35 新しい事業ですわ!
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ドガンさんのご住居は、ダンジョン入り口そばの半地下のおうちです。
鉱人族の体には地下暮らしが最適なのだそうですが、鍛冶場は酸欠を防止するために地上に出しているそうです。
「なんじゃ。また引っ越し希望者か?」
「ええ。王都からいらした騎士の方で、若い男性の単身者ですわ」
「騎士。いいとこの坊ちゃんか? ふむ、嬢ちゃん。わしに考えがあるんじゃが」
「なんですの?」
「『スカンピアリゾート地化計画』じゃ! こいつは儲かるぞ!!」
ドガンさんがおっしゃるには、こうです。
今の宿はほぼ満室状態。お客様は増加傾向にあります。新しく宿屋を建築するのは不可避。
そこで、この新しい宿を、「富裕層、貴族向け」の高級なものにしてはどうかと。
「いいですわね、それ! 王都は暑いですが、スカンピアは夏でも涼しい気候ですわ。避暑地としてアピールすれば、きっと人気が出ますわ!!」
でも、私はふと気になりました。
「ドガンさんにこんなにたくさんのお仕事をお願いしてしまって、お疲れになったりはしませんの?」
「かかかっ! わしは働くのも儲けるのも大好きなんじゃ!! ここに来てからウハウハで笑いが止まらんわ!
このペースなら、【上級建築lvmax】と【上級鍛冶lvMax】の二冠達成ももうじきじゃ。なかなか熟練度が上がらんで苦労しとったんじゃ」
「そ、そうですの? ドガンさんが無理をなさってなければいいんですけど……」
「なぁに、幸い村人どもはみんなマッチョじゃ。資材の下ごしらえと運搬を村人に任せて、わしは建築に集中すれば、このくらいの仕事はお茶の子さいさいじゃ。
そうじゃのう、騎士の坊主が言うように、そろそろ自警を考えるのも必要じゃ。ついでに訓練所も作るかのう!」
ドガンさんはそうおっしゃいますが、ドガンさんに【社畜】スキルが生えでもしたら、私の心は罪悪感で潰れてしまいますわ!
やる気を持って動いてくれているのはありがたいですが、彼女がちゃんと休んでいるかは、引き続き気をつけて見ていかねばなりませんね。
「せっかくじゃから、インテリアにダンジョン素材を使って『スカンピアらしさ』を感じさせよう。そうじゃな……」
ドガンさんはいくつかの素材の名前と数をさらさらと書きつけます。
「照明は発光珊瑚を使った、おしゃれな間接照明にしよう。
ソファはクラーケンの革じゃ、あれはモチモチして独特の座り心地がするんじゃ。やみつきになるぞ。
そして空調用に万年氷! 高純度の水の魔力を宿した水晶じゃ。これを部屋に置いておくと夏の昼間もちょうどよく冷える」
そして、最後にダンジョンの簡単な見取り図を書き、目的地をマルで囲みます。
「これはみなここ……第四層で採れる可能性が高い素材じゃ。以前解析したとき、ここは海っぽい感触じゃった。
わしは建築に集中したいから採りには行けん。嬢ちゃんに頼むぞ。ヴィオとトカゲあたりを連れて行けば戦力として十分じゃろ」
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村に戻ると、フレルさんの畑の前を通りかかりました。
そうですわ。ドガンさんの計画をフレルさんにも相談しましょう。宿泊施設にはアメニティも必要ですわ。
私はフレルさんのところに寄っていくことにしました。
私がフレルさんを見つけたとき、ヴィオとソレンさんもいらっしゃいました。
「薬師さん、ありがとう。あのスリムポーションで命を助けられた同僚は、俺の親友でな。あいつと一緒に帰還できたことをマジで感謝している」
ソレンさんはものすごくいい話をしていそうですのに、フレルさんは食い気味に言葉を被せます。
「……! あなた、ポプリかなにかお持ちではないですか?」
「あ、ああ……。ポケットにサシェをいれているが、これがどうした?」
ソレンさんは小さな袋を取り出します。フレルさんはソレンさんの手をガッとつかみ、手ごとその袋の匂いを嗅いでいます。
「この香りは……オレンシア地方の北側、それも水はけのいい斜面で春の三週目に摘まれた『陽だまり草』ですね!?
しかも、魔力を一切使わず、手揉みで丁寧に乾燥させている……素晴らしい愛情を感じます!」
「なっ……!? なぜ場所や時期までわかるんだ。……あぁ、あんたの言う通りだ。これは故郷のオフクロが、俺が騎士団に入るときに持たせてくれたものなんだよ」
ソレンさん、ちょっと引いてますね。
「植物さんたちが教えてくれるんですよ。あぁ、この子は大切にされていて幸せですねぇ……!
ぜひ、この香りを再現した安眠ポーションの研究に協力してください!」
「言ったでしょう、ドン引きしないでくださいと。……でも、彼の腕と鼻だけは本物です」
ヴィオが呆れたように言います。
「お嬢様、こんにちは。いやあ、ポーションの使用者から直接感想を聞けるのは嬉しいですね」
いや、さっきの会話のポーションの使用感の部分、聞き流してましたよね? とツッコミたい気持ちを抑え、私は要件を伝えます。
「じつはかくかくしかじかで。高級路線の石鹸や基礎化粧品を調合するとしたら、どんな素材が必要ですの?」
「リゾートですか、なるほど……。
海に素材を採りに行くのでしたら、海藻が第一候補ですねぇ。質のいい石鹸と言えば、植物油と海藻からできるものが定番ですよ。
あと、真珠なんかも採れたらいいですよね。宝飾品として使われるのが一般的ですが、形や質の悪いものは粉末にして洗顔料にするということもあるそうですよ。貴族の方をおもてなしするなら、そういう特別なものというのもありかと」
真珠! それはものすごくスペシャルなおもてなしになりそうな予感がしますわ。
「ありがとう。参考になりますわ」
「次の探索は海ですか。では、まずは水泳の訓練からですね」
ヴィオが言いました。
「えぇ? 必要ですの?」
「……泳げるんですか?」
残念ながら、私は泳げません。
今回のダンジョン探索は、いつもより準備が大変になりそうです
「ご出発までに水中呼吸ポーションを準備しましょう」
フレルさんは苦笑しながら提案してくれました。
フレルさんと別れたあと、ヴィオと二人で村長さんのところへ行きますと、ガムルさんが食材を配達に来ていました。
ガムルさんにもドガンさんの計画を説明し、ダンジョンへの同行をお願いしました。
「海か。海にはうめぇもんがいっぱいあるよな。いいぜ、俺も行く」
「王都は内陸でしたから、海のものはあまり食べたことがございませんの。スカンピアも、釣りは難しいですし……。
どんなものがおいしいのですか?」
「魚はもちろん、タコも貝もエビ・カニもうめぇよ。俺のイチオシはホヤだな。ナマコもいける」
私はそれらがどういうものかはわかりませんでしたが、ヴィオはなんだか顔をしかめています。
「釣りをやりてぇなァ、ルアーでも作っておこうかな」
ガムルさんは好意的な反応ですね。海のこともよくご存じのようですから、頼りになりそうです。
その日は私はヴィオが作った晩ご飯をいただき、早めに就寝することにしました。




