29 戦利品のお値段は?(前編)
●
「【回復】、【回復】!!」
私は傷ついた皆さまに【治癒魔法】をかけて回ります。大切なお友達がこんなにひどいけがをするなんて……!
「お嬢様、もう全快しています。というか、一回で十分でした」
「あばらが数本逝ったと思ったが……。前より凝りが取れとるまである」
ドガンさんが腕を回します。
「すごい威力です。さすがろくじゅうにまん……」
フレルさんが私を「信じられない」という顔で見ています。フレルさんにだけは変な人扱いされたくないです。なんだか癪です。
「それは置いといてよォ! ドラゴン肉だぜドラゴン肉! 感無量だ……。まずは刺身で味見してぇ」
ガルムさんはドラゴンの死体をうっとりと眺めています。
「内臓も全て持ち帰ってください。血もなるべく回収して!」
「わしは鱗と革、あと牙と爪と骨が欲しい!」
フレルさん、ドガンさんもまたテンション高くはしゃいでいます。
それぞれ専門が違うので、欲しい部位は被っていないようですね。
「とりあえず、分配は村に戻ってからにしましょう。ぶつ切りにすれば魔法鞄に入りますか?」
「待って! 血が出ちゃいます!」
ヴィオがドラゴンをバラバラにしようとするのを、フレルさんがすがって止めます。ヴィオは「うわぁ……」という顔をしています。
「放血して、出た血は瓶に入れりゃいいだろ。俺に任せな」
ガルムさんの【解体】スキルが役に立ちました。真っ赤なドラゴンの血がどんどんと瓶詰めされていきます。
心臓が止まっているはずなのにこうもうまく血抜きができるのは、スキルの力なのでしょう。フレルさんはまだ温かい瓶に頬ずりしています。
私たちはそれぞれの魔法鞄に、まるまる一頭のドラゴン素材を詰めて、村へと凱旋しました。
●
村に戻って体を清めた私は、クロウリーさんに手紙をしたためます。
拝啓
このたびは、当領地のダンジョンにてグリーンレッサードラゴンを討伐いたしました。
つきましては、当該素材の買い取りをご依頼申し上げたく、ご連絡差し上げました。
そのほかにも、希少と見受けられるダンジョン素材も確保しております。
また、王都におけるポーション不足の風聞に接し、心痛の念に堪えません。つきましては、当家に滞在する薬師に依頼し、新しい回復薬を大量に調合させました。
これもまたクロウリー様にご購入いただき、市場に流通させていただきたく存じます。
王都および各地でご尽力されている騎士団、魔術協会員、並びに冒険者の方々の一助となれば、幸甚に存じます。
つきましては、下記のいずれかの日程にご足労賜りたく存じますが、クロウリー様のご都合はいかがでしょうか。
四月◯日 ✕✕時〜
(以下、買い取り希望品目録)
敬具
ゼジリア・オルダー
クロウリー様
便箋を封筒に入れて、しっかり封蝋をし、クロウリーさんからお預かりした魔道具「手紙箱」に入れます。
蓋を閉め、次に開けたときには、手紙は消えていました。これで彼のもとに届いたはずです。
そして約束の日、クロウリーさんはやってきました。
集まったのは領主の館前です。本当は応接室にお招きしたかったのですが、お見せしたいものが多すぎて、室内には入りきらなかったのです。
屋外用の簡単なテーブルセットを庭に出し、ヴィオがお茶を淹れて応対してくれます。
季節は暖かい春、花壇もろくにない庭でしたが、薬草茶とお茶請けのサンドイッチには自信があります。
「領主様、お招きいただきありがとうございます。さっそく品物を見せていただけますか?」
影の中から現れたクロウリーさんは以前と同じく、ペストマスクを被った闇のような装いです。その表情はうかがい知れませんが、弾んだ調子の声から、彼が期待していてくれることがわかります。
「ええ。まずはこちらから」
私はフレルさんに目配せをします。フレルさんは台車にかけていた覆いを外します。荷台には、ポーション瓶が詰まった木箱が積載されています。
「まずはこちらが、従来品のポーションです。王都の騎士団にとってなじみ深い規格です。しかし! 回復効率は段違いです。スカンピアの新鮮な素材を使ったおかげです」
クロウリーさんは虫眼鏡をかざしてうなずきます。
「たしかに。使い慣れた品というのは、確実な需要が見込まれます。この数の供給があれば、騎士団は大喜びですね。……でも、これだけではないのでしょう?」
「もちろん!」
フレルさんは、別の台車の覆いを外します。そこには、先ほどと同じ木箱がありました。しかし、詰められている容器は、さっきよりも細いです。ダンジョン第二層で採れる「青銅竹」を節で切断して作った水筒で、ガラスの瓶よりも軽量です。
「こちら、新作の『スリムポーション』です。従来のポーションの三分の一の量で、同じ回復量が見込めます。味にもこだわった一品ですよ」
クロウリーさんは「おおっ……」と唸り、虫眼鏡で食い入るように
「素晴らしい! この軽い容器は、携帯性を重視したものですね。遠征に行く騎士たちが重宝しそうです」
フレルさんはとてもいい笑顔です。そして恭しく、最後の作品を取り出します。
それは抱えて持てる程度の箱に詰められた、手のひらに載る程度の小さな袋たちです。
「これはドラゴンの血液と骨髄、そして新種の薬草『スカンピア・ブルーミント』を使用した自信作です。形態は既存のポーションのような液体ではなく、丸薬です。大変回復効率がよいので、これ一粒で上級ポーション相当の効果があります」
「……これは、冗談が過ぎますよ。王都の騎士たちが泥水のようなポーションを奪いあっているというのに、ここには『命を凝縮した宝玉』が転がっている。
フレル先生、この丸薬一粒で、王都の最高級ポーション以上の価値があります。この携帯性……。戦場に持ち込めば、死神も仕事がなくて泣きだすでしょうね」
フレルさんは頭を下げ、「恐縮です」と謙遜します。




