33 オークションは波乱の予感!
●sideアルフォンス
最高級オークションハウス「深淵の瞳」大広場。
今夜行われるオークションを目当てに、王都の流行に敏感な貴族、商主、そして騎士団の重鎮たちが集っている。
今はそのプレ・パーティー。立食のテーブルに斬新で豪華な料理が並べられている。
「これぞ聖女の奇跡を具現化したような味だ!」
美食家と呼ばれる紳士たちが、カブのマリネを褒めそやしている。
あれは最近世間をにぎわせている「聖女カブ」だ。
また別のグループは、ジビエのコンフィに舌つづみを打っている。
「濃厚な滋味を持ちながら、舌で潰すとホロホロとほぐれる。こんなに柔らかく、かつ力強い肉は食べたことがない」
「この香辛料の鮮烈さといったら。香りが鼻を抜けるようだ! 王宮で出されるものにも引けを取りませんな」
会場の隅ではシェフが料理を実演している。ジュワァァ……という音と、肉と香辛料が混ざった食欲をそそる匂い。
俺とて、大きな肉は嫌いではない。給仕から焼きたてのステーキを一切れ受け取る。
焼き加減はミディアムレア。塩が肉の内部までしっかりとしみこんでいて、噛むたびに肉汁があふれてくる。香辛料は肉の臭みだけを消し去り、過度に主張はしない。
肉そのもののクオリティだけで戦うぞという作り手の誇り高さがうかがえる一皿だ。
悪くない。俺は心の中でシェフの腕を認めてやる。
「今夜のお食事はなかなかいいですわね、殿下ぁ」
かたわらにいる愛しいリリアがにっこりと微笑む。
極上の女が、俺の贈ったドレスをまとっている。これ以上に気分が満たされることがあるだろうか?
リリアはこの場にいるどの女よりも美しく、可憐だ。ドレスも、アクセサリーも、靴も、すべてが流行の最先端だ。いや、むしろ、リリアこそが王都の流行を作っているのだ。
かわいらしい口を開けて、ぱくりとフォークをくわえるリリアを、会場中の男が見つめている。俺は誇らしい気持ちになる。
「あら、私の魔力と共鳴しているみたい♡」
聖女カブはリリアの口にも合うようだ。
「リリア、君にふさわしい料理だ。やはり君が聖女として認められはじめてから、この国にはいい品が集まるようになったな」
やはりリリアは俺にとって幸運の女神だ。彼女と婚約をしてからすべてがいい方向に動いている。
「このような品、どこから出てくるのかしら?」
「出所はオルダー領ではないかという噂がありますわよ。大量の魔力を浴びせて育てることで、このようにおいしくなるだけでなく、魔力をじんわり回復させる効果を付与するのですって」
貴婦人たちが聞き捨てならない噂をしているのが、耳に飛び込んできた。
あのみすぼらしい元・婚約者の実家の領地が、このようなうまいものを作れるわけがない。
「……ハッ! そんなわけないだろう。あそこは『死の土地』だぞ」
「そうですわぁ♡ きっと北方の別の土地ですわ♡」
聖女カブなどという名前なのだ。きっとリリアのファンが、彼女をたたえるために品種改良したに違いない。
やがて、オークションの準備が整ったとして、会場を移動するようにと案内が入る。
「いこう、リリア。欲しいものはなんでも競り落としてあげよう」
俺には元・婚約者という金づるがいるのだ。金は腐るほどある。
俺はリリアをエスコートし、衆人の注目を浴びながらその場をあとにする。
ここのオークションは価値の低い品からはじまり、徐々に希少度や人気度が上がっていく。どの品に予算を突っ込むかの駆け引きが胸を躍らせるものだ。
しかし今夜のオークションは、うまい料理で気分をよくした者が多いのか、序盤から激しい競りが行われている。
俺はカタログを確認した。目当ての品は、この次に出品されるはず。
「……二百ゴールド! こちらの品はナリキン侯爵のご落札です!
さて、次の商品は、『謎の行商人クロウリーの秘蔵コレクション』より、人跡未踏の聖域から得られた至宝! 白檀木人の原木です!
