22 村に帰ったら○○○が落ちていました
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村に帰ると、入り口前に青年が倒れていました。その全身は土にまみれ、とくに手がひどく汚れています。
ここはドガンさんが作ってくれた防衛用の高い柵があって、村からはちょうど死角になっています。村人たちは作業所に詰めているということもあってか、まだ誰も彼に気づいていないようです。
「もし、あなた。いかがいたしましたの? おけがをなさっているのなら【治癒魔法】を……」
倒れている人に近づいて、私は息をのみます。
緑がかったまばゆい金の髪、極上のシルクのような白くきめ細かい肌。すらりとした体躯は彫刻のように均整が取れています。
顔を地面に伏せるようにして倒れているので、顔立ちこそわかりませんが、何よりも、長く尖った耳が彼の出自を語っています。まだ後ろ姿しか確認していないとはいえ、このように美しい男性を、私は見たことがありません。
「この方は、森の民……?」
私は一瞬ぼうっとしましたが、すぐにやろうとしたことを思い出します。
「もし、しっかりなさって!」
私は彼を抱き起こそうとしました。すると、青年はカッと目を見開き、私の腕を掴みました。
彼の目鼻立ちは計算し尽くされたように左右対称で、長く密で繊細なまつげに縁取られた瞳は、ペリドットのように高貴な深い緑色です。彼はどこか焦点の合わなかった目を数度まばたきさせました。そして宝石のような緑の瞳と目が合います。なんて美しい方でしょう。まるで物語の王子様か、精霊の落とし子のような……私は思わずときめいてしまいました。
しかし、その整いすぎた唇から漏れたのは、甘い言葉ではなく――。
「……スゥーーッ! はぁぁ……たまらない……この腐葉土と鉄分が混じり合った、最高にドブ臭い香り……!」
「ひぃっ!?」
前言撤回ですわ! この方、変な人です!
彼は私の腕に顔をくっつけています。肌の香りではなく、私の服に付着した泥の匂いを、うっとりとした顔で吸い込んでいるのです。
彼の瞳は、瀕死どころか、獲物を狙う肉食獣のようにギラギラと輝いていました。
え? この方もしかして……、さっきまで倒れていたのではなく、地面の匂いを嗅いでいたのですか……? 私の頭が理解を拒みます。
「やっと……見つけました……このバスソルトの生産地を……!」
彼は手に持った袋を掲げます。その袋には見覚えがあります。クロウリーさんに納品した、スカンピア産のバスソルトです。
「ま、まさか……」
私は嫌な予感を覚えました。
「あなた、『草マニア』さん!?」
「ご存じいただいておりましたようで、なによりです! 僕、『草マニア』こと、元・宮廷薬師のフレルともうします!!」
ぎゃ~~っ!! 来ちゃいましたわ!! この方、【セカンド・チャンネル】で特定厨をなさっていた方ですわ!
私は彼――フレルさんの美しさなんてどうでもよくなってしまいました。ただただ、背中に悪寒が走ります。
「これ!! この梱包材のおがくず、間違いなくこの村で採れた木ですよねぇ!? 僕にはわかるんですよ! 後生です、この村に住まわせてください! 僕、ここに骨を埋める覚悟で辞表を出して来たんです!!!」
「お嬢様から離れなさい、下衆が」
ヴィオが私とフレルさんの間に入ります。しかし、フレルさんはヴィオが背負っている袋や、肩に乗っていたキノコの妖精を見て、さらにテンションをブチ上げます。
「その袋から飛び出ているのは『青銅竹』じゃないですかッ! それに『ベニテングタケの妖精』に、『ヒトヨタケの妖精』まで!? ここは宝の山ですか!?」
フレルさんの圧にヴィオがドン引きしています。しかし、ドガンさんはフレルさんの博識さに目を留めたようです。私のフードからキノコの妖精を抱き上げて、フレルさんの目の前に突き出します。
「おぬし、このキノコの中に酒を造るやつがおるかわかるか?」
フレルさんがまじまじと妖精さんたちを観察します。至近距離からのなめ回すような視線に、妖精たちはおびえています。
「ふむふむ……。この子は……! 新種の酵母茸の妖精さんではないですか!? 学名は『サッカロマイセス・フェアリー』とでも名付けましょうか。王都に報告したら……が、学会が大変なことになります!!」
妖精たちは「キャ~!」と叫んで私とヴィオの後ろに隠れます。ドガンさんはニヤニヤと笑っていますね。私はドガンさんの気持ちを察しました。
「フレルさんと言いましたわね。あなた、この村で酒造を手伝ってください。そういたしましたら、ここに住むのを許……」
「是非もありませんッ! ここに住めるのなら、酒造でも便所掃除でも、なんでもします!」
お返事は食い気味でしたわね。ドガンさんはガッツポーズをしています。私は多少村の治安に心配を覚えましたが、スカンピア産の銘酒の誕生を予感し嬉しく思っていました。
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