23 スライムコンポストで循環農業!
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それからしばらくしたころ、私は村でお昼ご飯を食べていました。
今日のメニューは、ガムルさんが作ったソーセージを焼いたものです。ガムルさんが来てから、食べ物の捨てる場所はグッと減りました。処理の難しい内臓肉も、濃い味のスープで煮込んだり、刻んで挽き肉にしたりして、とても美味しく食べられます。血もソーセージやプディングにすれば案外食べられるものですね。
村人みんなに食事が行き渡った後、ガムルさんはバケツを下げて通り過ぎていきます。そして大きな樽にバケツの中身を入れました。
バケツで運んでいたのは、汚れた毛や膀胱など、肉の捨てるしかない部位です。樽の中にはスライムが入っています。この樽は、フレルさんが設計し、ドガンさんが作ったものです。
ガムルさんがドサリと内臓を投げ込むと、樽の中のスライムたちは「待ってました!」と言わんばかりにポヨンと跳ね上がり、獲物を包み込みました。
見る見るうちに生ごみが消化され、透明でサラサラした液体肥料へと変わっていきます。お腹いっぱいになったスライムたちは、心なしか艶々として満足そうです。これなら、臭い匂いも出ませんし、誰もが幸せになれる完璧なリサイクルです。
ガムルさんは、次は魔物の骨を運んでいます。向かった先はドガンさんが作った粉砕機です。魔石で動作するそれは、轟音を立てて骨を粉々にしました。
なぜこのようなことをしているかといいますと、村に畑を作るためです。
フレルさんはこの村に住むにあたって、薬草畑を作りたいとおっしゃいました。
「この土地は死の土地ですよ」
と、ヴィオはもちろん指摘しました。しかしフレルさんはこう答えたのです。
「この土地は死んでなどいません。植物の魔素耐性はさまざまで、中には魔素が強い土地でも育つ子もいます。ダンジョン産や、僕が研究・品種改良した種で、スカンピア並みの魔素濃度でも育つ植物たちを連れてきています」
フレルさんはいくつかの種や苗を持ってきていました。そして、季節を問わず植物を栽培するための、内部の温度や光量をコントロールする結界の魔道具も。この種苗と結界は、常に起こりうるありふれたけがや病気に対応するための、薬師として常に持っておく必要のある最低限のものだそうです。
魔物肉ばかりの食事では栄養が偏ります。もし、村に畑ができたら、村がもっと栄えます。薬師のフレルさんが薬を作ってくだされば、村人が病になっても対応できます。
ということで、土壌の改良のための肥料を作るため、生ごみをスライムに分解させたり、骨を粉にしたりしていたのです。
「お嬢様〜! 手を貸していただいていいですか?」
フレルさんが呼びに来ました。
「なんですの?」
「焼却してほしいものがあるんです」
フレルさんは、畑予定地にいろいろなごみを広げていました。ごみの山では、キノコの妖精たちが遊んでいます。この村に遊びに来るキノコの妖精はこのように、スライムと同じくごみ処理を手伝ってくれています。
「ここの土は、雑菌やキノコたちの胞子がついています。お嬢様の【火魔法】で焼却して消毒していただけませんでしょうか?」
「フレルさんは【火魔法】はお使いになりませんの?」
エルフは魔法に長けた種族です。私は聞いてみました。
「僕が取得しているのは【水魔法】と【風魔法】なんです。【火魔法】はどうにも相性がよくなくてですね」
そういうことなら、と、私は詠唱します。フレルさんその間にキノコたちを避難させます。
「燃やし尽くせ、【火柱】!」
畑の面積を覆うくらいの範囲に、私は炎を展開します。
土から白い湯気が立ちます。土中の水分が蒸発し、畑全体が蒸し焼きになっているようです。
「バッチリです! 灰ごと土を耕せば、立派な畑になるはずです」
そこにドガンさんが農具を抱えてやってきました。
「頼まれていた農具ができたぞ!」
