24 村人にお給料を払いますわ!
●
長く辛いスカンピアの冬は、いよいよ終わりが見え始めました。
私は領主の館の前で、大勢の村人の前に立っています。傍にはヴィオがいて、折りたたみテーブルがあり、その上にはいくつもの袋があります。
「ハンスさん」
「へい!」
「ジョニーさん」
「は、はいっ!」
「パウルさん」
「はい!」
私は村人を一人一人呼び、名簿を確認しながら袋を渡していきます。
今日は、この村で初めての「お給料日」です。
冬の間、私とヴィオ、ガヴさんは、この日のことをよくよく話し合いました。
そうして決まりましたのは、製塩やダンジョン素材の加工のような、今まで村で協力してやっていた仕事は「公共事業」とし、それに従事した人にはお給料を出すこと。
そのかわり、今まで村で用意していた福利厚生のうち、公衆浴場はそのまま。食事は「従業員への給食」という形にして、今まで昼と夜の二回配給していたものを、昼だけの支給にすること。
今まで全ての物資を村の共有財産とし、生活必需品を配給していたのは、スカンピアが貧しかったからです。少ないものを平等に分け合うことで、かろうじて命をつないでいたのです。
ですが、次の春からは違います。
ダンジョンから得られる資源は、その数と種類を順調に増やしており、製塩業も安定して高い需要があります。フレルさんの畑からは薬草を収穫できたので、それをならって村にも畑を作ろうという計画があります。村の畑は結界の魔道具がないため、季節に合わせた運用になりますが、村の食生活は格段に豊かになります。
また、クロウリーさんとの取引は、売るばかりでもなく、買うこともできます。クロウリーさんとのよい関係を続けるには、買うことも必要です。
つまり、この村の営みは、最低限の「生存」から、幸福を追求する「生活」へと発展したのです。
「これは施しではありません。あなたがたが働き、スカンピアを支えた正当な対価です。あなたがたは、これを貯めてもいいし、使ってもいいし、家族に与えてもいいのです。自分の考える『幸せ』のために、あなたがた自身の努力の結晶をどうしようとも、すべてあなたがたの自由です」
すべての袋を配り終え、私は言いました。
「これが……俺たちの金……」
村人の月給は、単身者は九ゴールド、子供や病人を養っている人は十五ゴールドです。使いやすいように、銀貨と銅貨でお渡ししています。金額はガヴさんと相談し、この地域の物価を参考に決めました。
王都の庶民の月給は二十から三十ゴールドで、これは一家四人が王都で慎ましく暮らしていけるくらいの値段です。ちなみに、スカンピア産バスソルトは一つ半ゴールド、すなわち銀貨五枚です。
村人は袋の中身を数え、ざわついています。ヴィオはその静寂を、鍋を麺棒でガンガン叩いて鎮めます。
皆さまが注目したのを見計らい、私は宣言しました。
「さぁ! 今日のイベントはこれからが本番ですわよ!! いよいよ、スカンピア青空市の開催ですわ!」
●
広場では、ドガンさん、ガムルさん、フレルさん、そしてアニーさんが、敷物や屋台をおいて、簡単なお店を開いてくれています。
ガムルさんのお店は精肉店です。アルミラージやフォレストボアの串焼きを売っています。
「うまい!」
「だろう? 気に入ったら肉を買って行ってくれ。隣のドワーフの店でフライパンを買えば、あんたもうまいものが作れるぞ」
「銀貨一枚でどれくらいの肉が買えるの? ええっ、こんなに?」
「王都だったら輸送費やら仲介料やらで、その半分くらいになっちまうぜ。この価格はスカンピア価格だ」
村人はまずガルムさんのお店で金銭感覚を身につけるというパターンができていますね。
ドガンさんのお店では、鍋や包丁、木工のおもちゃなどを売っています。
「その鍋は一生使えるぞ。今なら無料で名前を刻印するサービスをやっておる、どうじゃ」
「こいつはいい鍋だ。家にあるのは、ばあさんが嫁入り道具でもってきたボロボロの古い鍋だけでな、新しいのが欲しかったんだ」
ドガンさんには、長い間ただ働きをしていただいてしまっていました。彼女の仕事に正当な対価が支払われるようになったことに、私は安心を覚えます。
フレルさんは、化粧水やハンドクリーム、常備薬などを売っています。
商品を買った人には、切り花を一輪プレゼントしているようです。
「家にお花が飾ってあると、心が豊かになりますよ」
二日酔いの薬を買う方が多いようです。その理由は隣のお店にあります。
