13 はじめてのボス戦ですわ!!
●
回廊の最奥に着くと、そこには大きな鈍い銀色の、両開きの扉がありました。
「これは重そうですわぁ〜!」
「これはいわゆるボス部屋と思って間違いないじゃろう」
「お嬢様は下がってください。お嬢様にこんな扉を開けさせては、指を挟んで大けがをしかねません」
ヴィオはそう言って私を下がらせ、ヴィオとドガンさんが、扉を片方ずつ押します。
「……あら?」
「おぉっ……、意外と軽いのう?」
二人は扉がすんなりと開いたことに違和感を覚えたようです。
「ヴィオ。おぬし、ボスと戦うときは、そいつをやめたらどうじゃ? 集中力が削がれやせんか?」
ボス部屋に入る前、ドガンさんがヴィオのパイプを指して言いました。ドガンさんも、ヴィオが吸っているのは薬草の煙を扱う魔道具だと知っています。
「ご指摘は感謝しますが、これは必要なものなのです」
ヴィオはその後説明を続けようとしますが、そこで言葉を切りました。数秒遅れて私も気づきます。吹き抜けの天井のはるか上から何かが迫っている音が聞こえます。
「……来ます。速いです」
ガンッ、ガキン! ドガァァーン!!
上空から銀色の流星のような影が降ってきて、金属の床に着地しました。金板に重量物を思い切り叩きつけたような轟音で耳が痺れます。
フロアの中央に立っていたのは、身長二メートルほどの動く鎧でした。
それは既知の動く鎧のような、古風な隙間だらけの全身鎧ではなく、継ぎ目の見えない異様な姿をしています。その右手に構えられた鋭利なレイピアがなければ、動く鎧だとは思わなかったでしょう。
これでは、今までのように関節を狙う作戦は通りません。
「【鑑定】! 種族名は『軽銀騎士』!!」
「名付けるなら『シルバー・シュヴァリエ』と言ったところでしょうか」
ドガンさんはハンマーを構え、ヴィオは指に数本のナイフを挟みます。私も杖を握りしめました。
真っ先に動いたのはドガンさんです。
「おらぁぁっ! 先手必勝じゃ!!」
ブォン!!
「なっ……空振りじゃと!?」
慣性に逆らわず、大きく数歩進んでドガンさんはターンします。ドガンさんの攻撃直後の隙を狙って、シルバー・シュヴァリエはレイピアを突き出します。そこでヴィオが投げナイフで援護しました。
ドガンさんはかすっただけで済みました。しかしヴィオのナイフはシルバー・シュヴァリエには当たらず、床に突き刺さります。
「……残像、ですね」
ヴィオはもともと鋭い目をすがめ、さらに細くます。ヴィオの目で捉えきれないほど速いとは……!
「避けるのならば、面で押しますわ! 【火矢の雨】!」
私はスキル【火魔法】で小さな火球を大量に召喚し、広い範囲に降らせます。真っ赤な流星群さながらの魔力コストを度外視した攻撃を、シルバー・シュヴァリエは避けきれず、被弾した箇所が赤熱しました。
「熱ッ!!」
シルバー・シュヴァリエは動揺を見せ、内部に宿った霊体がゆらめきます。しかしすぐに鎧は冷えたようで、体勢を立て直します。
生物であれば、私の火魔法で火傷を負えば、しばらく継続ダメージがあるものです。しかし、シルバー・シュヴァリエには、そのバッドステータスの耐性があるようです。
シルバー・シュヴァリエが熱で慌てた隙を、ドガンさんは見逃しませんでした。ドガンさんはハンマーを大上段に振りかぶり、シルバー・シュヴァリエに肉薄します。
「【兜割り】ィ!」
ガォォン!!
ドガンさんの渾身の一撃を、シルバー・シュヴァリエは組んだ腕で受け止めました。数秒の押しあいの後、シルバー・シュヴァリエはドガンさんを蹴っ飛ばしました。
ゴォォォン!
