03 ハンマー幼女(?)ドガン登場!
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私は手足をバタつかせながら、真っ逆さまに穴の底へと落ちていきます。
地面が迫ります。もう駄目です。ぺちゃんこですわ!
私はギュッと目を瞑り、衝撃に備えました。
ボヨォォォォォンッ!!
「……へ?」
予想していた「グシャッ」という音ではなく、何とも間の抜けた音が響きました。
恐る恐る目を開けますと、私の体は弾力のある巨大なキノコ(?)の上で、トランポリンのように弾んでいました。どうやら、ダンジョン化の影響で異常成長した植物が、クッションになってくれたようです。これも私の【災い転じて福と為す】のおかげでしょうか?
「……ふぅ。着地成功ですね、お嬢様」
「ひゃっ!?」
隣を見ますと、ヴィオが音もなくスタッと着地していました。
彼女は乱れた前髪を直しながら、周囲を見渡します。
「これは……驚きました。ただの穴だった場所が、地下迷宮の入り口に変貌しています。お嬢様の与太話が、こんな形で実現するなんて」
ヴィオの視線を追って、私も息を呑みました。
そこは、幻想的な光景でした。
岩壁には青白い燐光を放つ苔が茂り、地面からは見たこともない色彩の植物が生い茂っています。そして空気中には、肌がピリピリするほど濃密な魔素が充満していました。
私が落とした「ドラゴンの魔石」が核となり、この土地の魔素を一気に活性化させてしまったのです。
「す、すごいですわ……。ここが、私たちの領地?」
「ええ。ですが感心している場合ではありません。魔物の気配も濃厚です。早く地上に戻るルートを確保しないと……」
ヴィオが警戒を強め、懐から愛用の煙草を取り出した、そのときでした。
「ぬぉおおおおお!! なんじゃなんじゃ!! わしの静かな隠れ家で、何ごとじゃああああ!!」
ズガンッ!! という轟音とともに、近くの岩壁が内側から砕け散りました。
土煙の中から現れたのは、身の丈ほどの巨大なハンマーを担いだ、小さな女の子……いえ、ドワーフの女性でした。
見た目は愛らしい少女ですが、その眉間には深い皺が刻まれ、職人のようなニッカポッカを履いています。
「ひぃっ! ま、魔物!? いえ、人型ですわ!」
「……鉱人族? なぜこんな辺境の地下に」
ヴィオが私を庇うように前に出ます。
謎のドワーフ少女は、ハンマーを肩に担ぎ直し、私たちを睨みつけました。
「ああん? 魔物じゃと? 失礼な小娘どもじゃな! わしはドガン! しがない流れの建築士じゃい! ……む?」
ドガンと名乗ったその少女は、私の顔をじっと凝視しました。そして、鼻をひくひくと動かします。
「お主……その間抜けな面構え、そして滲み出る魔力の質……。まさか、オルダー伯爵の娘か?」
「えっ? お父様をご存じなのですか?」
「知るも何も! わしが昔、食いっぱぐれていたときにパンを恵んでくれたのが、先代のオルダー伯爵じゃ! その節の恩は忘れとらん!」
なんと!
こんな地下の底で、亡き父の知り合いに会えるなんて!
私は感動して、ドガンさんの手を取ろうと駆け寄りました。
「まあ! お父様のご友人でしたのね! はじめまして、娘のゼジィですわ!」
「おお、寄るな寄るな! 危ないぞ!」
ドガンさんが制止するのも聞かず、私は勢いよく足を踏み出し――そして、足元のツルに引っかかりました。
「あだっ!」
ズデン! と盛大に転倒。
その拍子に、私の手がドガンさんの大事そうな道具箱を蹴り飛ばしてしまいました。
ガシャガシャガシャーン!!
中から大量の釘や、見たこともない工具がばら撒かれます。
「しまっ……! ご、ごめんなさいましーー!!」
「な、なんじゃとぉぉぉ!? わしの商売道具がぁぁ!!」
ドガンさんが顔を真っ赤にして怒鳴ります。
ああ、やってしまいました。再会して三秒で恩人の友人を怒らせてしまうなんて!
