きく口を開ける。俺はためらいなくその喉の奥に飛び込んだ。
思い切り喉の奥に突っ込んだのがよかったのか、鋭い牙に切り裂かれることは避けられた。
ビビッてドラゴンに主導権を渡さなくてよかったぜ。
俺の手足には、今は円形の吸盤が生えている。これは飛び込む前にクラーケンの肉を食ったおかげだ。タコとは違ってイカの吸盤にはギザギザした「歯」のような角質環がある。この歯で、俺はドラゴンの喉粘膜に食らいついている。
ドラゴンの咆哮が内側から骨を震わせ、今にも噛み砕かれそうなプレッシャー。
そのギリギリの命のやり取りこそエキサイティングっていうもんだ。
ドラゴンの口腔内は当然真っ暗で何も見えず、海水と魔力が混ざり合った独特の重苦しい臭気に満ちている。当然向きもわからねェが、臭ぇニオイがするほうが胃だろうと見当をつける。
ドラゴンは喉に引っかかっている俺を吐き出そうとえずきはじめた。急いで仕事をしちまわねェとな!
俺は多段に返しがついた錨を、ドラゴンの喉奥に突き立てた。
ドラゴンは「ヴォエェェェエエ!」とでかい鳴き声を上げて俺を吐き出す。
しかし、錨は喉の肉にブッ刺さったままだ。
俺は合図のウキの紐を引いた。




