28 フルメンバーでボス戦ですわ!
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「お出ましですわね……緑の暴君が」
色鮮やかな花々が咲き乱れる第三層の最深部。その美しさにそぐわない、大地を震わせるような重低音が響き渡りました。
茂みを割り、のっそりと姿を現したのは、鈍い緑色の鱗に包まれた巨躯――『グリーンレッサードラゴン』。
「グルァァアアアア……ッ!」
黄金の瞳が私たちを射抜きます。その咆哮だけで、空気の震えが肌に突き刺さるようです。
ですが、今の私は数日前の私ではありませんわ!
「皆さま、準備はよろしくて?」
私はドガンさんが丹精込めて作り上げてくださった『白檀の魔杖』を握りしめました。高級素材の滑らかな手触りが、不思議と私の震える指先を落ち着かせてくれます。
「いつでもいけますよ、お嬢様。……掃除の邪魔をする不届きなトカゲは、私が黙らせます」
ヴィオがパイプをくわえ、紫色の煙を細く吐き出しました。
その隣では、ガムルさんが巨大な『大鉄顎の斧』を肩に担ぎ、舌なめずりをしています。
「へっ、太い脚と尻尾……いい脂が乗ってそうだ。解体しがいがあるぜ」
「ううん、素晴らしい魔力反応……! あの鱗の隙間に生えている苔、研究用にぜひ欲しいですねぇ!」
フレルさんは相変わらずの変態……いえ、探究心溢れる笑みを浮かべ、聖杖を構えています。
そして、私のすぐ隣で、ドガンさんがハンマーを片手に、地面を強く踏みしめました。
「嬢ちゃん、魔力を溜めておけ! 隙はわしたちが作る!」
「ええ、信じておりますわ。……さあ、スカンピアの豊穣を邪魔するなら、お覚悟なさいませ!」
私は杖を掲げます。いざ、戦闘開始ですわ!
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「お嬢様、集中を! 【紫煙の支配者】」
真っ先に動いたのはヴィオです。
紫の煙がドラゴンの足元に絡みつき、動きを一瞬止めます。
しかし、ドラゴンの行動を止められたのは一瞬だけ。
ドラゴンは長く太い尾をしならせ、ヴィオに打ち付けます。
ヴィオはヒットの瞬間後ろに跳んで衝撃を殺します。しかしそこに、石つぶての追撃が……!
「【緩衝】! ヴィオさん、大丈夫ですか?」
フレルさんが素早く魔法を使い、ヴィオの周囲に風の障壁を展開します。石つぶては風に阻まれて、地面にぽとぽとと落下します。
「くっ……腐ってもドラゴンですね」
ヴィオが無事で私はホッとします。しかし、作ったばかりの革のドレスは大きく裂けていました。あの尻尾の棘は、相当斬れ味がいいようです。
「今じゃ!!」
「おうっ!」
ドガンさんとガルムさんが、ドラゴンの後隙を狙って同時攻撃を仕掛けます。
ハンマーと斧がドラゴンの鱗に食い込んだ――と思った刹那。
ガキィィイイイン!!
「なっ!?」
二人の攻撃はあっけなく弾かれてしまいました。
ハンマーが弾かれた反動で胴体ががら空きになったドガンさんに、ドラゴンはタックルを仕掛けます。
「ドガンさん! 今【治癒魔法】を……」
「わしはまだいける! 攻撃するんじゃ!」
ドガンさんが心配ですが、私はドガンさんを信じて攻撃を選択します。
「貫け! 【火槍】!」
ゴォォッ!!
私は魔法の炎を槍状に束ね、ドラゴンにぶつけます。
「グォォ……」
多少効いた手応えはあります。しかし、ドラゴンはまだピンピンしています。
「へッ、面白くなってきたじゃねェか……!」
ガルムさんは斧を握り直します。
「以前の杖ならこの量の魔力は、流した瞬間に爆発していましたが、この白檀の杖は、暴れ馬のような私の魔力を優しく……いえ、必死に食い止めてくれていますわ!」
私もみんなを励まします。
私たちは、ドラゴンを相手取れています。
戦いはこれからです!
「ヴィオ! わしが盾をやる!」
「……任せます」
前衛のフォーメーションが変わります。
ドガンさんがドラゴンの正面を受け持ち、ハンマーで頭を殴る作戦です。
ヴィオはドラゴンの背後に回り、ナイフを投げます。
さすが、ドガンさんの特製ナイフです。ダメージは針が刺さったようなものかもしれませんが、しっかりと刺さっています。
ガルムさんは懐から肉の塊を取り出し、口に入れて丸呑みします。
あれはアルミラージの肉です。ガルムさんのユニークスキル、【暴食の探求者】が発動します。
その効果は、食事をすることで一時的なバフを得るというもの。バフ内容はメニューによって変わります。アルミラージの肉を食べたガルムさんは、脚部に魔力を集約させます。
次の瞬間、ガルムさんは大きく跳躍。
グリーンレッサードラゴンの頭上を軽々と飛び越し、背中へと斧を振り下ろします。
「ギャァ!!」
「そのデカい図体なら、上から攻撃されたことなどないだろう!」
ドラゴンは大きなダメージを受けたようで、悲鳴を上げます。そして憎々しげにガルムさんを睨みつけ、特大の石つぶてを生成。
ガガガッ!
