32 密偵と小鳥のさえずり
●side密偵
俺は第九王子が差し向けた密偵。コードネームは「影狼」。
王子の元・婚約者であるゼジリア・オルダーの周辺を探るのが今の任務だ。
彼女が極貧の領地で惨めに暮らしている様子を報告しろと言われている。
決して、王子のことを「元カノのことが気になるなんて女々しい男だな」だなんて思ってはいない。決して、だ。
この領都(笑)は、めちゃくちゃ寂れている。
村人も領主も「村」と呼んでいる。自虐か?
冬の間はめちゃくちゃ辛かった。寒いのなんのって。屋外での張り込みで凍死するかと思った。
畑もろくになく、ダンジョンで狩りをして、少ない飯を分けあって食いつないでいる。
こんな惨めな土地があるのかとせせら笑ったもんだ。
ようやく暖かくなってきたと思ったころ。それが、なんだ。
畑ができて、祭りなんかやりだしてよ。貧乏だったんじゃないのか、お前ら?
今日はなんか知らんが、俺が来てから二回目の祭りだ。
竜人が肉を焼いている。あれは「ガムル」って名の料理人だったか?
巨大な斧を包丁代わりに振るって、なんかでっけぇ肉を捌いてたと思ったら、ドワーフの小娘が作った作った巨大な鉄板とかまどで料理をしはじめた。
……くっ。なんて匂いだ。
腹が、俺の胃が騒がしい。
「あんたは他の村から来た人かい? 今、炊き出しをやってるんだ。あんたも食いな!」
村人が俺にスープの椀をおしつけてきた。俺は反射的にそれを受け取る。
「お、おぅ、あんがとよ」
俺は密偵だ。馴れあうつもりはない。ぐっ……飯を同じくしたらほだされてしまう。
しかし、怪しまれてこれ以上任務が続けられなくなっても、元も子もないよな。
食うのも任務のうちだ。
俺はスープに口をつけた。
「……なんだこれは。うまい。柔らかい。あったかい……」
王都の高級店で食べたどんな料理よりも、このドブ臭い村のスープのほうが、五臓六腑に染み渡るのは何故だ……?
その夜、俺は王都に報告書を送った。
「監視を継続する必要あり」
それにしても……ここの村人、こんなマッチョばっかりだったかな?
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【朗報】新薬登場でポーション不足解消!?
1:名無しの騎士
最近、クロウリー商店から出た新種のポーション(丸薬タイプ)がすごすぎる件。
あれ一粒で、これまで一時間かかってた重傷が数分で完治したぞ。
おかげで前線の欠員がかなり減った。
5:名無しの衛生兵
>>1
同意。あの「スリムポーション」も携帯性に優れてて、戦場では神レベルの使い勝手だ。
従来品より少ない量で同等以上の効果が出るから、騎士団の在庫状況もかなり改善されたらしい。
12:名無しの魔術師
でも油断は禁物だぞ。
各地のダンジョンで観測される魔素濃度は依然として上昇し続けている。
魔物の強化スピードにポーションの供給が追いついているだけで、根本的なスタンピードの懸念は消えていない。
20:王都の華
ポーションの話もいいけれど、リリア様の最近の贅沢ぶり、少し目に余りませんこと? パレードのたびに新調されるあの宝飾品、一体どこからお金が出ているのかしら。
21:名無しの令嬢
>>20
スレ違い。でも気になる話題。
25:名無しの貴族令息
>>20>>21
噂じゃ、アルフォンス殿下に「元婚約者の女」から巨額の借金返済があったらしいぞ。
金貨1,500枚とかいう、ありえない額だとか。
殿下は「あいつが必死に泥をすすって稼いだ金だ」って吹聴して、リリア様の衣装代に突っ込んでるらしい。
27:名無しの騎士
>>25
あの卒業記念パーティーで初代国王の像を壊した件の賠償?
マジで払ってんの? 冗談みたいな請求額だっただろ。
30:壁の花子
……その聖女様、最近あまり良くない噂も聞くわよね。
婚約者のいる男性ばかりを「癒やし」と称して誘惑しているとか。
人の持ち物を欲しがる、強欲な性格なんじゃないかってささやかれはじめてるわよ。
35:名無しの騎士
>>30
前線の騎士の間でも評判悪いぞ。
「俺たちの命を守っているのはスカンピア産の新薬で、聖女の祈りじゃない」ってな。
40:グルメな令嬢
そんなドロドロした話より、クロウリー商店の新作野菜「聖女カブ」を食べた方はいらっしゃいます?
あれ、信じられないくらい甘くて瑞々しくて、食べると魔力が回復するような気がするんですの!
45:名無しの魔術師
>>40
食べたぞ。あの純白の美しさと、芯まで通った清らかな魔力……。
皮肉なもんだよな、「聖女カブ」の方が、王都にいる「自称・聖女」よりもよっぽど清らかで、人々を救ってるんだから。
50:王室ウォッチャー
>>40>>45
スレ違いの話はやめよう。
しかし「聖女カブ」と「聖女リリア」。名前は同じでも、片方は口にすれば幸福になり、片方は付き合えば破滅する。クロウリー氏、なかなかキレのあるネーミングをするよな。