しかし、散らばった道具を見たドガンさんの目が、急に見開かれました。
「……ん? 待てよ。こ、これは……」
ドガンさんは震える手で、私が蹴り飛ばしたことによって偶然「岩盤に突き刺さった釘」を見つめました。その釘は、硬い岩をバターのように貫き、奥からキラキラと輝く鉱石を露出させていたのです。
「ミスリル……!? いや、それ以上の純度を持つ『オリハルコン』の原石!? こんな浅い岩盤に眠っておったのか!?」
ドガンさんは私を振り返り、目を輝かせました。
「嬢ちゃん、お主……まさか、ここに鉱脈があるのを知ってて、わざと転んだのか!?」
「えっ? あ、いえ、その……」
「なんと恐ろしい鑑定眼じゃ……! ただのドジっ子かと思えば、とんだ『目利き』じゃったわ!」
ええと、完全にただのドジなのですが。
困惑する私をよそに、ドガンさんはハンマーを振り上げ、ニヤリと笑いました。
「気に入った! 恩人の娘で、しかもこれほどの素材を見つける才能があるとはな。……おい、そこの銀髪の姉ちゃん!」
「私ですか?」
「この原石、わしが加工してやろうか? このまま放置するには惜しい。わしの腕なら、どのような英雄にだってお似合いの武器に仕立ててやるぞ!」
ドガンさんはなぜヴィオに言うのでしょうか。きっと、武器を振るうなら私ではなくヴィオだろうと思ったのでしょう。心当たりがありすぎる私は、黙って二人のやりとりを見守ることにしました。
「お申し出はありがたいのですが、私たちには先に済ませなければいけない用事があるのです」
ヴィオはこれまでの経緯をドガンさんに説明します。
私たちは転居の最中で、腰を落ち着けることが先で、他のことは後であると。
すると、ドガンさんは、スカンピアまで同行してくれると言いました。
「さあ、地上へ戻るぞ! わしが掘った抜け道を使えばすぐじゃ」
ドガンさんはハンマーを軽々と担ぐと、迷路のようなダンジョンの横穴へと私たちを案内してくれました。
道中、ところどころ急な斜面がございました。ドガンさんとヴィオは軽々と進んでいきますが、私は上手く上ることができません。
「ま、待ってくださいまし~~っ」
「どうした、嬢ちゃん」
「お恥ずかしながら、私は体力がないのですわ……」
「ひ弱な嬢ちゃんじゃな。ほれ、どいてみぃ」
私が打ち明けると、ドガンさんはハンマーを振り回します。ガンッ! ガンッ! という轟音とともに地面が削れます。何が起きているのかと見守っておりましたら、なんということでしょう! あっという間に斜面は階段へと変わっていました。
「歩きやすいですわ! なんという匠の技でしょう!」
「かかかっ! わしのユニークスキルは【超速加工】。資材さえあれば、加工や建築を高速で行えるスキルじゃ。これくらいのことは朝飯前じゃ」
私はドガンさんを褒め称えます。するとドガンさんはコホンと咳払いし、言葉を続けました。
「……ところで、先ほどのオリハルコンの原石じゃが」
「加工はぜひドガンさんにお任せしたいですわ」
ユニークスキルのことを考えれば、ドガンさんほどあの原石を有効活用できる人材はいないでしょう。あの神業を見た後では、私には他の選択肢など考えられません。
私が答えると、ドガンさんは原石をホクホク顔で懐にしまいます。ドガンさんは建築士とおっしゃいましたが、ドワーフ族は鍛冶をよくすると本で読みました。あの喜びようから推察するに、彼女もまた鍛冶が好きなのでしょう。
「それにしても、まさかオルダーの娘が来るとはな。……覚悟しておけよ、嬢ちゃん。今のスカンピアは、地獄の一歩手前じゃ」
ドガンさんの背中越しに投げかけられた言葉の意味を、私は数分後に理解することになりました。