まずは五十ゴールドから!!」
その品が登場したとたん、会場全体に、魂を浄化するような神々しい香りが漂う。
よし、最初の狙いはこれだ。本来は彫刻して神像にするような品だが、リリアのための香水にするのだ。すでに、心材の一番いいところだけをを削り出して蒸留するようにと、調香師を手配している。
「六十!」
「七十五!!」
「なんの、百!!」
次々と手が挙がる。俺は彼らを一笑に付し、こう宣言する。
「五百だ!」
ざわ……ざわ……。
ふん、皆あっけにとられているな。気分がいい。
「五百! もう他におられませんか? では、こちらの商品は、アルフォンス殿下の落札です!!」
「でんかぁ~~♡ かっこいいですぅ♡」
リリアも俺に惚れ直したようだな。
そのとき、拍手が途切れた一瞬の静寂に、ぽつりと低い声が響く。
「その金があればポーションを買えるのに……」
不意に、不愉快な声が聞こえ、俺はその方向をギロリとにらむ。発言者は壁際に立つ騎士の一人のようだ。思ったより声が響いて慌てているようだな。このことはあとで叱責させよう。
ポーションなど、リリアの癒しがあれば必要ないではないか。
このあともオークションは順調に進み、いよいよ最後の商品だ。
「さぁ! いよいよ今夜の大目玉!! 『グリーンレッサードラゴンの革』の登場です!」
鈍い緑色の光沢を放つ、強固な革。ステージの照明に照らされて、エメラルドのように妖しく光っている。
ひそ、ひそ。
うむ? あそこで話しているのは、第八騎士団団長と第十二騎士団団長だな。
二人とも、下位貴族の出身で、現場のたたき上げと言って相違のないような、泥臭い人間だ。
「二百ゴールドからのスタートです! さぁ、どうぞ!!」
「二百五十!」
「二百七十!!」
「四百!」
第八騎士団団長の野太い声。彼もこの革が目当てなのか。
しかし、俺は負けない。
「五百!」
ざわ……。立て続けに大きく値上げしたからか、会場がざわついているな。
第八、第十二両騎士団長の悔しそうな顔といったら。
彼らは幾度か目配せをし、そして。
「ぐっ……! 五百五十!!」
第八騎士団団長が絞り出す。
ふむ、食らいついてくるとは面白い。
そんなに拳を握りしめても、振り下ろす先などないというのに。
そのあとは、俺と第八騎士団長の競りあいとなり……結果は。
「千二百ゴールド! 落札者はアルフォンス殿下です!!」
俺に集まる羨望と賞賛、リリアの熱っぽい視線。それに騎士団長どもの渋面! そんなに肩を落とすほどに悔しいのか。
護衛騎士どもも、騎士団長と俺を交互に見ているな。上司の面子を潰されたのが業腹と見える。
そのすべてが俺に優越感を与えた。
「殿下ってやっぱり素敵♡ だぁいすき♡」
皆に見守られて、俺はリリアにハグをする。
「このドラゴンの革は、聖女さまに贈られるのですね! さすがは聖女さま、これで武具をあつらえて、前線を支えてくださるおつもりですか?」
司会者が質問してくる。これは、いわゆる勝者へのインタビューというやつだな。
「えぇ……? 武具なんて物騒な。このきれいな色、私の新しいドレスにあわせるおしゃれでかわいいバッグにするのが一番素敵ですわ」
会場がどよめく。
「さすがリリアさまは平和を愛するお方だ。戦うための道具なんかより、文化を重視しておられるのですな」
「おしゃれな聖女さま、素敵!」
リリアを賞賛する声と同時に、リリアを非難する声も聞こえる。
「希少なドラゴンの革をバッグだと? 真価がわかっているのか」
「鎧……いや、せめて小盾にでもできれば、どれだけ前線の助けになるか」
なるほど、騎士団長たちが食らいついていたのは、前線の騎士にドラゴン装備を配備するためだったのか。
しかし、おあいにくさまだ。そこらの騎士よりも、リリアのほうがよっぽど尊いのだ。諦めてもらうしかない。
「そんなに頑丈なら、バッグとお揃いの靴にするのにもいいですわね。あ、余った分でわんちゃんのお洋服も作れるかしら?」
リリアは無邪気にはしゃいでいる。
なんて愛らしいのだろう。
周りの者は、なんだか信じられないものを見ているような顔をしているな。
給仕や護衛の騎士までが固まっているぞ。
きっと、リリアの人知をこえた清らかさに圧倒されているのだろう。
●Sideクロウリー
私は下働きに変装し、オークションの推移を見守っておりました。
目的は、浅ましい欲望と薄っぺらいプライドが織りなす喜劇を特等席で鑑賞することです。
ターゲットはその目論見に見事にハマってくれたようですね。
「クックック……。
お嬢様、返済金は利息をつけて、最高の形で回収させていただきましたよ」
ここまで読んでくださってありがとう!
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