「わァ~い♡ ありがとうございます♡」
フレルさんはドガンさんから鋤や鍬を受け取り、ウキウキと土を耕しました。
「おいエルフ。『ホップ』というやつの栽培はうまくいくんじゃろうな?」
ドガンさんはフレルさんに確認します。エールはグルートという、ブレンドハーブによって香味付けされます。グルートには、ヤチヤナギやローリエが使われます。が、この健胃や抗菌の作用を持つホップという薬草を使うと、エールの品質が飛躍的に上昇するとフレルさんはおっしゃいました。
「もちろんです! ドガンさんに、今までにないおいしさのエールをお約束しますよ!」
フレルさんが心強くいったことで、ドガンさんは上機嫌になり、一緒に畑を耕し始めました。
ドワーフとエルフは仲が悪いというステレオタイプがありますが、ここでは当てはまらないようです。
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さらに数日後。フレルさんの畑は思うように植物が育っていませんでした。キノコの妖精たちが、しおれた植物を取り囲んでざわついています。
「わしのホップはどうなってしまったんじゃ?」
「ううん……、何がいけないんでしょう?」
フレルさんのユニークスキルは【植物の声】。植物とお話しできるスキルです。しかしお話しできたとして、植物が自分で自分の状態を正しく申告できるとは限らないようです。
「症状から推測するに、お水が合ってないのかな……」
フレルさんはごみ処理器から、スライムが作った肥料を汲み取り、水に溶かしてじょうろで撒いています。ごみ処理の樽から、スライムがポヨンと飛び出てきます。スライムも心配してくれたのでしょうか?
「危ないので、出てきちゃダメですよ」
ヴィオがスライムのほっぺたをつつき、優しく抱き上げて樽に戻します。
「この水じゃないのが欲しいみたいです。そうだ! 【水魔法】の水を試してみましょう」
フレルさんは「【飛沫】」と唱えます。細かい水飛沫が畑に広がります。
すると、しおしおと地面に倒れていた植物のうち一本が、ピンッと真っ直ぐに立ちました。
「おぉ! 反応がいいですね。もう少し撒いてみましょう」
「私もやりたいですわ! フレルさん、教えてくださる?」
「いいですよ。【水魔法】のコツはですね……」
フレルさんは【水魔法】の使い方について、丁寧に教えてくれました。
「まず魔力を練って、属性を【水】に。それから魔力を魔法に変換……」
属性が違うだけで、【火魔法】とあまりかわりはないという手応えです。在学中にスキルは生えませんでしたが、しっかり熟練度はたまっていたようですね。
「清き水よ、弾けて潤せ! 【飛沫】」
「お嬢様! 魔力を込めすぎです!!」
ヴィオが止めたときにはもう魔法は発動していました。大量の水飛沫が出現し、畑にだけ大雨が降っているかのようです。
「わぁぁ! 植物さんたちが溺れてしまいます! ……あれ?」
ぽん。
ぽぽぽぽぽん!
ニョキニョキニョキニョキ!
植物たちの様子が何か変です。急に芽が出たり、伸びたりしています。
お花が咲いているのもあれば、この草こんな色でしたっけ? というのもあります。
キノコの妖精たちも、なんだか嬉しそうに踊っています。
「お嬢様の濃すぎる魔力で、植物さんたちが変異しちゃったみたいです!! つまり……こ、これぇ……全部新種ってことですかァ?!」
フレルさんは大きく成長した植物の葉を摘み、一通り観察すると、それを天に掲げてひざまずききました。
「ホップも生きておる!! なんと美しい緑色じゃ!! おぉ、支柱が欲しいのか……今作ってやるぞ」
ドガンさんもその横にひざまずきます。ドガンさんに【植物の声】はないはずです。幻聴が聞こえているのでしょうか?
「お嬢様は、女神です……!」
フレルさんはガンギまった目で私を見つめます。そのお目々の光りようは、閃光弾のごとしです。この日以降、フレルさんは前よりもっと気持ち悪くなりました。




