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婚約破棄された不運令嬢ですが、辺境をダンジョンで開拓しますわ! 〜DEX2の不器用令嬢、LUK999とうっかりミスで借金一億を完済します〜  作者: 海底撈月


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37 「珊瑚の海」はロマンティックですわ

 ダンジョンの第四層。はたしてそこは海でした。

 狭いですがビーチがあり、白い砂浜にエメラルド色の波が打ちつけてきます。

 砂浜の横には磯もあります。

 ダンジョンの中は地下であるはずなのに、太陽は南の地方のように明るく暖か。

 ドガンさんが大急ぎで作ってくれた水着があってよかったです。いつもの装備でしたら、暑くて倒れるところでした!


「で、こいつがその水中呼吸ポーションってェわけかい」


「はい。実用化のあかつきには『人魚の泡(マーメイド・バブル)』という名前で商品化するようです」


 結局、水中呼吸ポーションは一つ分しか残りませんでした。ヴィオはそれをガムルさんに渡してしまいました。


「私とお嬢様は、水泳訓練をしますので」


「分かった。俺は磯のほうでコイツの治験をすればいいんだな。素潜りで獲物を狙おう」


 ガムルさんは銛や釣り竿を持って、磯のほうへ行ってしまいました。


「お嬢様は、午前中は私と訓練です。泳ぎが身についたら、午後は採集にしましょう」


「わかりましたわ。お手柔らかにね?」


 そのあと、私は顔を水につけることからはじめました。


「鼻に水が入って痛いですわ〜! ヴィオぉ、これ必要ですの?」


「水中呼吸ポーションの効果が水中で切れてしまったとき、冷静に浮き上がって体勢を立て直すには必要なことです。

 溺れてしまっては元も子もないですよ」


 うっかり足のつかないところにハマってしまった私を、ヴィオは煙の浮き輪で助けます。


 ガムルさんが戻って来るまでヴィオのスパルタは続き、私はコルクの板を持ってバタ足でまっすぐ進めるくらいにはなれました。


「で? 嬢ちゃんはなんとかなりそうかい?」


「最低限は泳げるようになりましたわ」


 ガムルさんは砂浜で、石を組み、簡単な焚き火を作ってくれました。

 そして、焚き火の上に網を置き、そこで貝を炙ったり、火のそばに串に刺したエビや魚を並べます。

 焼き上がった海鮮を、スライスしたパンに乗せ、植物油にかんきつ類の汁とハーブと塩を混ぜたソースをかけます。


「おいしいですわ〜!」


 さっぱりとした酸味が疲労した体に染みわたります。濃いめの塩味が、運動直後にぴったりです!

 ハーブは、食べ慣れたフェンネルでしょうか?