ドガンさんは後方に吹っ飛び、金属の壁に全身をしたたかに打ちつけました。頑丈さを誇るドガンさんと言えど、あのようなひどい音がするほど強く打たれては無傷ではないでしょう。
「ぐぅ……っ!」
ヴィオが動けないでいるドガンさんのカバーに回ります。
「お嬢様! 治癒魔法を!」
私はすぐにドガンさんに駆け寄ります。
「【回復】!!」
緑色のぽわぽわした光がドガンさんを包みます。
そのとき、シルバー・シュヴァリエは私を睨みつけました。回復持ちであることを知って、撃破の優先順位を上げたのでしょうか。まっすぐ私に向けられたレイピアが高速で動きます。
斬られる! と思った瞬間、シルバー・シュヴァリエはその場で静止しました。
「間に合ったようです」
ヴィオの吐き出す煙が魔力を帯びて紫色に光っています。
「私のユニークスキル、【紫煙の支配者】は、すでに鎧の中まで制圧しています」
ヴィオのユニークスキルは、煙を操る能力です。魔力を乗せた煙は、鎧のわずかな隙間から内部へと侵入し、シルバー・シュヴァリエの動きを完全に止めていました。
首と胴体の間、膝や肘の部分から、紫色の茨のような実体化した煙が伸びて、全身に絡んでいます。
「お嬢様、お肉を焼く要領です! あの鎧を『強火』で!」
「わ、わかりましたわ!」
私は今使える【火魔法】の中で最も攻撃力の高い魔法を詠唱します。
「紅蓮の魔力よ、我に応えよ! 大気に満ちる熱量を束ね、一点に集え! ――【燃焼】! 丸焼きになりなさいっ!!」
ゴォォ!
シルバー・シュヴァリエの足下から巨大な炎の柱が立ち上ります。
シルバー・シュヴァリエはみるみるうちに全身を赤熱させ、中にいる霊体が苦しみ悶えます。
「仕上げじゃあぁぁ!!」
立ち上がったドガンさんが、魔力を全身にまといます。濃密に練り上げられた魔力はハンマーを覆いつくし、小さな太陽のように迫力を増します。
ドガンさんは筋肉を引き絞り、高く跳躍しました。
「【槌術】奥義その二・【隕石落とし】!!」
グシャアアッ!!!
破壊力を数弾も増したハンマーを、ドガンさんは真上から振り下ろしました。真っ赤になって柔らかくなっていたシルバー・シュヴァリエは、超高圧のプレスに耐えられず、一枚の板のようになりました。そして光の粒子となって空中に消えていきました。
「や……やりましたわ〜!」
私は歓声を上げます! 三人の連携の勝利です。私たちの誰が欠けても、こうはならなかったでしょう。
「ドロップ! ドロップじゃ!! ……おぉっ、これは!!」
ドガンさんは焦げ跡の中心、シルバー・シュヴァリエがいたところに駆け寄ります。
そこには、鈍い銀色の板と、八面ダイスのような形の手のひら大の塊が十個に満たない程度の数、落ちていました。
「こ、これは……『軽銀』? ミスリルよりも軽く、熱伝導率は金に匹敵する……古代文明の遺跡からしか出土しない幻の金属じゃ!」
ドガンさんは金属の板に狂喜して、抱きしめたり頬ずりしたりしています。あれは、ドガンさんの取り分ですね。
ヴィオはしゃがみ込んで結晶のほうを拾い上げます。
「そしてこちらはミョウバンですか。しかも、クロウリーさんにいただいたものよりずっと大きい……お嬢様のLUKの賜物でしょうか」
「これで、お鍋も毛皮も作り放題ですわ!」
かくして私たちは大戦果とともにスカンピア村へ帰ることとなりました。
【ゼジィ】
レベル:6→8
HP:46→47
MP:550,100→570,000
STR:3
VIT:5→6
INT:54→62
DEX:2
AGI:4
LUK:999
スキル:
・ユニーク
【災い転じて福と為す】
・一般
【火魔法lv3→4】【治癒魔法lv1→2】【身体強化lv2】
称号獲得:『軽銀を溶かす者』『一攫千金』
【ヴィオ】
レベル:12→13
HP:650→690
MP:80→95
STR:45→48
VIT:50→53
INT:35→39
DEX:60→67
AGI:70→82
LUK:15→16
スキル:
ユニーク
・【紫煙の支配者】
吐き出した煙の成分や形状を自在に操る固有魔法。
・一般
【投擲術lv8→9】【身体強化lv5】【暗視】【短時間睡眠】【気配遮断 lv1】New!
【ドガン】
レベル:48
HP:3,500
MP:200
STR:850
VIT:920
INT:150
DEX:1,200
AGI:40
LUK:120
スキル:
ユニーク
・【超速加工】
資材さえあれば、一瞬で加工・建築を行う。
・【構造解析】
対象に魔力を浸透させることで、建物や道具、あるいはダンジョンの構造を解析できる。
・一般
【槌術lvMAX】【上級鍛冶lv1】【上級建築lv2】【鑑定lv4】




