17 スカンピア村の新名物! 身も心も整いますわ
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部屋に充満する濃密な白い霧で、視界が白くぼやけます。
階下からは「ゴボゴボ」「グツグツ」という重低音が響きます。
パイプからシューッと吹き出すのは、熱々の蒸気です。
煮詰まった海水の濃厚な潮の香りと、燃料の木が燃える香ばしい煤の匂い。
「はぁ~~っ、極楽ですわぁ……!」
私は新しくスカンピア村に作られた施設「蒸し風呂」で究極の癒やしを味わっていました。
スカンピア産の塩は、嬉しいことに好評を博しております。
今までは、日光と風で海水を自然乾燥させるという方法で製塩しておりましたが、それだけでは需要を満たすことができず、釜炊き――つまり、お鍋を火にかけて海水を煮詰め、結晶化してきた塩をすくいとるという方法を併用するようになりました。
そして、それには薪をガンガン使用します。木材はダンジョンからも採れるとはいえ、この寒涼な気候のスカンピア。熱というのは大変に贅沢なものです。その熱を捨てずに再利用するために考案されたのが、この「蒸し風呂」なのです。
この施設は二階建ての構造になっております。
一階の作業所では、巨大な軽銀のお鍋で、海水をグラグラと煮詰めています。
二階ではいくつかの温浴施設が楽しめます。
釜の煙突を二階の床下に這わせることで、床がポカポカに温まった部屋。ここに寝そべりますと、と~~っても気持ちがいいのです! 腰痛に効くらしく、ガヴさんのお気に入りです。
別の部屋では、蒸気をパイプで引き込んで、スチームサウナが楽しめるようになっています。私のイチオシこそ、このスチームサウナです。
「生き返りますわ〜。お肌がツルツルになりますのよね」
私は肌を伝う玉のような水滴を拭います。毛穴の一つ一つが開いて、体の中の悪いものが全て流れ出るようです。
「海水の蒸気には、喉や鼻を潤す効果もあります。ダンジョンの埃っぽい空気で痛めた気管支によいですね」
私もヴィオも、温まってほんのりと桜色になっています。
この新築の木材の匂いもリラックスできていいのですよね。
「蒸し風呂もいいが、わしはまた湯船に浸かりたいのう……!」
ドガンさんはお湯を張ったお風呂がお好みのようです。
温めた海水に浸かる「潮湯」の美肌効果は素晴らしいですが、海水を汲み上げるのは危険が伴う作業であることは、今も違いありません。村全体で話し合い、潮湯は十日に一度と決まりました。
「いっそ、ダンジョンから温泉が湧いたりせんかのう。ついでに風呂上がりのエールも欲しい。エールの材料が手に入れられるなら、わしがいくらでも醸造設備を作ってやるのにのう」
ドガンさんは悔しそうに言います。
「酒造ができるようになったら、スカンピアは一層潤いますわね」
「私はエールよりワインのほうが好みです」
「ですが、お酒を作るには、どうしたらいいんですの?」
「私も詳しくは知りません。が、『酒造りの妖精』の話は聞いたことがあります。キノコの傘のような帽子をかぶった小妖精で、麦や果物と引き換えに、お酒を醸したり、パンを膨らませることを手伝ってくれるそうです」
ヴィオが言いました。私も聞いたことがあります。私の乳母だったヴィオのお母様が、幼い頃にそのような絵本を読み聞かせてくれた思い出があります。古い酒樽やパン種に宿る、短い手足の妖精の挿絵は、大変可愛らしいものでした。
「ふむ。このダンジョン、もっと下層に行けばジメジメした『キノコの森』みたいなエリアがあるかもしれん。そこなら、特殊なキノコやキノコの妖精が見つかる可能性はあるぞ」
「キノコ……。もし見つかれば、パンも美味しくなりますし、お薬作りにも役立ちそうですわ!」
まだ見ぬ美酒と美食に思いを馳せながら、私たちは白濁した蒸気の中で、新たな冒険の予感に胸を躍らせるのでした。
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