「ガムルさんにしては普通のレシピですね。普通においしいです」


 ヴィオは、食材がゲテモノではないことを訝しんでいます。


「普通の食材に近いモンは普通の食い方がうめぇよ。

 もっと深いところの強いモンスターならそれ専用のレシピがあるが」


 ガムルさんは今日の探索結果(釣果?)を共有してくれます。

 素潜りで比較的浅いところの貝や海藻を採集し、餌となるものを入手したら、それを使って釣りもしてみたそうです。

 人魚の泡は、体表に塗ってもきちんと効果を発揮したそうです。フレルさんにもお知らせしなければいけませんね。


「毒を持つモンスターもときどき見かけた。【治癒魔法】でも間にあうだろうが、各自解毒ポーションを持っておいたほうがいいだろう」


「水中で毒を受けるのは少々厄介ですね。お嬢様、午後はもう少し水泳の練習をして、砂浜の探索をしましょう」


「はぁい……」


 おいしいお昼ご飯を堪能したあと、私はもう一泳ぎしてヘロヘロになりつつ、潮干狩りをしてこの日は帰りました。


 村に戻ると、村の境界を示す防柵の外に、長屋タイプの集合住宅が建てられていました。

 簡単な運動場があり、射撃用の的も設置されています。

 これがドガンさんのおっしゃっていた訓練所でしょうか? と、いうことは、この建物はソレンさんたち村の自警団のおうちなのですね。


 この立地は、今までの村の大きさでは敷地がたりなかったということでしょう。今は、杭を打って横木を渡しただけの簡単な防柵で囲われています。

 資材が積まれているので、おそらく防柵の強化はこれからなさるのでしょう。

 あっという間にここまでできてしまうとは、ドガンさんのユニークスキルはすごいですね。


 さらに翌日。今度は人数分の人魚の泡を持って、私とヴィオとガムルさんは再びダンジョン第四層へとやってきました。

 今日は水中探索です。


 水中メガネごしに見た世界は、どこまでも透き通る海にカラフルな珊瑚とかわいいお魚さんでした。


 水は、光の届く限りきらきらと輝き、まるで巨大な宝石箱のようです。

 疑似太陽の光が水面に揺らぎ、無数の銀の粒となって、海底に敷き詰められた海藻や珊瑚の上で踊っています。


 その珊瑚礁は、この地上で見たどんな庭園よりも豊かで、生命力に満ちています。淡いピンクの枝サンゴ、鮮やかな紅色のテーブルサンゴ、そしてまるで巨大な脳のような形の緑の塊。一つとして同じ形、同じ色はありません。まるで、世界中の画家が集まって、競い合うように色を塗り重ねたようです。


 その間を、手のひらサイズのお魚さんたちが、群れをなして縫っていきます。瑠璃色、金色、真紅。彼らは水中世界を支配する小さな貴族のように優雅に、そして忙しげに泳ぎ回り、こちらの視線に動じる様子もありません。


 水中で初めて呼吸をするという不思議な感覚と、視界いっぱいに広がる幻想的な景色に、心の中の歓声が止まりません。これは訓練の苦労も、うっかり作った泡まみれのポーションの失敗も、すべてを帳消しにしてお釣りがくるほどの「至宝」でした。


 ヴィオとガムルさんと、ハンドサインで意思疎通をします。水中では会話はできませんので、私たちは砂浜で十分な打ちあわせをしていました。


 私たちの作戦はこうです。

 私とヴィオで採集を行い、ガムルさんは寄ってきたモンスターと戦闘。ガムルさん一人で対処しきれない量の敵が来たら、ヴィオが加勢。それでも戦力不足であれば、ガムルさんとヴィオがしんがりを務めて、私は素材を持って一旦撤退。

 まずは目的の素材のうち、採集で得られる「発光珊瑚」を確保してしまうため、このような方針となりました。


 目を凝らして珊瑚の森の中から光るものを探すと、色とりどりのぶよぶよしたものの中にはないようです。方針を変えて石や砂にまじった白くて硬い枝状の珊瑚のほうを探しますと、いくつかほのかに光っているものが混じっていました。

 私は光っている珊瑚を拾い、網の袋に入れていきます。

 それ以外のウニや貝、海藻は別の袋に入れて分別します。


 その間に、ガムルさんは五十センチほどのサメと銛で戦っています。


 私とヴィオがそれぞれ袋いっぱいの発光珊瑚を確保しましたので、私たちは一度浜に戻って荷物の整理をいたしました。

 休憩を挟んで、次はクラーケンを探しに行こうという話になりました。


「海底は斜面になっていて、遠くに行くほど深くなる。ある程度のところで傾斜は途端に急になって、陽の光が届かなくなる。

 クラーケンってのはそういう暗い深い海にいる生き物だ」


 ガムルさんがおっしゃいます。

 ダンジョンは私に次々と新しい景色を見せてくれます。

 暗い海とはどんな景色なのでしょう? 楽しみですわ。


「深い海は水圧が高くなる。気をつけることはたくさんあるぞ。まず急浮上は厳禁だ」


 ガムルさんは私たちに深い海での活動をするときに、気をつけるべきことを教えてくれました。


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