アニーさんのお店はクロウリーさんから仕入れた外の商品と、アニーさんが作った保存食です。
衣類やお菓子のような、村では手に入らないようなものの売れ行きがいいようですが、アニーさんがダンジョン産のハチミツで作ったジャムや、キノコの妖精の助けを借りて作ったチーズやパンも人気です。
「お父さん、今日はお酒を飲んでもいいわよ」
アニーさんがガヴさんに、クロウリーさんから買ったワインを注いであげています。
「わしらの稼ぎで、子供たちに飴玉を買ってやれる日が来るとは……」
酔いの回ったガヴさんは、ほんのり赤くなりながら涙ぐんでいます。
ワインに大喜びしている人たちを見ると、スカンピアでもワインを作れるようになったらいいな、とモチベーションが上がります。
みんなが思い思いのものを手にしています。
子供がドガンさんのおもちゃで遊び、大人たちがガムルさんの肉を頬張りながらワインを飲んで顔を赤らめています。
村人たちのもらったばかりの銀貨は飛ぶように使われています。
まだ寒いスカンピアの空ですが、ここだけはもう春が来たような熱気に包まれています。
「みんな、自分のお金で、自分の好きなものを選んでいますわ……」
「……悪くない景色ですね。お嬢様の『わがまま』も、ここまで来れば大したものです」
ヴィオも、フレルさんのお店で、ちょっといいハーブティーを買ったようです。
「みんなが『自分で選んで』笑っていますわ……これこそが、私の見たかった景色です!」
私は目頭が熱くなりました。でも、まだ仕事が残っています。
「みなさま~~! 本日のメインインベントですわよ!! このスカンピアで作られた、初めてのエールです!!」
私の合図で、フレルさんが樽を運んできました。フレルさんが育てたホップと、ダンジョンで見つけた麦、そして酒造の妖精の力で作ったエールです。
それに一番狂喜したのは、もちろんドガンさんです。
「おいトカゲ! 肉を焼け! わしは肉をつまみにこのエールを飲むんじゃ!」
「うるせェドワーフ! こっちはまだ商売中だ、並びやがれ!」
ドガンさんはお店をほっぽりだしてエールを受け取っていますが、誰も怒る人はいません。ドガンさんがどれだけエールを楽しみにしていたのか、村のみんなが知っていたからです。
そんな楽しい雰囲気の裏で、不穏の気配が迫っていたのに、私は気づきませんでした。
「チッ……なんだあの村は。ごみ捨て場の分際で、肉を食って酒だと?」
木陰から様子を伺っていた男は、不快そうに唾を吐き捨てました。
「家畜が人間様の真似事か。……まあいい。殿下の命令だ。あの笑顔が絶望に変わるツラを拝ませてもらおうか」
特定厨がこの村の存在に気づいたのです。彼の気づきが変態的な速度であったとしても、遅かれ早かれこの村のことは広く知られることとなったでしょう。
スカンピアで騒動が起きるのは、もう少し先の話です。
【ゼジィ】
レベル:8→12
HP:47→51
MP:570,000→620,250
STR:3→4
VIT:6→7
INT:62→85
DEX:2
AGI:4
LUK:999
スキル:
・ユニーク
【災い転じて福と為す】
失敗行動が高確率で「良い結果」に変換される。
・一般
【火魔法lv4→6】【治癒魔法lv2→3】【身体強化lv2】【浄化】【水魔法lv1】New!
称号獲得:『資本主義の母』
【ヴィオ】
レベル:13→15
HP:690→720
MP:95→110
STR:48→54
VIT:53→59
INT:39→45
DEX:67→75
AGI:82→108
LUK:16→20
スキル:
ユニーク
・【紫煙の支配者】
吐き出した煙の成分や形状を自在に操る固有魔法。
・一般
【上級投擲術lv1→2】【身体強化lv7】【暗視】【短時間睡眠】【気配遮断 lv1】
【ドガン】
レベル:48→49
HP:3,500→3,570
MP:200
STR:850→875
VIT:920→947
INT:150→152
DEX:1,200→1,224
AGI:40→41
LUK:120
スキル:
ユニーク
・【 超速加工】
資材さえあれば、一瞬で加工・建築を行う。
・【構造解析】
対象に魔力を浸透させることで、建物や道具、あるいはダンジョンの構造を解析できる。
・一般
【上級槌術lv1】【上級鍛冶lv1→2】【上級建築lv2→3】【鑑定lv4】




