16 人の金で開催するパレードは楽しい
●Side リリア
私はリリア・クレイ。
身分は男爵令嬢だけど、この国の王子であるアルフォンス様に見初められ、絶賛「聖女」として売り出し中のヒロインよ。
アルフォンス様が第九王子であることが少々不満だけど、イケメンだし、許容範囲のうちだわ。
今日は王子と一緒に、王都の一等地にある高級ブティックにやってきたわ。
もちろん店頭でうろつくなんてことはしない。革張りのソファのある応接室で、香り高い紅茶と甘いお菓子を出され、のんびり商談をするの。
王子は私を溺愛していて、気前よくお金を使ってくれるわ。
「リリアに似合うものは全て持ってこい」
王子が店員に男らしく命じると、店員はたくさんのドレスを持ってくる。
もちろんこのドレスはサンプルよ。私には既製品なんて似合わない。着るものは全部オーダーメイドと決めているわ。
「聖女様が今お召しのドレスも素敵ですわね。繊細なレースが聖女様の清楚さを引き立てていますし、光沢のある淡いピンクの生地がミルクティー色の髪によく似合っていますわ」
デザイナーは私を褒め称えながら、次々と体にドレスを当てる。
「このホワイト・ファーの襟巻き、と~っても可愛いですわ! 真っ白で、ふわっふわで……! それに嫌な獣臭さが全くありませんの!」
「お目が高い。こちらは最近、謎の卸売業者から仕入れた最高級品でして。特殊な製法でなめされているため、いつまでも白さと柔らかさが持続する『魔法の毛皮』と呼ばれているのです」
「まぁ素敵! 私のような清らかな聖女にぴったりですわね!」
私は隣に座る王子にしなだれかかって甘える。
「アルフォンス様ぁ、このドレス素敵ですけど……お値段が……」
「構わん。購入するといい」
「嬉しい! ……でも、これに合う靴は持っていませんわぁ」
「なんだ、そんなことを気にしているのか。靴くらい安いものだ。なんなら、鞄もそろいであつらえるように」
私は少しでも気に入ったものは、全部おねだりしちゃう。王子はそんな私のお願いを、全部聞いてくれる。
「こんなにたくさぁん♡ でも、大丈夫ですかぁ……?」
「問題ない。金ならある」
王子はアンティークのローテーブルの上に、革の袋をドスンと置いたわ。その中にはみっしりと金貨が詰まっている。あの袋の大きさなら、五百枚は入っているのではないかしら。
「辺境に追放した『あの女』が、必死に泥をすすって稼いだ金だ。あいつにはお似合いの使い道だろう?」
それを聞いて私は「きゃぁ!」と歓声を上げたわ。
「ゼジリアは可愛げのない女だったが、金を生む家畜としては優秀だったようだな」
王子の元・婚約者が悔しがっている顔が思い浮かぶ。あの女の涙は、同じ大きさのダイヤモンドよりも、私を惹きつけてやまない。
「ゼジリア様も、私たちの祝福のために働けて幸せよね? だって私は聖女ですもの」
ドジでみっともないあの女は、地面に這いつくばって働くのがお似合いだわ。そして私のような可愛くて誰からも愛される女の子は、素敵な王子様に守られて着飾るのが世界のため。
「そんなことよりも、愛しいリリア。来月は聖女のためのパレードがある。そのときに着るドレスはどれにする?」
「それはもちろんこれですわ!」
私はこのお店で最も高価な、オプションマシマシのドレスを体に当ててくるりと回る。
これは最高級のシルクで仕立てられて、パールとダイヤモンドをたっぷりと飾った、聖女らしさ抜群の、私のためにあるようなドレス。
ああ、他人が汗水垂らして働いたお金で開催するパレードとは、どうしてこんなにもテンションが上がるのかしら!
「せっかくですから小物や化粧品も新しいものが欲しいですわ。香水もいいですが、最近話題のバスソルトも素敵ですわね。浴用の化粧品のほうがさりげなく香って、より私の魅力が引き立つと思うのです」
王子と私は楽しく談笑しながらデザイナーとうちあわせをしたわ。そこに無粋にも、血相を変えた執事が飛び込んで来た。
「で、殿下! 大変です! オルダー領から『絶縁状』が……!」
執事が持ってきた手紙には、あの女の家紋の封蝋が施されていた。王子は封筒の中身を広げ、視線を何度も往復させる。みるみるうちに王子の首筋は赤くなった。
「はあ!? 家畜が飼い主に逆らうだと!?」
王子は怒りで手紙を握りつぶした。
「えっ……? じゃあ、このドレスは買えませんの……?」
私がつぶやくと、すぐに王子は優しい顔に戻って、私の頭を撫でて言ってくれたわ。
「リリア、大丈夫だ。今年の分の王子妃のための予算はきちんと支払われている。そうでなくとも、リリアのための費用であれば、私の予算から出してやるとも」
「まぁ! 王子、だ~~いすき♡」
私は王子に抱きつく。さすが一国の王子の経済力は、他の男性とは段違いね。
私はドレスが買えるのならなんでもよかったのだけど、王子は面子を潰されたことがたいそう不愉快だったよう。
「ふん、どうせ『支払いを拒否する』と言えば、私が慌てて止めに来るとでも思ったのだろう。気を引くための浅はかな駆け引きだ」
王子は歪んだ笑みを浮かべ、手紙を丸めてゴミ箱に投げ捨てた。
「ゼジリアめ、後悔させてやる……! 泣いて縋ってきても、二度と許してやらんからな」
王子の怒りを買ってあの女がもっとひどい目に遭うのなら、それはそれで愉快かも。
楽しみね。




