30 戦利品のお値段は?(後編)
次はアニーさんの番です。
「これは村で作った野菜です」
「『死の土地』と呼ばれるオルダー領で採れた野菜、ですか? ふむ、興味がありますね」
アニーさんは、竹のざるにいくつもの野菜を一つずつ盛ったものを、テーブルに置きました。
「ホースラディッシュ、パースニップ。それとカブです。そのままと、ピクルスにしたものをご用意しています」
これらは、私の魔力で異常成長したもの。どれも普通の品より二回りも大きく、色味が違うものもあります。クロウリーさんは一つ一つ野菜を手に取って確かめます。中でも、大きなカブをお気に召したようでした。
「ほうほう。この穢れなき純白! ブランド名がまだないのなら、『聖女カブ』とでも名付けて流通させましょうか。いい皮肉になるでしょう」
聖女に婚約者を取られた私が作った野菜が『聖女カブ』!
そして、かの聖女のお腹が相当黒いということを、ここにいる全員が知っています。クロウリーさんはなかなかブラックなジョークのセンスをしていますね。
アニーさんは、苦笑しながら勧めます。
「この野菜たちは、そのサンドイッチにも使っています。ぜひ味を確かめてください」
クロウリーさんはペストマスクをずらし、サンドイッチを一口召し上がります。そして、ごほごほとむせます。
「失礼。これは……ホースラディッシュですか? このように鮮烈な辛さのものには、今まで出会ったことがありません。これは名だたる食通たちが競って買ってくれるでしょう」
アニーさんは、照れたように笑います。
次は、ドガンさんがダンジョン素材を披露する番です。
「いつもの肉と毛皮はざっくりでいいじゃろ。新ネタの一発目は、こいつじゃ」
ドガンさんは大きな包みを広げました。そこにはサンダルトレントの原木がまるのままありました。そばには、麻袋にまとめて、小枝などの端材も置いてあります。
「素晴らしい……! このサンダルトレントの香りは、嗅ぐだけで魂が浄化されそうだ。……お嬢様、これらは私が直接買い取ることもできますが、一部はオークションへ流すことをお勧めします」
「オークション、ですの?」
クロウリーさんがおっしゃるには、現在、王都ではリリア嬢と、彼女につられた支持者たちの贅沢のために、高級品の需要が爆発しており、最高値で売り抜ける絶好の機会であるそうです。
「――想像してみてください。ポーション不足への批判で苛立ち、癒やしに飢えたアルフォンス殿下やリリア嬢が、あなたがドジを踏んで手に入れたこの香木を、目の色を変えて競り落とす……。これ以上の『歪な娯楽』は、他所ではお目にかかれませんよ」
クロウリーさんは、くっくっと低く笑います。私も、それは少し胸がすっとするかもしれないわと思いました。それに、普通に売るより高く売れるのなら、それにこしたことはありません。私はその提案を了承しました。
そしてダンジョンの第二~三層の素材を、次々と見積もりに出します。
「……で、ドラゴンの素材じゃが、今出せるのはこれだけじゃ。して、相談なのじゃが、武具に加工したものを買い取ってもらうことはできるかのう?」
ドガンさんは大きな木箱にドラゴンの素材を詰めたものを、クロウリーさんに見せます。
箱にはそれぞれ部位別に分類されたドラゴンの素材が詰められています。
その中身は、非常に硬い鱗、牙、爪、そして魔力伝導率の高い骨などです。
「……ここまでは、先にいただいた目録どおりのものですね。
武具に関しては、クオリティによります。防具はサイズがありますから、オーダーメイドになるでしょうね。武器ならば、人気のある規格というものがあります。出来がよければ、素材のままよりも価値が上がることも十分ありますね」
ドガンさんは「それはそうじゃの」とうなずき、懐から一本の煙管を取り出します。
「こいつがサンプルじゃ。ヴィオのために作ったものじゃがの」
「私に、ですか?」
私はドガンさんがそんなことを考えているなんて初耳でした。ヴィオも知らなかったようですね。ドガンさんに渡したドラゴンの素材は、彼女の取り分と考えていましたから。
「銘は『紫龍の琥珀煙管』。このヴィオがいつも使っておるものと似たようなものじゃが、煙にドラゴン由来の【恐怖属性】を付与することができる」
「ほう……。ドラゴンの骨に、香木の心材をあしらったパイプですか。
ドガンさん、あなたの腕も相当だ。ヴィオ様、そのパイプから吐き出される煙は、もはや単なる薬草ではありません。ドラゴンの威圧を纏った『死の霧』……。領主様の影に潜む騎士に、相応しい装備です」
ドガンさんの作品はシンプルなシルエットながらも瀟洒で、琥珀色と暗い紫のシックな色合いです。花の咲く蔓の図案が彫刻されているところは、クールに見えて、実はかわいいものが好きなヴィオの好みに合わせたものでしょう。クロウリーさんにも大絶賛を受けましたね。
クロウリーさんはドガンさんに煙管を返し、ドガンさんはそれをヴィオに渡します。
「……悪くありませんね」
煙管を受け取ったヴィオは、嬉しそうに頬を染めていました。
「このクオリティの武具であれば、素材のままよりも価値が上がることは確実。では、その分の買い取りは、完成したころにまたお伺いしてということでよろしいですか?」
「構わん。魂を込めて作るからの! いい買い手のところに届けてくれよ」
「あなたのような名工の作品を扱えるとは商人冥利に尽きます」
こうして今回の取引は、話がまとまったのでした。