「ぐはッ……!」
ガルムさんは石つぶてを食らって吹っ飛びます。
倒れたガルムさんを、ドラゴンはさらにさらに踏みつけようとします。
「だめっ! 【火矢の雨】!」
ドォンドォンドォン!
いくつもの火球がドラゴンへヒットします。おかげでドラゴンは私にヘイトを向けてくれます。
たちまち、空中でドラゴンの魔力が凝り、無数の石つぶてへと変じます。
「【水鏡】!」
私に石つぶてが降ると思った瞬間、フレルさんが水魔法を展開。石つぶては鏡で反射され、何もない空中へと飛んでいきます。
「ギャォォ!! ギャォォオオン!!」
誇り高きドラゴンは、私たちがなかなかやられないのに焦れたのでしょう。空気が震えるほどの大声を上げます。
そして今までにない強烈な魔力の波動を感じます。
その次の刹那、燃える噴石の雨が、夕立のように降ってきたではありませんか!
「お嬢様!」
ヴィオが私に覆い被さります。
「ぐっ……」
「ヴィオ!」
噴石が収まってすぐ、私はヴィオに治癒魔法を使います。ヴィオの背中は火傷と出血でひどい様子でしたが、すぐに傷は元通りになります。
私は周りを確認します。
ドガンさん、ガルムさんは大けがをしています。フレルさんは倒れています。
助けに行きたいですが、彼らのいるところは治癒魔法の射程外です。
「まずはドラゴンです。お嬢様の魔力ならあいつを倒せます。私が時間稼ぎをしますから」
ヴィオが言い、私から体を離します。
そして血まみれのまま、両手にナイフを握ります。
私は侍女を、そして自分を信じることにしました。
「――星々の瞬きを束ね、悠久の熱をこの一指に。
全魔を以て一線を成せ」
私は全神経を集中し、詠唱をはじめます。
そのとき、ドガンさんが起き上がってハンマーを置き、ドラゴンに格闘を仕掛けます。
そしてがっぷり、両手両足でドラゴンの首にしがみつきました。
「【構造解析】!」
ドガンさんはドラゴンに対してユニークスキルを発動。そして右手をウエストバッグに突っ込みました。出てきた手には、二十センチほどのピッケルが握られています。
そのピッケルの刃の光沢には見覚えがありました。あれは、あのときの原石! オリハルコン製のピッケルです!
「ここじゃぁぁ!!」
ドガンさんはドラゴンの顎の下、いわゆる「逆鱗」と呼ばれる箇所に、ピッケルを突き立てました。
ドラゴンは激しく暴れ回り、周囲に首を、ドガンさんごと何度も打ち付けます。
ドガンさんはドラゴンから引き剥がされ、地面に倒れます。
「我が前に立ち塞がりし者を貫き穿つ、ただ一点の楔となれ!」
私は不安を抑え込み、詠唱を続けます。
それは唐突なできごとでした。
ドラゴンの動きが不意に止まったのです。
「準備は整いました。【影縫い】!」
ドラゴンの全身には、ヴィオの魔力の煙が張り巡らされていました。
その煙を繋ぎ留める楔となっているのは、いくつもの投げナイフです。
その千載一遇のチャンスをものにしたのはガルムさんです。
「逃がさねぇよ! 【斧術】奥義、【満月斬り】!!」
ガルムさんの斧が大きく円を描き、ドラゴンの尻尾を断ち切りました。
「この断面のサシ……最高だ!」
ガルムさんは獰猛な笑みを浮かべます。
怒り狂ったドラゴンは、ヴィオとガルムさんに大きな石つぶてを発射します。ヴィオは回避しますが、ガルムさんはまともにくらい、倒れてしまいます。
あわや全滅一歩手前。ですが私の詠唱は完了しました。
「放て――【熱光線】ですわあああ!!」
今まで私は、低いDEXを補うため、魔力を拡散させて面攻撃を行っていました。
しかし今回は、ドラゴンの厚い鱗を穿つため、私の最大出力を一点集中。ドガンさんが作ってくださった杖を構えて、当たってと祈ります。
「……くしゅんッ」
しかしなんということでしょう。
いざ発射というときに、舞い上がった花びらが、私の鼻にくっついたではありませんか。
私がくしゃみをした瞬間、魔法はあさっての方向へと発射されてしまいました。
――私はどうしてこうなのかしら。
私が絶望の沼に沈みかけたとき。
「さすがはお嬢様! 僕にトドメを刺せと仰るのですね!」
フレルさんは起き上がってはいませんでしたが、その手は丁字の杖を放してはいませんでした。
「【水鏡】、【万華鏡】」
何枚もの【水鏡】が空中に展開。私が放った【熱光線】が、【水鏡】を次々と粉砕しながら、何度も何度も反射していきます。
そして、ドガンさんが剥がした「逆鱗」の跡へ、はじめからそういう戦略であったかのように、きれいに吸い込まれていきます。
「――――!!」
【熱光線】はドラゴンの顎の下から脳天へ、一直線に貫通。
ドラゴンは悲鳴を上げる間もなく、即座に絶命したのでしょう。
今までの喧騒が嘘だったかのように、巨体がどさり、と静かに倒れます。
「……勝った」
ヴィオの呟きが私の耳朶に届きました。
それで私は、ハッと気がつきます。
「そ、そうですわ〜〜っ! 皆さまに回復を……!!」
かくして、私たち五人のはじめての戦いは、大苦戦の末見事勝利をおさめたのでした。
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